健康情報を読み解くキーワード/第2回

【京大・准教授に聞く】エビデンスのレベル3〜レベル1って何? 誤った健康情報に振り回されないために/後編

【京大・准教授に聞く】エビデンスのレベル3〜レベル1って何? 誤った健康情報に振り回されないために/後編

メディアで健康や家庭医学、科学の情報に触れるとき、頻繁に見聞きする「エビデンス」という言葉は、「医学的根拠」「科学的根拠」という意味で用いられています。そして、そのエビデンスにも「レベル」があるのだとか。そこで、京都大学大学院医学研究科社会健康医学の准教授で精神科指導医・専門医の田近亜蘭(たぢか・あらん)医師に前後編の2連載にて、お話しを聞いています。

前編では、エビデンスのレベルが低い順に「レベル6」~「レベル4」までを紹介しました。今回は「レベル3」~「レベル1」について尋ねます。

田近亜蘭医師

田近亜蘭医師

エビデンスレベル1がもっとも信頼性が高い

——前編で、エビデンスレベルとは、「科学的根拠・医学的根拠の信頼性の強弱や指標、目安」を示すということでした。また、「エビデンスがある」といわれる治療法のすべてが、絶対的に信頼できるものではないこと、それゆえに、エビデンスレベルの基準が研究の手法によって決められていると教えてもらいました。

田近医師:お話ししたように、エビデンスにはその強弱によって6段階が設定されています。レベル1は医学的な根拠の信頼性がもっとも高く、レベル6がもっとも低くなります。今回は、レベル3からレベル1の順に説明しましょう。

エビデンスレベル3……次のレベル2で詳しく説明しますが、患者をランダムにグループ分けして比較する「ランダム化比較試験」という研究があります。そのように厳密なグループ分けをしないで実施された研究を「非ランダム化比較試験」と呼びます。この結果が、ランダム化比較試験より1つレベルが低い、レベル3として分類されます。

エビデンスレベル2……「ランダム化比較試験」を実施した研究結果のことです。

例えば、新しい薬の開発をする際、その薬を使うグループと使わないグループとにくじびきやコンピューターでランダムに分けて、グループごとの効果の違いを検証します。

ランダムに分けることで、結果に影響を及ぼしそうな背景や要因を両グループで揃えることができて、平等な比較が可能になります。また、「自分は新薬を飲んでいる」と知っていると、実際の治療効果とは関係なく改善することがあります。そのため、プラセボ薬(偽薬)を使って、患者も医師も、どちらを服用しているかわからなくすることもあります。

この手法はもっとも正確に効果が検証できるため、新しい薬を開発する際の治験(ちけん。後述)では必ず行われます。

エビデンスレベル1……1つのテーマに対して、世界中で複数のランダム化比較試験が行われています。しかし、それらの結果は必ずしも一致していません。例えば新薬を開発するときに、A大学での研究では有効で、B製薬会社の研究では無効といった結果になることもあります。これではどうしていいか答えが出ません。

そこで、一定の基準を用いて、同じテーマの研究を徹底的に探し出して総括する「システマティックレビュー」や、統計学的な手法で結果を合体させて数値で表す「メタアナリシス」という方法によって結果を得ます。それがエビデンスの信頼性がもっとも高いレベル1です。

エビデンスレベル1は最上位ですが、さらに新しい別のランダム化比較試験の結果が出てくると、それを含めて情報を更新していく必要があります。このように、システマティックレビューやメタアナリシスの結果には「賞味期限」があり、今後も正しいことを保証するものではありません。

——エビデンスレベル2にあった「治験」とはどういうことをするのでしょうか。

田近医師:治験とは、ヒトを対象に、新しい薬や治療法の効果、また安全性を科学的に調べる臨床試験のことです。製薬会社は「くすりの候補」を用いて、国の承認を得るために治験を行って研究結果を集めます。 治験は省令に定められた要件を満たす病院のみで行われます。

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——エビデンスレベル1であっても、絶対的ではないということですね。

田近医師:そうです。研究の方法論の正確さの順番に6つのエビデンスレベルに分けられてはいますが、レベルが高いから正しい、低いから間違っている、という意味ではありません。

レベル6だからといって、専門家が常に間違ったことを述べているわけではありませんし、また、ごくまれな疾患では、レベル5の症例報告しかない場合もあります。エビデンスレベルとは、できるだけ真実に近い、良質なエビデンスを得るための手法の確かさの基準です。

「根拠に基づく医療」を提唱したオックスフォード大学のデイビッド・サケット医師は、治療は「良質のエビデンス」と「医師の経験」と「患者さんの価値観」の3つから総合的に判断せよと述べています。常に最新で最善のエビデンスを求め、それを治療に活かそうということです。

聞き手によるまとめ

エビデンスには信頼性の程度を示すレベルが6段階あり、最上位のレベル1であっても将来に渡って絶対的なものではないということです。エビデンスやエビデンスレベルが何なのかを理解し、誤った情報に惑わされることや、テレビやネットから日々流れてくる情報をうのみにする事態を避けたいものです。

(構成・取材・文 藤原 椋/ユンブル)

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