ファッション誌『ViVi』(講談社)専属モデルの嵐莉菜(あらし・りな)さんが初主演した映画『マイスモールランド』(川和田恵真監督)が5月6日(金)に公開されます。
幼い頃から日本で育ったクルド人の17歳の少女・サーリャが自分のアイデンティティーに葛藤し、成長していく姿を描いており、ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞から特別表彰を授与される快挙を成し遂げました。
自身も日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアという5カ国のルーツを持つ嵐さん。「この役を絶対に演じたい」と思い、オーディションに挑んだという嵐さんにお話を伺いました。
マルチルーツは「私の武器」
——埼玉に住む17歳のクルド人サーリャはごく普通の高校生活を送っていましたが、あるきっかけで在留資格を失い“当たり前の生活”が奪われてしまいます。この役を演じることになった経緯を教えてください。
嵐莉菜さん(以下、嵐):もともとお芝居に興味があって「いつか演技の仕事をしてみたい」と思っていました。ある日、事務所の方から「こんなオーディションがあるけど受けてみる?」と教えてもらって……私も日本人として生きてきたけれど、外見で判断される葛藤や悩みが幼少期の頃にあったので、サーリャとの縁を感じました。「絶対にこの役を演じたい」という気持ちでオーディションを受けました。
——外見についての悩みがあったということですが、今はどんなふうに捉えていますか?
嵐:昔より減ったものの、今でも外見で判断されることはあります。でもこの外見だからいただく仕事もあって、今ではモデルの仕事も自分の外見も好きだし、ルーツをたくさん持っていてよかったと思っています。
(自分のルーツを話すことを)ちょっと面倒くさいと思っていたというか、説明するのが大変だから、サーリャのように「ドイツ人です」と言っていた時期もあったのですが、最近は5カ国にルーツがあると言うと私に興味を持ってくれる人が増えました。自分のルーツを言うことで会話が広がったり、お互いのことを知れるというか仲が深まることも多いので、今では自分の最強の武器だと思っています。
——捉え方が変わったんですね。それは何かきっかけがあったのですか?
嵐:今のモデルの仕事を始めたのも大きいし、サーリャを演じることで気づけたのかもしれません。自分らしさを大事にすることをサーリャから学びました。
「やりたいことはきちんとやる」嵐莉菜がたどり着いた“自分らしさ”
——嵐さんにとっての“自分らしさ”を教えてください。
嵐:この髪は地毛なのですが、昔は周りに合わせようとして黒髪にしたいと思っていたんです。日本人として生きたくても外見で判断されるから、周りに合わせようと思っていました。でも、最近は髪色も自分だけのものという意識に変わりました。
もちろん外見だけのことではなくて、自分の気持ちもそうです。具体的に言うと、中学生の頃から学級委員をやりたかったのですが、「自分がやっていいのかな」とどこかで思っていました。でもルーツや国は関係ないし、自分がやりたいことはきちんとやろうという思いに変わりました。今、高校3年生なのですが3年間学級委員をやっています(笑)。
——3年間学級委員なんですね、すごい!
嵐:それが「自分らしさ」かどうか分からないですが、自分が持っているものは隠さずというか出していければと思っています。これはルーツがどうとか国籍がどうとかに関係なく、多くの人がぶち当たる壁なのかなって。
演技の面白さを感じた瞬間
——サーリャを演じるときに意識したことを教えてください。
嵐:私は気持ちが表情に出やすいというか誰とでもすぐに打ち解けられるほうなのですが、サーリャは自分の感情をなかなか外に出さない子なので、すぐに表情に出ないように気をつけていました。
その上で、私はサーリャが置かれた状況や感じていることなどサーリャを理解していると思っていたのですが、やっぱりサーリャの気持ちが理解できないシーンもありました。そんな時は監督と長い間、話してサーリャの心情や置かれている状況を自分で考えました。監督は「こうやって演じて」と指示するのではなく、ヒントを与えてくださる方で、おかげでサーリャについて深く考えることができました。
——撮影で印象的だったことはありますか?
嵐:サーリャとお父さんが入管の施設の面会室で話をするシーンがあるのですが、カットがかかったときに監督が泣いていてびっくりしました。自分のお芝居で人の気持ちが動いたのを目の当たりにしてすごくうれしかったし、ここまで撮影を頑張ってきてよかったなと。そして、演技って面白いなと思いました。今日のことは一生忘れないだろうなと思う瞬間でした。
——サーリャを演じるにあたり、実際に日本で暮らしているクルド人の家族と交流したそうですね。
嵐:クルド人の女の子とK-POPや趣味の話で盛り上がりました。でも自分が不自由な生活をしていて大学に行けるのかも分からないと言っていて……サーリャのイメージも湧きましたが、それ以上に彼女たちが置かれている状況を考えるととてもつらくなって、なんとしてもこの役を演じきりたいと強く思いました。
『ViVi』の仕事は生きがい
——サーリャは自分の居場所を求めて成長していきますが、嵐さんが「ここは私の居場所だな」と感じるときはどんなときですか?
嵐:サーリャを演じるまで、私は今まで自分の居場所とか考えたことがなかったのですが、改めて考えてみると家族はそうだし、モデルの仕事は大事な居場所だなって。自分の外見で悩んでいた時期もあったけれど、『ViVi』ではそれを求められるし、私にとって生きがいの一つになっています。
——4月22日に発売された『ViVi』6月号では初のソロ表紙を飾っていますね。
嵐:『ViVi』の表紙を飾ることは私にとって夢だったのですごくうれしいです。私は言霊を信じていて「目標は何ですか?」と聞かれるたびにずっと「表紙を飾ること」と答えていたので夢がかなって感無量です。
——最後に、この映画をどんな人に見てほしいですか?
嵐:社会問題を扱っていますが、普通の高校生と同じように恋愛要素も青春要素もあって誰もがぶつかる壁が描かれていています。サーリャのようにいろいろな人から頼られたり、責任を負わされたりして時にはすごく重荷になってしまうことも丁寧に描かれていて、いろんな人に当てはまる部分があると思います。そういう意味では気軽に見にきてほしいと思うし、何かを感じるきっかけになればいいなと思っています。
■映画情報
『マイスモールランド』5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
【出演】嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー リリ・カーフィザデー リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
【監督・脚本】川和田恵真
【主題歌】ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g」
【企画】分福 制作プロダクション:AOI Pro. 共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
【助成】文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
【製作】「マイスモールランド」製作委員会
【配給】バンダイナムコアーツ
(C)2022「マイスモールランド」製作委員会
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)