『ライオンのおやつ』小川糸さんインタビュー・後編

「ルールを決めたら楽になれた」小川糸さんに聞く、自分にとっての“心地よさ”の見つけ方

「ルールを決めたら楽になれた」小川糸さんに聞く、自分にとっての“心地よさ”の見つけ方

小川糸(おがわ・いと)さんの小説『ライオンのおやつ』(ポプラ社)が累計発行部数12万部を突破しました。

余命を告げられた主人公が最期の時間を過ごす場所として瀬戸内のホスピスを選び、穏やかな島の景色の中で自分が本当にしたかったことに気付く——。

前編は、2020年本屋大賞にもノミネートされた同作に込めた思いについて伺いました。後編は、小川さんが仕事や日々の暮らしで決めているルールについて伺いました。

「こういうのもアリなんだ」ドイツ暮らしで気付いたこと

——前編で「(今の社会は)『こうしなければ幸せになれない』と恐怖心をあおられている」というお話がありました。数年間ドイツにお住まいだったと伺ったのですが、外国で暮らして気付いたことはありますか?

小川糸さん(以下、小川):日本は子供のときから教育も含めて「こうしなければいけない」が植え付けられていますよね。一つの価値観に絞られて、そこから抜け出すのってなかなか難しいと思うのですが、ドイツに行ったことで「こういう生き方もアリなんだ」と気付きました。

日々の小さなことですが、いろいろな自由を感じて、その人が心地よくて、他人に迷惑をかけていなければ、その範囲内で自由に振る舞う幅みたいなものがすごく広がった気がします。

——小川さんも昔は「こうしなきゃいけない」と思っていましたか?

小川:思っていましたね。

——それから抜け出たのは、ドイツでの生活が大きいですか?

小川:大きいですね。やっぱり、外国に行くと、編集者さんと定期的に会えなくなるとか手放さなければいけないものもたくさんあったのですが、手放すことで余裕や余白も生まれてそこで新たな発見もありました。

時間の使い方も、生まれた余白の中で違うことができるようになった。今見えている世界がすべてのように思えるけれど、実は別の場所に行けばこれまでとはまったく違う世界が広がっている。それを体で理解できたのは良かったと思います。

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自分のルールを決めることで楽になれた

——そもそも「自分にとって心地よいってどんなことなのか?」が分からない場合もあると思います。小川さんは生活や自分のリズムをどんなふうに確立されましたか?

小川:『食堂かたつむり』で小説家デビューして12年ほどたつのですが、最初は“自分の趣味”で書いていた部分もありました。でも、小説を書くことが自分の仕事として成り立つようになると中途半端なことはできない。

それまでは夜や空いている時間に書いていたのですが、もっと効率よく集中して書くにはどうしたらいいか? を考えたときに、私は午前中が一番作品に集中できる時間と分かってきました。

体力も能力も無限にあるわけではない。いかに効率的に作品を書き続けていけるかを考えたときに、自分にとって心地よいペースで歩くくらいの仕事の仕方が自分にとっては楽だし、最も効率的だと気付きました。効率を考えた結果だったのかもしれません。

——エッセイでも「仕事で人に会うのも週に1回だけ」など、ルールを決めていると書いていらっしゃいました。

小川:相手の意向をすべて聞いていたら「何でもアリ」になってしまいますよね。実際にそうなってしまった経験も踏まえて、自分の中でルールを作るようにしています。

特に、私のようなフリーの仕事であれば「この時間までに会社に行かないといけない」という決まりもないので、自分でここからここまでは仕事をして、ここからここまでは休む、のようなルールを決めないとダメだし、ルールを決めることで楽になれました。自分にとっての心地いい環境がつくれました。

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物を選ぶときも自分の直感に頼ってみる

——物を選ぶときもルールがあるのでしょうか?

小川:自分の中でルールがあります。私は服や器などいろいろなものに対して「軽いこと」を重視しているのですが、まずは自分にとって何が心地いいのかを見極める。それを物差しにすれば、自分からあまりにもかけ離れたものは手にしなくなるのかなと思います。

それが分かるようになったのは30代の後半ですね。それまではいろいろな失敗を重ねました。無駄なものを買ってしまったり、着ない服を買ってしまったり……。無駄だなと思って、勉強して、「次からはしないようにしよう」の積み重ねです。小さなことですが、積み重ねていくといつの間にか大きな変化になっている気がします。

——「また無駄遣いをしてしまった」と落ち込むことがあるのですが……。

小川:落ちこむ必要はないと思います。まずは「これはいらなかったな」と気付くことが大事だし、それは自分のことを知っていく作業でもある気がします。

単純に好き嫌いでいいと思うんですけど、「これは好き」「これは嫌い」と直感に頼ってみる。東京みたいな都市で生活をしていると、その直感自体がどんどん衰えてくると思うし、直感が衰えないように何かしら自然に触れたり、バランスを取ったりすればばいいんじゃないかなと思います。

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(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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