『暮しの手帖』編集長インタビュー・後編

いろんな人のいろんな暮らしのそばにありたい…『暮しの手帖』が目指すもの

いろんな人のいろんな暮らしのそばにありたい…『暮しの手帖』が目指すもの

1948年の創刊から70年以上、暮らしの知恵を伝えてきた雑誌『暮しの手帖』。2016年には創業者の大橋鎭子さんの軌跡をモチーフとしたNHK連続ドラマ小説「とと姉ちゃん」も放送され、話題になりました。

「丁寧(ていねい)な暮らし」と言えば『暮しの手帖』と思っている人も少なくないのでは? ところが、1月に発売された最新刊(第5世紀4号)の表紙に躍ったのは「丁寧な暮らしではなくても」というコピー。

『暮しの手帖』といえば、丁寧な暮らしを紹介する雑誌の旗振り役ではなかったの? 今号から新編集長に就任した北川史織さん(43)にコピーの真意や同誌が目指すことなど前後編にわたって聞きました。

「自分が満足するやり方」を見つけるヒントになれば

——前編では、話題になった「丁寧な暮らしではなくても」というコピーについて伺いました。後編は、今後の『暮しの手帖』が目指すものについて伺えればと思います。

「ウートピ」読者にはフルタイムで働く女性も多いので、アウトソーシングできる家事は外に出して、できるだけ負担を軽くしようという主旨の記事も掲載しています。世論としても、なるべく女性の家事負担を減らそうという声が大きくなってきている。そういう中で、『暮しの手帖』は今後どういうあり方でいくのでしょうか?

北川史織編集長(以下、北川):「暮らし」に限らず何にでも「手間を減らして幸せになるところ」と「そうじゃないところ」があると思っています。

例えば、私にとって料理はよい気分転換でもあるので、休みの日には手間のかかる料理を作って楽しむこともあります。一方で、平日の帰宅が遅いときは、野菜の蒸し煮などをよく作るのですが、そんな質素な料理だって私にとっては手抜きではないし、満足なんです。

家事は何でも、「自分の満足」を大事にするために、いろんな方法を知っているといいのかもしれません。

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——自分が何に満足できるかを知っておくということですね?

北川:忙しいときはほどほどに。ゆとりのあるときはじっくりと行うことで、満たされることもあるでしょう。経済的に余裕があれば、家事をすべてアウトソーシングすることもできるし、その人が必要で幸せならそれでいいと思うんです。ただ、すべてをアウトソーシングできる人は少ないでしょうし、やっぱりどこかは自分でやらざるを得ない。

たぶん、若いうち、体が動くうちに自分なりの暮らし方を身に付けると、のちのち助かるのだろうなと思います。

家事も正解はひとつではないから、いろいろ試してみて、「私にはこれが向いている」というやり方を見つけられたいいですよね。『暮しの手帖』がそのための知恵をお伝えできたら幸いですし、私自身も知りたいと思っています。

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「家族ってこんなもの」なんて簡単に言い表せない

——暮らしだけではなく、「家族のかたち」の多様化も進んでいます。そんな変化に、『暮しの手帖』はどう対応していくのでしょうか?

北川:『暮しの手帖』を作っていてつくづく思うのは、「いろんな人が読んでいる」という想像力が必要だなあということです。

ある方から、「『暮しの手帖』は一人暮らしの方も読んでいるし、きっと同性のカップルだって読んでいると思う。あらゆる人がふつうに登場する雑誌になるといいね」と言われたことがあって、確かにその通りだと思いました。

事実婚のカップルも増えていますし、この国で働いて家庭を築く外国人の方も多いですよね。「家族ってこんなものだ」なんて、簡単には言い表せません。また、私もその一人ですが、一人暮らしの人口が増えていき、さらに高齢化も進みます。リタイア後に一人で暮らす人は、いまよりも多くなるでしょう。

すでに、高齢の方々同士が集まって暮らす場も築かれていますが、これからはよりいっそう、「家族ではなくても、支え合って暮らす」という関係性が生まれていくかもしれませんね。

高齢の方に限らず、ちょっとしたことなら頼めるご近所づきあいがあるとか、困ったら相談できる友人がいるなどで、「周りに頼ること」も大事なのかな、と思います。そして、子育てや介護も、当人たちだけで抱え込んで苦しまないよう、こまやかに支援する仕組みがもっと必要なのだろうな、と思います。

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——ゆるくいろいろなところやコミュニティとつながる力が必要なのかもしれませんね。

北川:前編でお話した写真家の砺波(となみ)周平さんのように、コミュニティの活動に普段から携わって、お祭りに参加したり、周りの人々とちゃんとつきあって暮らしている人って、やっぱり強いんです。

砺波さんは「このコミュニティが自分にとっての暮らしのベース。ここで年を取っていきたい」とおっしゃっていました。私も近所づきあいがないわけではないですが、そこまで言えるつながりはないので、自分は弱いなと気付かされました。

ターゲット層を絞らない理由は…

——媒体を作るとき、「ターゲットをどの層に絞るのかが大事だ」という意見も聞きます。「いろいろな人が読んでいる雑誌」と想定すると企画が難しいのでは?

北川:そこがいいのかなと、私は呑気(のんき)に考えています。「30代の女性向け」などと区切るよりも、小学生から100歳の方まで読んでいる雑誌だと考えたほうが、なんだか楽しいですよね。いろいろな企画ができますから。

もちろん中にはヒットしない企画も出てくると思いますよ。例えば次の5号(3月25日発売)ではメイクの特集を組んでいますが、男性には「興味がない」と思われるかもしれませんね。

読者の方の投稿によくあるのですが、『暮しの手帖』が家のダイニングテーブルに置かれていて、みんなで回し読みし、食卓で話題に上ったりするらしいんですよ。そういうふうに、家族のみんなが料理から社会問題まで話すきっかけになれたらいいですね。

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ふつうの暮らしを紡いでいく喜びを伝えていけたら

——確かに「30代の女性向け」と言っても、「30代」にも「女性」にもいろいろいます。

北川:男性でも家事に長けている人とか、子育てが得意な人もいるし、外に出て働きたくない人もいるでしょう。属性にとらわれず、「暮らし」は誰にでもあるから、みんなで自分の納得のゆくやり方を見つけていこう、という気持ちでつくっていけたらと思っています。

今年から、弊社のフェイスブックには、「一人ひとりの大切な暮らしのために」というコピーを掲げています。

『暮しの手帖』の創刊は戦後間もない1948年で、読者はきっと、物資のみならず、精神的な豊かさも渇望していたことでしょう。初代編集長の花森安治は、「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」といったことを語り、創刊の理念としたと伝えられています。

「一人ひとりが暮らしを大切に」というのは、決して、「わが家さえ幸せならそれでいい」ということではないと思います。わが家の暮らしが守られて幸せであるのは、平和で満ち足りた社会があってこそ、ですよね。

いまは戦後の混乱期とは異なりますが、この社会で生きることが何となく不安だと感じている方は多いのではないかな、と思っています。私たちは一つの雑誌にすぎないけれど、少しばかりは、「社会の空気をつくる」役割を担っている。そう自覚して、読者のみなさんとともに社会のさまざまなことに向き合い、言葉を発し、ふつうの暮らしを紡いでいく喜びを伝えていけたらと考えています。

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【前編】丁寧な暮らしではなくても…『暮しの手帖』新編集長に聞く、話題のコピーの真意

(聞き手:新田理恵)

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