色鮮やかな花畑や田園を舞台に、13歳の少年2人の友情と突然の別れを描いた映画『CLOSE/クロース』が7月14日に公開されました。
13歳のレオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は、24時間ともに過ごす大親友。中学校に入学した初日、2人の親密さをクラスメイトにからかわれたレオは、レミへの接し方に戸惑い、次第にそっけない態度をとるように。気まずい雰囲気の中、2人は些細(ささい)なことで大喧嘩に発展。心の距離を置いたままのレオに、レミとの突然の別れが訪れて……というストーリー。
2022年の第75回カンヌ国際映画祭で「観客が最も泣いた映画」と称されグランプリを受賞。第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど、各国の映画賞で47受賞104ノミネートを果たした同作について、ルーカス・ドン監督にお話を伺いました。

ルーカス・ドン監督
「答えを提示する必要はない」作品作りで意識していること
——色鮮やかな花畑や田園風景が印象的な作品でした。言葉や説明を避けるというか、例えば舞台になった田舎町もどこの国でどんな場所かというのも説明されていません。作品を作る上で意識したことをお聞かせください。
ルーカス・ドン監督(以下、ドン):観客が解釈するということ、そんな余白や余地を残すことを大事にしています。一面的に「つまりこういうことだよ」という作り方をしてしまうと、観客も受け身になって作品を見ることになってしまうから。そうではなくて、今回の少年たちについても、彼らが何者か? ということよりも同じ時間を過ごすことで、彼ら自身がどんなふうに感じるかというのを大事にしました。
だから、彼らの外側の世界ではなくて心の世界に惹かれていくように作りたかったので、物理的に「この場所で起こったことです」というのはもちろん見せていないし、時代に関してもはっきりは描いていません。現代かもしれないし、違うかもしれない。そうすることで、世界中のいろいろな人が自分を投影することができるように、かつて少年や少女だった人たちも若い頃を懐かしく思うようなノスタルジーを喚起できればと思いました。
——答えを提示しないというところなのですね。
ドン:まさにそのとおりです。答えを提示する必要はないと思っていて、皆さんがもし望むのであれば「こういうことかな?」と自分なりに見つけてもらえればいいと思いました。
演出する際も(レオ役の)エデンと(レミ役の)グスタフに聞くんです。「いつも一緒に学校に行っていたのに、この朝はなぜレオはレミを待っていなかったんだろう?」と。僕なりの答えというか、思っていることはあるのだけれどそれは言わない。僕の説明は全く関係ないわけです。彼らがそのキャラクターの身になった時に「これこれの理由があってこういうふうに行動している」と考えてくれればそれで十分なわけです。そんなふうに余白があることで、皆さんが自由に投影したり、考えたりすることができるのかなと思っています。
その良い例が、僕が21世紀で最も好きな映画の一つ、イ・チャンドンの『バーニング 劇場版』です。いろんなことが起きてはいるんだけれど、見えていない部分も考えさせられるような、見えてしまっているかのような素晴らしい作品です。
周りが通念や期待を押し付けることで壊れてしまうもの
——レオとレミは親友同士でとても親密ではあるけれど、そこにセクシュアリティは介在していないわけですよね。でも、クラスメイトに「付き合ってるの?」と聞かれたことで2人はギクシャクしてしまう……。別のシーンで、あるクラスメイトが「レミはハッピーだった」と言った時にレオが食ってかかる部分がありましたが、ジャッジすることの暴力性について考えさせられました。
ドン:2人の若い男性が、親密な関係を持っている表現って、なかなか見ることができないと思うんですね。それを描こうとするとそこにすぐにセクシュアリティが介在しているのでは? と勝手に思われてしまう。私たちはそんなふうに見ることを教えられてきてしまっているので……。だからこそ、セクシュアリティが介在しない親密な2人の関係をあえて見せたいと思いました。レオとレミは「名前を付けることができない間柄」なのだけれど、周りが勝手に通念や期待を押し付けることによって、人と人のつながりって壊れてしまうことがあるんだということを物語上で見せたいと思いました。
僕は若いころ、孤独を感じていた時期がありました。今はチームでこうして映画を作って、それを世界に共有することができます。それによって、映画を見た人がつながりを感じたり、自分自身や世界に対しての理解を深めるきっかけになればいいなあと思っています。特に今の世界は、私たちをミクロなアイデンティティ--例えば人種や肌の色--でとにかく分けようとする、分断しようとする。そういう世界だと思うんですよね。世界が「あなたはこういう人だから」とジャッジしようとする。そんな世界から抜け出すのはなかなか難しいことだと思います。だからこそ、映画の中で僕もそんなことを考えながら、抜け出そうとしているのかもしれないですね。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
■映画情報
『CLOSE/クロース』
7月14日(金)より全国公開
クレジット:(C)Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES