『犬は歌わないけれど』インタビュー・後編

僕が“ポップな歌”を作り続けてきた理由【水野良樹】

僕が“ポップな歌”を作り続けてきた理由【水野良樹】

音楽ユニット「いきものがかり」のリーダーとして、数々のヒット曲を世に送り出してきた水野良樹(みずの・よしき)さんによるエッセイ『犬は歌わないけれど』(新潮社)が11月30日に発売されました。

「いきものがかり」としての活動だけでなく、ソロプロジェクト「HIROBA」や各メディアでの連載執筆など、幅広いジャンルで活躍する水野さんの日常が綴られています。

前編に引き続き、後編は2017年に誕生した息子や今年6月に脱退した山下穂尊さんのこと、ポップソングを作り続ける理由について伺いました。

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「みんな誰しも、遺されてる」

——お子さんが生まれてから、水野さん自身の変化はありましたか?

水野良樹さん(以下、水野):僕の中ではすごくありました。当たり前ですけど、それまでは自分の人生のことばかりしか考えていなかったので、生き死にに関しても「死んじゃったら終わりだな」ってどこかで思っていたんです。でも、息子が生まれてからは、「今もし死んじゃったら、保険とかどうなるんだ? 学校は大丈夫かな?」って、自分の人生以上のことを考えるようになりました。

そうやって考えていくと、自分も誰かの人生の後を生きてることに気付くんです。息子は自分よりも多分長生きするから、僕の思い出を持ちながら生きていかなきゃいけないじゃないですか。僕は今も、祖母がかけてくれた愛情みたいなものを引きずって生きてるんですけど、そういう意味で彼女の後を生きてるという感覚があります。みんな誰しも、遺されてるんだなって。

——その変化は、歌にも反映されていますか?

水野:僕は、いわゆる老若男女、万人受けするポップな歌を目指してきたほうですけど、基本的に死をイメージして歌を書いてきたんです。「最終的にはみんな死んじゃうよ」みたいなことをテーマに書いてきたんですけど、そもそもこれまで僕が考えていた死って「自分の死」しかなかったんですよね。自分が終わったら世の中も終わっちゃうから、それまでに大切な人に思いを伝えておきたいとか、大切な人との時間を大事にしたいという考え方だったんです。

でも死というのは、遺された人が感じる死という、もう一つの側面があって。僕は祖母の後を生きてるし、息子も僕の後を生きると思うんですよ。みんな亡くなった家族や友人、大事な人がそれぞれいて、“誰かの死の後”を生きてる人のほうが多いじゃんって。「本当にポップな歌は、そっちの人たちに贈る歌なんじゃないか?」っていうことを考えると、どんどん歌の幅が広がっていってテーマも変わってくるんですよね。

だから、死とは全然関係ない恋の歌を歌っていても、根幹ではそういうところにつながっている。例えば、今までだったら「終わらない恋」という歌詞があったら、「いや、終わるから」「書きたくない」って思っていました。恋というものは、人生という限られた時間のなかで起こる一瞬の出来事だと考えていたんです。でも、今は「思い出として恋をどう感じるか?」という考え方に変わりつつあります。年を取ったからかもしれないけれど、そういうふうに歌のテーマが変わっていくと、歌が違ったものになっていく気はします。

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“万人受けする歌”を目指してきた理由

——今回のエッセイ集の「桜のような歌を書きたい」という章でも歌やポップソングの役割についてつづられています。「万人受けする歌を目指してきた」というのはなぜですか?

水野:もちろん、売れたいという気持ちもありますし、褒められたいという欲望もあるんですけど……。ただ、そういう一面的なものだけじゃなくて、単純に「僕」という人間の限界を超えたほうがいいなって。

例えば、僕が影響を受けた曲を作った人で、坂本九さんや永六輔さんは亡くなっていますけど、影響を受け続けている。実際にお会いしたこともないし、お話したこともないですけど、それを超えてつながっている。そこにロマンがあると思っていて。僕が死んでも曲は残るし、そこに可能性を感じていたいんですよね。

でも、全員に気に入られるのは無理だから。10人いたら1人か2人は嫌いだって言うだろうし、仲良くなるのは難しいと思うんです。理屈ではその通りだって分かっているんですけど、曲を書く上ではそこを超えないと。しんどいですけど、難しいですけど、そこを超えたいと思って曲を作っている感じですね。

分かり合えない他者とつながる可能性

——前回、「音楽で人とつながれる」という原体験について伺いましたが、エッセイの「つながることができないものを」の章が印象的でした。一人の人間としては分かり合えないかもしれないけれど、歌は分断を超えていく可能性があってそれが「文化」がもつ屈強さなのだと。

水野:子供の頃から、「なんで人とうまくいかないんだろう?」っていうのはずっと考えていて。もしかしたら、今も思っているかもしれない。たまたまこういう仕事に就いたので、人よりも多く他者と向き合うことになっちゃったから、いろいろと考えることはあります。

エッセイにも書きましたけど、顔を出しているので、誹謗中傷や怖い言葉をかけられることもあります。でも、そんな人たちが「いきものがかりの曲をカラオケで歌った」などとつぶやいていたりするんですよね。「この人も自分の曲を聞いているんだよな」「曲はこの人と仲良くなってるんだ」って、ポジティブに考えられるようになっていて。自分という人間だけじゃなかなか分かり合えないかもしれないけれど、そこを越えていくために歌を作っているのかもしれないです。

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頭は“親友”山下くんのことでいっぱい

——書き下ろしの「親友」の章では、元メンバーの山下穂尊さんについてつづられています。

水野:ちょうど、このエッセイ集を出すときに、加筆で何本か書きましょうという話になって。事前にスケジュールをいただいてたんですけど、締め切りの直前に山下くんの脱退発表があったんです。締め切りが近づいてきて、「書かなきゃ!」って思っているんだけど、頭の中は山下くんのことしかなくて……(笑)。この頭で日常のことを書いても上の空だなと思ったので、締め切りを伸ばしてもらって、山下くんのことを書かせていただきました。

やっぱり気持ちが乗ってるほうがいいし、自分も一度整理しておきたいなという思いもあって。最後のライブをする前だったので、脱退発表してみなさんどういう反応をするのか分からない状態だったから、ここで気持ちを書き留めておきたいなという気持ちもあったんですよね。それで、この場所を使わせていただいたんですけど。

——山下さんとは別々の道を進むことになりましたが、今思うことはありますか?

水野:あいつが一番楽しんでるんですよ。山下くんが一番開放されちゃってて(笑)。キャンピングカーを持っているので、山にも行くし、北海道とかで旅をしたり。あいつ、山小屋を持ってるんですけど、うちのスタッフにも「山に来いよ。飲もうよ」って言ってるらしいですよ。だから、いつも圏外で連絡がつかないんです。

でも、あいつらしい人生ですよね。そういう生活を楽しんでるし。まあ、それも腹立つんですけどね(笑)。「やったー!」って感じで。これからの人生を考えてもうちょっと落ち込めよって思うんですけれど。でも、あいつらしいです。すごく楽しんでるみたいなので、よかったなって思ってます。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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