人生100年時代と言われる現代ですが、長生きをしても「健康」でなければ自分の満足のいく人生を送れないかもしれません。健康を維持しながら長生きができれば、より自分らしい人生プランを考えることができるのではないでしょうか。
健康に生きるためにいま注目されていることのひとつが「睡眠」です。睡眠時間の長さだけではなく、「睡眠の質」について気にしている人も増えています。スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで睡眠の状態をチェックしたり、運動やストレッチ、サプリメントや飲料などで睡眠の質を向上させたりしている人もいます。
「健康長寿」を目指し、最先端の研究を学ぶYoutube番組「生命科学アカデミー」では、今回、ゲストに筑波大学の柳沢正史先生をお迎えしました。同プログラムのHIROCO学長が聞き手となり、「睡眠」の奥深さについて迫ります。

柳沢先生(左)とHIROCO学長(右)
世界一眠らない都市「東京」
──今回は、「健康長寿」にとって大切なメカニズムを持つ「睡眠」についてお話をうかがいます。柳沢先生、よろしくお願いします。さっそくですが、先生はどのような研究をなさっているのですか。
柳沢正史先生(以下、柳沢):私の専門は、「睡眠」と「覚醒」に関する神経科学で、実験をメインに基礎的な研究をおこなっています。
──先生のお話の中で「東京は世界一眠らない都市である」とおっしゃっているのを聞いたことがあるのですが、それはどういうことでしょうか。
柳沢:先進国の中で、昔から日本は国全体で国民の平均睡眠時間が一番短いという統計データがあります。中でも大都市圏では東京が一番短い。10年くらい前にアメリカのある週刊誌の調査で、世界の大都市でウェアラブルデバイスを購入したカスタマーのデータを吸い上げて比べたものがあります。カスタマーは若い世代から働き世代が多かったのですが、その比較調査でも、断トツに東京の睡眠時間が短かったんです。
──短いというのは、何時間くらいですか。
柳沢:その調査では約5時間半でした。すごく短いです。
睡眠と経済成長の関係
──確かに短いですね。先生のお話では、睡眠不足は経済損失にもつながっているということでした。
柳沢:そうですね。有名なシンクタンクがおこなった調査で、先進5か国で比較したデータがあります。先進5か国の中で、睡眠不足によると考えられる経済損失は日本が最低で、GDPの3パーセント程度損失していると考えられるという調査結果でした。
──5時間半という短い睡眠時間で、経済損失が3パーセント下がっている。ということは、睡眠時間を延ばすだけで経済効果にも良い影響が与えられるんじゃないでしょうか。
柳沢:人々がきちんと眠るだけで、日本は3パーセントの経済成長が約束されているかもしれませんね。
「睡眠の脳科学」に注目
──すごいお話ですね。人間は誰しも生まれてから必ず眠りますが、その睡眠を脳波で測定する調査もなさっていますよね。
柳沢:はい、私のデイジョブは非常に基礎的な「睡眠の脳科学」です。最近、筑波大学発のベンチャー企業を立ち上げました。その企業でおこなっている共同研究は、睡眠中の脳波を測るシステムの開発です。
自分の寝慣れた寝室や、出張先のホテルなど、誰でもどこでも睡眠中の脳波を測定できて、その脳波を直接クラウドに自動アップロードし、AI解析をして、睡眠の様態を調べます。睡眠時間だけではなく、その睡眠の細かな質まで測定できるシステムを開発して、いまいろいろな方面で事業化しているところです。
──そうして測定した睡眠の質の向上が経済効果にもつながり、健康長寿にもつながっていくのですね。
◆まとめ
・東京は世界一眠らない都市。人々がきちんと眠るだけで、日本は3%の経済成長が望める
(第2回へ続く)
■動画で見る方はこちら