ニューヨーク地下鉄の複数路線が乗り入れるユニオン・スクエア駅。地上ではニューヨークでもっとも有名な市場、ファーマーズ・マーケット「ユニオン・スクエア・グリーン・マーケット」が開かれ、新鮮な野菜や果物が販売され、たくさんの買い物客でにぎわいます。マンハッタンの中心地であり、乗降者数の多く、もっとも忙しない駅の一つであるこの駅の通路で、今こんなカラフルな光景が見られます。
これらのポストイットには一体どんなことが書かれているのでしょうか?
“自分の思う正義のために戦おう“
“ニューヨークよ、真実のままに!”
“選挙人団*なんて拒否!”
“おかしなシステムだ!”
“私はいまも彼女とともにある“
“絶対に大統領だなんて認めない”
そうです、ここに書かれているのは、大統領選で勝利したトランプ氏への批判のメッセージ。「彼女」とは、もう一人の立候補者・クリントン氏のことを指しています。
*アメリカは、一般市民も選挙に参加しますが、実際に結果を左右するのは州ごとに定められた選挙人たち。選挙人団の票をより多く獲得した候補者が大統領になります。
“アートの壁”で対抗するニューヨーカー
ニューヨーク市民の約8割の人々はクリントン氏を支持していたといわれる今回の選挙。数々の差別的発言に加え、不法移民には厳しく対処し、メキシコとの国境には壁を作る、その建設費用はメキシコに負担させる、とさえ公言していたトランプ氏に対して、ニューヨーカーたちがアートの壁でいまの気持ちをぶちまけたのです。
“あなたはこうやって壁を作ろうとしているんでしょ”
“これが壁を作る方法というものさ”
始まりはサブウェイセラピー
地下鉄の通路の壁に、ポストイットでメッセージを貼ることを最初に始めたのは、ストリート・アーティストのMatthew Chavezさん。半年ほど前から、このような通行人参加型のインスタレーションアート”Subway Therapy”を始めたそうです。彼がしていることは、とてもシンプル。ペンと紙を置いて、”Express yourself.”と伝えるのみ。「僕がしていることは、ただ人々に気持ちを表現してもらっているだけ」と言いますが、大統領選以後、選挙結果にあまりにショックを受けた人々がこのような政治的なメッセージを書くようになったそうです。当初、別の駅で始まったこの試みは、ほかの駅にも広がっていきました。
輸入ブランド・ユニクロの広告もフックに?
興味深かったのは、ユニオン・スクエア駅では、ユニクロのキャンペーン広告のある壁に、この運動が繰り広げられていたこと。ユニクロのキャンペーンは、”Why do we get dressed? (なぜ我々はおしゃれするのか?)”をメインコピーに、さまざまな人種が登場するだけに、ニューヨーカーたちも広告を取り巻くようにポストイットを貼っています。メインコピーの下に”Not for Trump(トランプのためじゃないことは確か)”と落書きされているのには、思わずくすりとしてしまいます。
“絶対にあきらめちゃだめ!”
“みなが幸せになれますように”
“愛は勝つ!”
移民の多い街・ニューヨーク。観光客然とした私のような日本人にも、平気で普通に話しかけてくる、多国籍が当たり前の街。そして、人々がアートを愛する街。季節は今、紅葉のピークを少しすぎたところ。
滞在中、デモにこそ遭わなかったものの、トランプ氏が所有するニューヨークのビルはどこも警察による厳重な警備が敷かれていました。大統領選の余波はまだまだ続きそうです。
(はな)