「完璧に仕上げないと、次のチャンスをもらえないかもしれない」「先輩に相談したいけど、わざわざ時間を割いてもらうのは迷惑かも……」。そんな心配にとらわれて、行動をためらってしまうことはありませんか?
「もっと楽観的になれたらいいのに……」と慎重すぎる自分にため息をついてしまうこともあるかもしれません。
ところが、『成功する人は心配性』(かんき出版)などの著書を持つ菅原脳神経外科クリニックの菅原道仁(すがわら・みちひと)先生によれば、「成功者と呼ばれる経営者やスポーツ選手、アーティストなどは、実は心配性の人が多い」のだとか。
松下幸之助も、スティーブ・ジョブズも、イチローも、心配性だったからこそ成功をつかめた!? 菅原先生に、心配性をコントロールして目標を叶える力に変えるコツを、2回に分けて聞きます。
心配性は一つの才能
——『成功する人は心配性』を読ませていただきました。私はチームで動いたりプロジェクトを始めたりするときに、心配になるあまりネックになる部分を探すクセがあって。なんだかアラ探しをしているようですごく嫌だったんです。でも、「成功するためにはむしろ、心配性であることはプラス」と書いてあったので、気持ちがラクになりました。
菅原道仁先生(以下、菅原):それはよかったです。心配性って、言い換えれば細かいことに注意を払える才能のこと。「成功者」と呼ばれる経営者やスポーツ選手などにも、実は心配性の人が多いんですよ。
——そうなんですね! 先生はこの本の中で、「人生目標を叶えるには『細心の注意を払う力』と『前に進む力』の両方を兼ね備えている必要がある」とも書かれています。今回は、私のように心配性で慎重になってしまう人が、“前に進む力”を発揮するためのコツをお伺いしたいと思います。そもそも、先生はなぜ「心配性」についての本を書こうと思ったのですか?
菅原:医者は、基本的にみんな心配性なんです。心配性じゃない医者って嫌じゃないですか? この手術が最善かとか、この薬を使ったらこういう副作用が想定されるとか、治療にはいろいろな不安がつきものです。だけど医者には、患者を治すという明確な目標がある。「リスクがあるけど治療をして患者を治そう」と前へ踏み出せるから、心配事が次々湧いてきても乗り越えていけるんです。
心配性の人は目の前のリスクに反応するセンサーが鋭い。誰でも目標が明確であれば、そのセンサーを生かして、成功のための力に変えていけるのでは? そう考えたことが、『成功する人は心配性』を書くきっかけになりました。
——なるほど。私たちは、なぜ行動する前から心配してしまうのでしょう。
菅原:心配性の人は、物事を見るときに、自分に不都合なフィルターをかけてしまうことが往々にしてあります。ミスや失敗は過大にとらえるけれど、うまくいったことは「今回はたまたま」など過小評価したり、誰かひとりに否定的な意見を言われただけで「私の企画なんて誰もわかってくれない」と極端にネガティブな解釈をしたり。「完璧にやらなければいけない」というのもフィルターの一つです。
——ああ、分かります! 私も「完璧に仕上げないと提出できない」と思ってしまって、仕事を先延ばしにしてしまうことがよくあります。
菅原:完璧主義というのは、決して悪いことではないんですよ。でも、完璧でなければいけないと考えて身動きできなくなるのはマズい。勝ち続けたい、常に人よりも優秀でなければいけない、認められたい、愛されたい、努力したときは必ず報われなきゃいけない。「〜でなければいけない」という固定概念にとらわれてしまっている人は、心配で身動きが取れなくなりがちです。20代、30代の女性は「女性はこうじゃなきゃいけない」というイメージに縛られることが多いんじゃないですか?
心配性の人が一歩を踏み出すには
——多いです。縛られたくないと思っているんですけど、気がつくと「私、はみ出していないかな」って心配している自分がいます。
菅原:20〜30代の働き盛りの女性からよく聞くのは、「結婚したいけど、できなかったらどうしよう」という心配でしょうか。でも「結婚したい」というのは、目標としては漠然としている。結婚したい本当の理由を解いていかないといけないと思います。自分が愛し抜ける男性に出会いたいのか、あるいは経済的な保証がほしいから結婚したいのか。目標によって、踏むべきステップが変わってきます。
——たしかに。「まずは結婚することが目標」と言われても「じゃあ、その後の人生どうするの?」と思ってしまいますね。
菅原:そうでしょう。もしも、結婚したい本当の理由が「経済的な保証がほしい」ということであれば、専門技術を身につけたり国家資格を取ったりするのが目標を叶えるためのステップかもしれない。自分で自分の経済を保証することができれば、その人にとって結婚することは差し迫った目標じゃなくなりますよね。「結婚できなかったら……」と心配するよりも、もっと根本的な目標に目を向けた方がいいです。
——仕事においても、こうなりたいという目標を具体的にイメージして、目標に早く近づけるルートを探った方がいいでしょうか。
菅原:こうなりたいという理想像を、心に持っておくことは大事です。だけど、ここがみなさん勘違いしやすいところで……。今やっていることが自分の理想に対して有益かどうかは、後から振り返らないと分からないんですよ。やっておいて良かったと後から思うことってあるじゃないですか。「自分のキャリアにはムダだと思ったけど、この記事を書いておいて良かった」とか。だから、20〜30代であれば、目の前にある仕事に全力で向き合った方がいいと僕は思います。
後から振り返って「ムダだったなぁ」と思うこともあるかもしれませんが、それも「このジャンルは私には合わない」という一つの経験になり得ます。心配性で一歩を踏み出せない人は、「こんなことをやったって時間のムダだ」と考えがちだけれど、動かなければ成功にもつながりません。
——行動を起こして失敗をしたり、ムダだったと感じたりしても、いい経験になったと捉えられればいいんですね。
菅原:そういうことです。失敗っていうとネガティブですけど、「うまくいかない方法を見つけた」と考えればいい。心配性で動けない人は、10割バッターを目指しているわけです。ありえないところに目標を据えている。10割を目指して全力投球することは大事ですけど、「そうしなければ」という思い込みにとらわれるのはよくないです。イチロー選手だって打率3割くらいですよね。心配で身動きがとれなくなったら、「一流の選手だって7割は失敗しているんだ」と考えてみてください。
後編は8月15日(火)公開予定です。
(取材・文:東谷好依、写真:池田真理)