絵本『りんごかもしれない』『りゆうがあります』など、子どものみならず大人にもファンが多い絵本作家のヨシタケシンスケさん。3月30日に初のエッセイ集『思わず考えちゃう』(新潮社)を上梓しました。発売されるやいなやたちまち重版がかかり、話題になっています。
ヨシタケさんがいつも持ち歩いているというスケジュール帳に書き留めたメモやスケッチを元に、「こんなことがあったんです」「あんなことを考えていたんです」と自ら解説した一冊。
「富士山を撮るのは盗み撮りにならないの?」「子どもに優しくできないよ」「何かを決めた瞬間が一番楽しい」など、“思わず考えさせられちゃう”エピソードがつづられています。
“思わず考えちゃう”女性に向けて、ヨシタケさんに5回にわたってお話を伺いました。最終回のテーマは「自分を責めてばかりの貴女へ」です。
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「大人には立場がある」を言っていきたい
——今はどんな作品に取りかかっているんですか?
ヨシタケ:ちょうど今作っている絵本のテーマが「転べばいいのに」なんです。6月くらいに出るんですけど、「嫌なやつは転べばいいのに」っていう内容なんです。
——テーマは「嫌なやつ」なんですか?
ヨシタケ:「嫌なやついるよねー」っていう本なんですよ。「“嫌いな人”っていてもいいよね」って言いたいというか。
——嫌いな人がいると自分はダメな人間なんじゃないかって思っちゃいます。世の中にはマザー・テレサみたいな人もいるのに……。
ヨシタケ:そうでしょ? 僕もずっとそう思ってたし、でもやっぱりそれを自分の子どもには言いたくないじゃないですか。でも、嫌いな人っているよっていう。それを別に好きになろうとしなくてもいいよねっていう。まさに今の自分にも子供の頃の自分にも言いたいことが、自分が本を作るときのテーマで、そこに帰っていくんですよね。
——小学校のときに「クラスみんなで仲良くしよう」って言われて、すごく辛かったです。
ヨシタケ:でも、先生として言わなきゃいけない気持ちもわかるじゃないですか。
——はっ!
ヨシタケ:先生は、大人として立場上、ケンカしてもいいって言っちゃダメなんですよ。そういう大人には立場があるっていうことも言いたいわけです。大人は思ってても言っちゃいけないことがある。
だから、それで大人が言うことは、本当のときと建前のときがあるってことも、子供のときに知ってたら随分楽になる場面もいっぱいあったはずなんですよ。大人を憎まずに済んだはずなんですよね。
そういう至極当たり前のことを、ちゃんと言いたいっていうのはどのシーンでも思いますね。今後やっていきたいことはそういうことです。身も蓋もないことをちゃんと言っていくっていう。
——先生を恨んじゃっていました。「綺麗事ばかり言いやがって」って。
ヨシタケ:ないとされてることを、あるからねって。嫌いな人は転べばいいって思うよねって。その存在に、ちゃんと名前を付けていきたいっていう。それは消えないからって。でも、ゼロにはできないけど、減らすことはできるよねって。戦争と一緒ですよね。構造上ゼロにはできないけど、減らしていくには越したことはないよねって。そこはちゃんと言っていきたいですね。