中園ミホさんインタビュー・後編

「単純な労働力なんてこの世にはない」中園ミホが『ハケンの品格』にかける思い

「単純な労働力なんてこの世にはない」中園ミホが『ハケンの品格』にかける思い

篠原涼子さんが一匹狼のスーパーハケン・大前春子を演じて2007年の放送当時、平均視聴率20.2%を記録した連続ドラマ『ハケンの品格』(日本テレビ系)の続編が13年ぶりにスタートします。

「ハケンが信じるのは自分と“お時給”だけ」が信条の、ヒューマンスキルはゼロだけどマグロの解体、ふぐ調理師、助産師などありとあらゆる技能と資格を持った大前春子のキャラは放送当時、派遣社員だけではなく正社員の男女からも大きな反響がありました。

「ずっと続編を書きたいと思っていた」と話す脚本家の中園ミホさんに話を伺いました。※取材は4月下旬にオンラインで実施しました。

【関連記事】あの大ヒットドラマは“空亡ブレイク”だった! 中園ミホに聞く、低迷期の過ごし方

脚本家の中園ミホさん

脚本家の中園ミホさん

13年ぶりの続編「単純な労働力なんてない」

——13年ぶりの続編を待ち望んでいた人は多いと思います。このタイミングで続編を製作することになった経緯について教えてください。

中園ミホさん(以下、中園):実は、13年前に『ハケンの品格』を書くにあたって取材した派遣社員の人たちと今でもご飯を食べたり、飲み会をしたり連絡を取っているんです。あれから彼女たちも年を重ねて、一番若い人でも40代になったのかな。

たびたび、彼女たちからも「続編はやらないんですか?」と聞かれていて、私自身も続編を作りたいと思っていました。でも、ドラマって俳優さんたちのスケジュールやテレビ局がその気になってくれるかとか、いろいろな条件が重なって奇跡的なタイミングで作られるものなんですよね。

そんな中で、平成の終わりの2019年1月8日にNHKで放送された『クローズアップ現代+ 1月8日 始まりから終わりへ ~ヒットメーカーの平成~』という番組に出演した際のインタビューで、「もう一度私は『ハケンの品格』を書かなきゃいけないなと思っている」「平成の次の時代に『ハケンの品格』を書くとしたら大前春子さんの敵は人間じゃなくてAI」「時代の流れに取り残されていく人は必ずいつの時代にもいると思うし、その人たちに元気になってもらうドラマを書きたい」などのお話をしたのですが、それを日本テレビの人たちが見ていて「ぜひ続編を作りましょう」とお声掛けいただいて具体的に動き始めました。

日本テレビ提供(以下、同)

日本テレビ提供(以下、同)

——番組HPには「AI」のほか「働き方改革」や「副業」という言葉も載っていました。前作では「働くことは生きること」というテーマが軸として据えられていましたが、それは変わらないですか?

中園:「働くことは生きること」は変わらないです。前回と違うのは、今の派遣さんの“敵”は、正社員ではなくてAIなんじゃないかっていう……。「単純な労働力は取って代わられる」と言われますが、単純な労働力なんてこの世にはないんですよね。

そんな話を考えていたのですが、世の中では“敵”がAIと新型コロナウイルスになっちゃって……。ですが、現実世界で苦しんでいるコロナをドラマの中でまた見たいとは思えないと思うので、ドラマではコロナがない世界を描こうと思っています。

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コロナ禍を考えると筆が止まる

——『ハケンの品格』は中園さんが派遣社員の女性に取材を重ねて「絶対に当てますから」とテレビ局に直談判した初のオリジナル企画だったそうですね。「取材の中園」と呼ばれているほど、中園さんは取材相手の本音を引き出すことに定評がありますが、今回も取材をされたのでしょうか?

中園:続編を作ることが決まってから1回、取材という名目の飲み会を開きました。半分お祝いの楽しい宴会で、皆さんすごく喜んでくれました。そのうちに新型コロナウイルスの問題が出てきていたので、先ほどの派遣社員のお友達にLINEでお話を聞くようになりました。中には50代に差し掛かった人もいて、親の介護の問題や派遣同士で結婚して子供を保育園に入れるのに苦労したとかいろいろな話を取材できました。

——若い世代の人たちには取材したのですか?

中園:若い派遣社員の子たちはドラマの現場にたくさんいるので普段からよく話を聞いているんですが、今はコロナ禍で特に大変ですよね。実家にも帰れないし、下積みの子たちは余裕がないから今月の家賃も困る状況らしく、すごく心配しています。

でも、そうはいっても脚本を書き進めないといけないし、書きたいことはたくさんあるのですが、「撮影ができるのかな」と考えるようになっちゃって正直ちょっとしんどいです。粛々と書いてはいるのですが、一気に書けないというか、いちいち考えちゃって筆が止まる。『ハケンの品格』は、見てスカッとしてほしいドラマだから自分がこんなに落ちてちゃダメですね……。

私は真正面から社会を描くことや、社会派ドラマを書くのが苦手なので、このドラマを見ている間だけはゲラゲラ笑って楽しんでいただきたい、そう願って書いています。その中に、それぞれの立場の人の切実な本音を込めていきたいと思っています。

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「がんばって生きていこう」と思えるドラマに

——前作が放送された2007年と今で変わったことって何でしょうか?

中園:やっぱり職場における非正規雇用労働者の割合が多くなりましたよね。それにもかかわらず待遇はよくなっていない。2007年当時よりもさらに厳しい状況です。

特に今はコロナ禍で家賃が払えない、ご飯が食べられない人がたくさんいるという状況を見ると、いろいろ考えさせられます。私は権力に怒りをぶつけるより、茶化(ちゃか)したりするのが好きなんだけど、あまりにも迷走しているなと。政治って大事だなとつくづく思いました。この国はなんだかんだ言われてもしっかりしていると思っていたけれど、泣いている人たちや、医療の現場で戦っている方たちの逼迫(ひっぱく)した声を聞くと、あなたたちも命がけでやってくださいよ! と叫びたくなります。

ただ、先ほども言った通り続編は新型コロナがない世界でスタートします。「こんな状況でなに能天気な話を書いているの?」って見えちゃうかもしれないけれど、ドラマでは「働くことは生きること」をテーマに正社員も派遣社員も同じ目的に向かっていけるだろうし、そこには人間同士の情も通うだろうし、愛情も芽生えるだろうっていう希望のもとに作っているドラマなのでそれは貫こうと思います。

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——最後に『ハケンの品格』を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。

中園:自粛やテレワークでおうちにいらっしゃる方が多いと思うのですが、春子はさらにパワーアップしているのでスカッとしていただければと思います。13年前は「明日もがんばって働こう」という気持ちになってほしいと思って書いていました。続編は「がんばって生きていこう」と思ってもらえるように書いていきますので、ぜひご覧ください。

『ハケンの品格』は日本テレビ系で6月17日午後10時スタート。毎週水曜放送。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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