空気が乾燥して寒い季節、新型コロナやインフルエンザ、風邪の対策として、のどの状態がとても気になります。「免疫って何? 高めるにはどうする?」と題する本シリーズ、今回・第14回は「のどが痛いとき、免疫はどう働くか」について、『免疫入門 最強の基礎知識』(集英社新書)という著書がある耳鼻咽喉科・気管食道科専門医の遠山祐司医師に尋ねます(これまでの回は文末のリンク先参照)。
のどの炎症はウイルスを侵入させないための免疫反応
——これまで、免疫細胞(白血球の一種)には多くの種類があり、血液やリンパ液に乗って体中を巡ってウイルスや細菌(抗原)を常に探していること、発見したときはすぐさまネットワークを組んで、食べたり撃退したりしていると教えてもらいました。
とくに、第12回・第13回では、免疫細胞が育って、免疫という仕事を開始するのは「リンパ系(リンパ液、組織液、リンパ管、リンパ節、胸腺、脾臓・ひぞう)」だと聞き、興味がわきました。そして、のどが痛いときに「リンパ腺が腫れる」と言うのは実は免疫の働きによるとのことでしたが、のどの痛みと免疫はどう関係するのでしょうか。
遠山医師:風邪をひくとのどが痛い、腫れるという症状は皆さんも経験したことがあるでしょう。これはのどの粘膜と、「扁桃(へんとう)」というのどの周囲にあるリンパ組織(リンパ球などさまざまな免疫細胞が網の目状にからんで存在する結合組織)で、リンパ球などの免疫細胞が風邪などのウイルスと闘っている証です。その状態を「炎症」と呼びます。
これまでにお話ししたように、のどが腫れたり、ケガで皮膚に傷口ができたりしたときに治る過程で生じる「赤み(発赤)・発熱・腫れ(腫脹)・痛み(疼痛)」は炎症の4大徴候であり、自然免疫の働きです。そのため、「リンパ腺が腫れる」といった表現をすることが多いのです。のどの炎症は痛くてつらいですが、実は、のどから奥の気管にウイルスや細菌を侵入させない、つまり風邪をこじらせないための免疫反応なのです。
体のどこかに炎症が生じているときには、医師らから「安静にしましょう」と言われるでしょう。それは、疲労や睡眠不足、激しい運動などで体力が低下すると免疫反応も弱まるからです。睡眠を十分にとり、栄養のバランスが良い食事をしてストレスを避けると、免疫反応は強くなります。
「扁桃」の輪でウイルスや細菌を撃退
——のどが痛いときには、「扁桃腺が腫れている」ともいいますね。のどと扁桃や扁桃腺は同じ部位なのですか。
遠山医師:まず、のどには、咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)があります。咽頭は口を開けて懐中電灯をあてると目に見える部分が中心です。喉頭とはのどぼとけの周囲で、医師が器機を使って観察しないと自分で見ることはできません。「耳鼻咽喉科」とは、耳と鼻と咽頭(鼻の奥のつきあたりから食道の入り口あたりまで)と喉頭(舌根より奥の声帯があるあたりで気管の入口まで)を診察する診療科です。
そして扁桃とは、のどの周囲に4種があってのどを守っています。4種とは、口蓋垂(こうがいすい。いわゆる「のどちんこ」)の両脇に少し盛り上がっている「口蓋扁桃」、鼻の奥の「咽頭扁桃」、舌のつけ根の「舌(ぜつ)扁桃」、鼻と耳をつなぐ耳管の入り口にある「耳管扁桃」です。
この4種の扁桃は、のどを守るようにぐるっと輪の形に並んでいます。これは発見者のドイツ人医師の名にちなんで「ワルダイエル扁桃輪(ワルダイエル咽頭輪)」と呼ばれ、「病原体や異物から体を守る第一のとりで」と言われます。ウイルスや細菌が侵入してきた場合、この輪が免疫反応によって食い止めようとするわけです。

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一般に「扁桃」とは、口蓋扁桃を指します。形状がアーモンドの種子に似ているため、アーモンドの別名でもある扁桃と名付けられました。「扁桃腺」とよく表現しますが、扁桃は実際には「腺」ではなく、医学では「扁桃」と呼びます。
「扁桃腺が腫れた」ということと、「のどのリンパ腺が腫れた」という表現はどちらも「扁桃が炎症を起こした」ことを指し、医学的には「扁桃炎」といいます。そして扁桃とは何かというとくり返しになりますが、「リンパ組織の集合体」です。
※「のどの痛みの原因と適切なうがい法」については次の記事も参照にしてください。
「のどが痛い」の正体は? ウイルスや細菌の侵入を知らせる非常ベル【専門医が教える】
聞き手によるまとめ
のどには扁桃というリンパ組織の集まりがあり、4種の扁桃が輪を描くようにしてのどを守っていること、ウイルスや細菌が侵入しようとするとその扁桃の輪がガードすること、のどの炎症は免疫細胞が病原体と格闘中の証だということです。改めて、のどの免疫の働きについて認識することができました。
次回・第15回は、「のどの扁桃の免疫の力を高めるために自分でできること」についてお尋ねします。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)