『思わず考えちゃう』インタビュー第1回

「できないよね」ってちゃんと傷を舐め合いたい “思わず考えちゃう”貴女へ【ヨシタケシンスケ】

「できないよね」ってちゃんと傷を舐め合いたい “思わず考えちゃう”貴女へ【ヨシタケシンスケ】

絵本『りんごかもしれない』『りゆうがあります』など、子どものみならず大人にもファンが多い絵本作家のヨシタケシンスケさん。3月30日に初のエッセイ集『思わず考えちゃう』(新潮社)を上梓しました。発売されるやいなやたちまち重版がかかり、話題になっています。

ヨシタケさんがいつも持ち歩いているというスケジュール帳に書き留めたメモやスケッチを元に、「実は、こんなことがあったんです」「あんなことを考えていたんです」と自ら解説した一冊。

「富士山を撮るのは盗み撮りにならないの?」という日常のちょっとした疑問から「何かを決めた瞬間が一番楽しい」といった「幸せ」について“思わず考えさせられちゃう”エピソードなどがつづられています。

“思わず考えちゃう”女性に向けて、ヨシタケさんに5回にわたってお話を伺いました。1回目のテーマは「真面目な貴女へ」です。

【関連記事】吉本ばなな「傷があるなと認識するだけ」

ヨシタケシンスケ『思わず考えちゃう300

「こうあるべき」にとらわれている

——エッセイは初めてということですが、本が完成していかがですか?

ヨシタケシンスケさん(以下、ヨシタケ):こういう体裁の本は初めてなので、今回はとても心配ですね。ドキドキしていますね。どういう形で読んでいただけるのか、楽しみですけど、今は不安のほうが大きいですね。

——ウートピは働く女性を応援するメディアなんですが、読者やまわりの友人を見ていて思うのが「真面目だなあ」ということと、「普通」や「常識」にとらわれていて息苦しそうだなということなんです。余計なお世話かもしれないですが、何となくそういう人たちにヨシタケさんの本を読んでほしいなと思ったんです。

ヨシタケ:僕自身が「こうじゃなきゃいけない」「普通はこうあるべきなんじゃないか」という考え方に苦しめられているというか、とらわれているんです。子どものころからの心のクセとして「こんなことしたら怒られるんじゃないか」といちいち引っかかるんです。

だからこそ、「そうじゃなくてもいいと思うよ」「こういう考え方もあるよね」というのを、日々自分に言い聞かせないといけないんですよね。なので、真面目な方の気持ちはすごくよくわかります。

とはいえ「できねえよな」というのは、誰よりも本音として言えるというのもあって。それもわかってるし、ある程度年を取ったことで、綺麗事ってなかなかうまくいかないよねってことも知っている。両方の気持ちがわかるときに「それをどう埋めていけばいいのか」と。

理想があって、現実があって、「じゃあ自分はどの辺に落とし込めばいいのか?」という部分で悩んじゃうんですよね。

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ヨシタケ:でも、みんな置かれた状況や環境はそれぞれ違うから、最後は自分で決めないといけないという至極当たり前のところに帰ってきちゃうわけなんだけど、そんな身も蓋もないことをちゃんと言いたいし、そうはいっても「できないよね」というところをちゃんとスタートにしたいなって。やっぱり、型にハマってない人のほうが格好良く見えるじゃないですか。

——そうなんです。でも、そこまで振り切れない。

ヨシタケ:型にハマらないのはかっこいいってわかっているんだけれど、自分の人生の役割としてあっちは無理だなと。目指しても無理だというのは、年を取ってくるとわかるわけで、でも「あっちは無理だな」とわかったときに、やっと落ち着ける瞬間があるんですよね。目指さなくていいんだって、肩の荷が下りる部分がある。

それを、20代、30代でまだ頑張らなきゃいけないんじゃないかって思っていたときに、僕自身が言われたら救われたはずなんですよね。

結局、他人のことってよくわからない

——過去の自分に言ってあげたいということですか?

ヨシタケ:そうですね。悩めば悩むだけ解決されるんじゃないかと思っていて、悩む量が足りないんじゃないかと悩んでいた自分に「いやいや、別に悩みは減らないから」と教えてあげるだけで、同じ悩みでも随分気楽に悩めるはずで……。

そういう、生きてきてやんわりわかってきた部分を、絵なり文章なりにして、かつての自分に伝えたいというか。昔の自分が聞いたらちょっとホッとできるんじゃないかという言い方を日々探しているし、今日の自分にとっても必要なことなんですよね。明日気付くであろう、今日の自分に言ってあげたいことでもあるんですよね。

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——ということは、ヨシタケさんが誰に向けて絵本を作るのかって言ったら……。

ヨシタケ:自分に向けてなんですよね。絵本でも何でもそうなんですけど、テーマとして共通してるのは「他人(ひと)のことってよくわからない」ということに尽きるんですよ。自分のことは経験としてわかるけれども、他人のことはわかったつもりで全然違ったりするわけですよね。

だから、おそらく世間の人はこういうところを求めているはずだとか、みんなこう思ってるに違いないみたいなことに、僕は何の自信も持てなくて……わかるわけないじゃないですか。でも、僕だったらこう思うし、僕だったらこう言われるとうれしいんだけど、ということであれば言える。

よく言うのが、自分用の松葉杖みたいなものを自分で作っている感覚というか、自分が歩きやすくなるような道具を自分で一生懸命作って、「これは僕にとって役に立つんですけど、いかがですか?」と。

「もし使いやすいようであれば、使っていただいて構わないですし、肌に合わないようだったら、ただちに使用を中止してください」って。そういう感覚のモノづくりなんですよね。

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ちゃんと傷を舐め合いたい

——マーケティグじゃないんですね。

ヨシタケ:うん。マーケティングは怖くてできない。僕の仕事としては、世の中の2、3割くらいの人に共感を得てもらって、2割くらいの人をイラっとさせられれば十分なのかなって。ギリギリ喜んでくれる人が勝っていれば、世に出していいのかなって。

ただ、僕みたいな人って少なからずいるんですよね。100人の中に15人くらいは必ずいて、そういう人たちに「だよねー」「なかなかできないよなー」とちゃんと傷を舐め合いたいなって。

今回の本も、そういう本だと思っていて、生真面目な方同士で生きづらさみたいなものを再確認して、それをすることによって生きやすくなるわけじゃないんだけど、「辛いよな」って言えるだけでも、言った前後30秒くらいは気分が楽になる。だから、そういう志の低い感じでいければいいなとは思っています。

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——「志の低い感じ」っていいですね。

ヨシタケ:僕自身が絵本作家になれるとは思ってなかったし、なりたいとすら思ってなかった人間が、こういうモノを発信する側になったことが、過去の僕に教えてあげたい事実なんですよね。

ずっと真面目じゃなきゃいけないんじゃないかと気に病んでる、人の目を気にして気疲れしていた人間が、インタビューを受けたりすることもあるんだよ、という僕の通ってきたこと自身がすごく一つのメッセージになるはずで。それであったら言えるというか……。

——それって希望ですよね。

ヨシタケ:そうですね、何があるかわからないなって。ずっと心配してたことやビクビクしていたことが、ある日突然、自分を前に進めることがある。誰かとつながるきっかけになる。それはすごく希望になるはずなんですよね。

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※次回は4月11日(木)公開です。

(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子、撮影:宇高尚弘)

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