スクリーンで巡る、もうひとつの香港~郊外を旅する3本

スクリーンで巡る、もうひとつの香港~郊外を旅する3本

「香港旅行」と聞いて思い浮かぶのは、香港島の高層ビル群や飲茶・スイーツなどのグルメといった市街地観光の楽しさかもしれない。昨年日本でもヒットした映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の人気で映画ゆかりの地を訪れる日本人旅行者も増えたという。映画ファンの間で、にわかに再燃している香港人気。都会的なイメージがあるが、実は山々や離島の美しい景観が楽しめる自然豊かな土地でもある。

また、九龍から中国との境界にかけて位置する新界地区には地元の人々の暮らしが垣間見えるベッドタウンが広がり、観光客で賑わう市街地のイメージとは別の顔を持っている。円安が続き、海外旅行のハードルがぐっと上がった昨今。そんな香港のひと味違う郊外の風景が楽しめる3本の映画を紹介する。

1. 『フォー・トレイルズ 限界を超えてゆけ』

香港で旧正月に3日間をかけて開催される「香港フォー・トレイルズ・ウルトラ・チャレンジ」。香港にある4つのトレイル・コース(総距離298km=フルマラソン7回分、獲得標高14,500m=エベレスト登頂2回分)を、不眠不休で72時間=3日以内に走りきる。この超過酷すぎるレースに挑むランナーたちを追ったドキュメンタリー映画が『フォー・トレイルズ 限界を超えてゆけ』だ。

九龍半島を東西に横断する100kmの「マクリホース・トレイル」、そして地下鉄移動という難関も含まれる南北縦断78㎞の「ウィルソン・トレイル」、香港島を駆ける50㎞の「香港トレイル」、香港島からフェリーでランタオ島に移動し、険しい山々に挑戦する「ランタオ・トレイル」。この4つのコースを走る中で映し出される大自然の景観は、香港=都会のイメージを覆す圧倒的な美しさ。一方で、ランナーたちが地下鉄に乗り込んだり、コンビニで食事や休憩を取ったりと、ところどころに差し挟まれる日常的な風景との対比も面白く、このチャレンジのユニークさが際立つ。

人間の限界に挑むランナーの体力と精神力、レースにかける思いはちょっと常人の感覚を超えている。滅多にない精神状態を味わえると興奮気味に語る参加者の表情を見ていると、若干引いてしまうと同時に、人間の不思議に思いを巡らせずにいられない。「とにかくスゴイものを見た」というお得な気持ちで映画館を出られること請け合いの1本。

『フォー・トレイルズ 限界を超えてゆけ』
全国順次公開中
(c) Lost Atlas Productions
配給:ザジフィルムズ
公式サイト:https:// www.zaziefilms.com/4trails/
X:https://x.com/4trailsJP

2. 『最初の半歩』

舞台は1980年代。84年の中英共同声明調印によって97年に香港が中国へ返還されることが決まり、人々の間では将来に対する不安感が増していた。

『最初の半歩』はそんな時代を背景に、ベッドタウン沙田(シャーティン)の公営団地で育った少年を中心に結成された香港初の華人少年野球チーム「沙燕(サーイン)隊」の成長と軌跡を描く。

「沙燕隊」は実在した野球チーム。経験も用具もないところからスタートした野球チームが練習を重ねて力をつけ、リトルリーグで日本のバッファローズとの決戦に挑んだという実話がベースになっている。

主人公は、兄弟同然に育ったロンとワイという性格の異なる2人の少年。彼らの友情と葛藤、複雑な年頃の少年たちの心の揺れが、先行きの見えない当時の時代の空気とシンクロする。主人公の少年が暮らす高層の公営団地が印象的。圧迫感のあるその建物は、庶民の不安や抑圧を象徴するものとして映像作品に登場することが多い。

沙田は 香港島や九龍の繁華街から電車で30分ほどの距離に位置。競馬場があることで有名なところだが、一般の観光客が足を運ぶことは少なく、地元住民の生活をリアルに感じられるエリアだ。「沙燕隊」の栄光を記念して、城門河にかかる橋は「沙燕橋」と名付けられている。

『最初の半歩』
2026年8月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
©2016 Flash Glory Limited ALL RIGHTS RESERVED
配給:サロンジャパン
公式サイト:https://www.salonfilmsjp.com/saisho-no-hanpo
X:https://x.com/saisho_no_hanpo

3. 『幻愛 夢の向こうに』

公営団地が印象的な作品をもう1つ。『幻愛 夢の向こうに』は、2020年の香港で興行成績第2位を記録するなど大ヒットしたラブストーリー。日本の香港映画ファンの間でも人気の高いテレンス・ラウの映画デビュー作でもある。

統合失調症を患いながら小学校教師として日常を送るロックは、偶然出会った女性ヤンヤンと付き合い始めるが、自身の病を打ち明けられずに苦悩する。症状が悪化するなか、セラピーでヤンヤンと瓜二つの大学院生ラムと出会ったロックは、統合失調症の症状の一種である恋愛妄想を研究するラムから論文執筆への協力を頼まれる。研究のためカウンセリングを重ねる2人は、次第に引かれ合っていくが……。

主なロケ地となった屯門(トゥンムン)は、九龍から約30㎞離れた新界の西部に位置するベッドタウン。美しい夕日が見られるビーチや埠頭などの風光明媚な散策スポットと高層住宅群が共存し、街なかを軽鉄(ライトレール)がのんびりと走り抜ける。そんな幻想的な風景が、現実と夢の狭間を彷徨うロックの心象風景と重なり合う。この『幻愛』のヒットを受けて、屯門はロケ地巡りをする観光客で賑わった。

『幻愛 夢の向こうに』
2026年8月5日(水)Blu-ray発売&デジタル配信開始
Photon Films (HK) Limited © 2019 All Rights Reserved
発売・販売:ツイン
公式サイト: https://www.twin2.co.jp/catalog/beyond-the-dream/

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