マンガ家の西原理恵子さんによるエッセイ『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(角川書店)が先月発売されました。発行部数は3刷り5万部突破(7月7日現在)と順調に版を重ねています。
これから巣立とうとしている16歳の娘に宛てて書いたメッセージという体で、女性が生きていく上で覚えておいてほしいこと、知っておいたほうがいいこと、心に留めておいてほしいことをつづっています。
“女の子”たちが自分の足で立って、誰の顔色もうかがうことなく自由に自分の人生を歩いていくためには——? 西原さんに3回にわたって話を聞きました。
【1回目】30歳の女の子たちへ「下の世代のためにわがままになってください」
【2回目】「わかり合おう」とかやめない? 家族がしんどい女の子たちへ
「若くて美人」は目減りの資産です
——本の帯にある「王子様を待たないで。お寿司も指輪も自分で買おう。」という一文がすごく好きなんです。そうだよね、人に買ってもらうんじゃなくて自分が稼いだお金で買ったほうが楽しいし気持ちいいに決まっているよねって。
でも、この前若くて美人の後輩が「私は早くお金持ちを捕まえて結婚したいんです」って言っていて。本来だったら「仕事を続けていれば辛いこともあるけれど、あとでリターンとして自分に返ってくるよ。仕事って面白いよ」って“先輩”として言いたかったんですが、ふと「この子なら美人だし、確かにお金持ちの男性と結婚できるかもな」って思っちゃって。何も言えなかったんです。
西原理恵子(以下、西原):若くて美人だと短期レンタルになりますね。
——短期レンタル?
西原:最大瞬間風速の株価が高い時なら宝石ももらえるけれど、そういう男はすぐ次に行きますよ。若くて美人な子も10年たったら古くなりますよね。金持ちは目減りの資産は持たないんです。だから損切りされます。
——ひえっ、損切り!
西原:都会の専業主婦になりたいって子をなめちゃダメですよ。例えば相手がお医者さんだったら、自分も医大に入って医師免許を持って、もちろん語学もできる。実家もお医者さん一族かなんかで、子どもを夫以上の大学に入れられる遺伝子を持っていて、夫の完璧な秘書ができる。そういうのが本物の専業主婦なんです。財力のあるところに行くんだったら、子どもをきちんと育てられないといけないですよね。
高須先生も、お見合いのお免状に医師免許持っている子がすごく多いって言ってました。例えば、夫が医師だったら24時間帰ってこなくて、やっと帰ってきたと思ったらすごく疲れている。そういう状態を理解できるのは実家や自分が医師だから。夫がドイツ語を喋ってもわかるような女じゃないと務まらない。つまり、美人で若いだけでは資産にならないんですよ。
——確かにそうですね。でも、若くて美人の後輩が「東京カレンダー」に載っているようなお店でお金を持っていそうなおじさんとご飯を食べている様子をSNSにアップしているのを見ると「いいなー」って思っちゃうんです。
西原:キャリアを積めば自分で稼いでそういうお店も行けるんだよ。今、私は52歳なんだけれど、人生80年としたら、あと30年いいお店に行けるんです。当たり前だけど自分のお金で。そのほうが楽しいに決まっているじゃない。
おじさんのつまんないお説教聞かなくて済むし、「知らなかったー」「すごーい」とか言わなくて済む。「全然大したことないですねー」って言いながら鼻ほじくりながらお酒飲めるよ(笑)。
——それ最高ですね(笑)。
「おばさん」になったらおしまいって思ってない?
西原:若いときってさ、おばさんになったらおしまいって思ってるでしょ?
——うーん、おしまいとは思っていないけれど「おばさん」って言われるのが怖いってのはあります。
西原:だよね。おばさんになったらおしまいって思っている。若いときなんて特に「今のうちに楽しまなきゃ」って。でもね、それが間違いなの。私を見てねって言いたい。今が人生で一番楽しい。
だから、女の子たちには「20歳が一番いい」なんて思わないでほしい。人生80年でしょ。そうすると30歳から50年生きないといけないんですよ。「私は若い頃は本当にキレイでアッシー君もメッシー君もいたのよ」って言っている同世代の女性もいるけれど、生涯の最大の自慢が人にものをもらったことなんて惨めじゃない?
おばさんになっても幸せな人いっぱいいるし、自分で稼いだお金で好きなドレスや靴を買うってすごく気持ちいい。ちゃんと仕事をしてキャリアを積み上げればそうなれるんです。
——はい。
西原:男に稼いでもらおうと思ったら大変な貧困が待っています。自分の舵取りができるようになるのが大人の始まり。あなたがさっき言った「若くて美人でおじさんにごはんを奢ってもらっている後輩」は大事な時間をおじさんに与えて自分はキャリアをなくしているわけですよね。
『アリとキリギリス』じゃないけれど、がんばってきた女の子は幸せになれるから。それだけは覚えておいてほしいですね。
——本当にそうですね。
「もらったプレゼントが自慢の80歳にならないで」
西原:今ね、私は人生のハッピーアワーに入ったなって思っているんです。
——ハッピーアワー?
西原:夕暮れのビールが半額になる時間帯ってあるでしょ?
——ああ、早い時間に入ればビール半額ってよくやっていますね。
西原:そうそう、人生で52歳ってそのくらい。もう私は夕方の4時くらいからビール飲んでいいの。ここまでがんばってきたから。子どもは独り立ちしたし。そんな人生が待ってるって思ったらちょっとはがんばれるでしょ?
——はい。すごく素敵な人生だなって思います。
西原:だから、今がんばらなかったら誰からも助けてもらえないし、生涯愚痴だらけになりますよ。若い頃もらったプレゼントが自慢の80歳にならないでください。
私のまわりのおばさんたちはみんな「なくしたのはウエストだけ」って言ってる。「ウエストと引き換えにキャリアのない若い頃に戻りたいか?」って聞かれたら、戻りたくない、おばさんでいいって言うの。
そんなふうに歳をとってください。「私の若い頃は〜」なんていう大人にはならないで。自分を振り返ってみても、20歳の頃なんて何も持ってなかったもんね。
——確かに。私も20代、ましてや何もなかったハタチの頃なんて戻りたくないです。
西原:でしょ? 今からハタチの男の子と話したい? 男は熟練工に限るよ、プロのほうが絶対いいって。
「心の中にひとりのデヴィ夫人を」
——インタビューも今回で最終回です。改めて「30歳の女の子たちに覚えておいてほしいこと」をお願いします。
西原:「心の中にデヴィ夫人を飼っておけ」ということですかね。
——その心は?
西原:女の子は我慢しちゃうんです。大事なおやつから時間まで他人にあげちゃうの。でもデヴィ夫人ならあげないでしょ。自分が幸せじゃないとまわりが幸せになりません。辛かったらとにかく逃げて。それだけは覚えておいてほしいです。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)