『結婚の奴』インタビュー・前編

「大人は区切りや義務感が欲しくなる」能町みね子が結婚した理由

「大人は区切りや義務感が欲しくなる」能町みね子が結婚した理由

文筆家・マンガ家の能町みね子(のうまち・みねこ)さんによる最新エッセイ『結婚の奴』(平凡社)が12月20日に発売されました。

“結婚のやつ”をめぐるモヤモヤとした気持ちを抱えながら、ゲイライターのサムソン高橋さんと暮らし始め、恋愛でも友情でもない2人の生活をつくるまでや、過去の恋愛や結婚への思いについて赤裸々に語った意欲作です。

恋愛や交際など一般的に“結婚へのプロセス”とされているものをすっ飛ばして「お互いの生活の効率性」を追求するために「結婚」した能町さんに話を聞きました。前後編。

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カタカナ7文字の固有名詞に込められた仕掛け

——章のタイトルが全部カタカナの7文字なんですね。「ジェラートピケ」とか「エクストレイル」とか「ポプテピピック」とか……。

能町みね子さん(以下、能町):元々は「ウェブ平凡」で「結婚の追求と私的追究」という固いタイトルで連載していたんです。

最初の章タイトルは「ジェラートピケ」でゆるくてほんわかした感じですが、本文はいきなりうんこ漏らした話なんですよね。なので、章タイトルはいかにも“ハッピーな結婚”のような感じにしようと思いました。「ジェラートピケ」のメルヘン感とタイトルの論文感とうんこ漏らしてる話があって、全部ゴチャゴチャで一貫してない感じがギャップだらけで面白いかなと。

第二章のタイトルは「エクストレイル」ですが、連載時は「ソファーベッド」だったんです。新婚の甘い感じがするし、「ジェラートピケ」と同じ7文字だし。こうなったら7文字でそろえたほうがキレイだし、型にハマった感じでいいなと思ってカタカナ7文字にまずそろえました。

そして、いざ本にしようと思ったときに、「ジェラートピケ」のような固有名詞はもしかしたら10年後に誰も分からなくなるかもしれないから、そういう言葉をひたすら並べたほうが時代を表して面白いなと思って、すべて固有名詞のカタカナ7文字に統一しました。

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——注も丁寧に付けられていますよね。それこそ「ジェラートピケ」や「王様のブランチ」、「キリンジ弟」まで。

能町:そのうち分からなくなるような固有名詞が多いので、注をたくさん付けたかったんです。ちょっとだけ意識したのは田中康夫『なんとなく、クリスタル』です。あの小説ほど多くはないですけど。

——「エクセシオール」と「エクセルシオール」は違うんですよね。「そういえばエクセシオールってあったかも……」と思わずネットで調べました。

タイトルは『ジェラートピケ・ストロングゼロ』だった

——タイトルはなぜ『結婚の奴』なんですか?

能町:タイトルはすごく迷いました。章タイトルのように7文字にこだわっていたので、最初の案は『ジェラートピケ・ストロングゼロ』だったんです(笑)。でも、商標の問題でダメになって、その後はなかなかこれといった案が出ませんでした。

そんなとき、たまたまこの本にも出てくる「星男」というバーに行ったのですが、そこで「結婚のやつ、読んでるよ。あれ本になるんでしょ?」と何気なく言われて。それで「結婚の奴」っていいなあ、と思ったんです。

「奴(やつ)」っていろいろな意味がある。「結婚について書いたやつ」というシンプルな意味もあるし、「結婚という概念の奴隷」とも取れるし、「結婚といういまいましいやつ、でも憎みきれないやつ」というニュアンスもあります。しかも「けっこんのやつ」ってちょうど7文字なんです。

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結婚は大成功

——サムソンさんと暮らし始めてもうすぐ2年だそうですね。結婚生活はいかがですか?

能町:私はお陰で効率的な生活ができるようになりました。精神的にも落ち着いた日々を過ごしている気がします。

誰かと一緒にいると生活に多少しまりが出るのがいいなって。「今日は用がないからずっとダラダラしてしまった」がなくなる。どちらかが起きたら片方も起きる。午前中にちゃんと起きて出かけるようになりました。

一人暮らしのときは一応10時くらいには起きるんですけど、朝ごはんを作るわけでもなく、おなかが空いたままダラダラする。おなかが空いているから外に出るのも面倒くさいし、14時くらいまでほとんど何もしない、ということが結構ありました。

——じゃあやっぱり、能町さんにとって、この「結婚」は成功でしたか?

能町:今のところ大成功ですね。すごいです。計画がうまくいきました。

——「これは想定外だったな」というのはありますか?

能町:2人の衛生観念とか細かい部分ではありますけど、でもその程度ですね。

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猫を飼ったのも大成功

——ツイッターで知ったのですが、最近、猫を飼い始めたそうですね。

能町:そうなんです。きっかけは何だったかな? 前から猫が好きで、本気じゃない感じで「猫飼いたい」とはずっと言っていたんです。でも、私が仕事場として借りているビルの1階に誰かが餌付けした猫が住み着いていて、見かけるたびにかわいがっていたら“猫飼いたい欲”がリアリティを持ってだんだん膨らんできちゃって……。

知り合いに保護猫がいないか聞いていたら、うちの親のツテで「猫がいる」と。写真を送ってもらったらもうダメでしたね。「飼おう!」となっちゃいました。

——猫が家族に加わったんですね。

能町:結婚もそうなのですが、責任感を持ちたい気持ちがあるのかもしれない。一人暮らしのときはあまりにも自由で、縛るものがなさ過ぎて、掃除も料理も一切しないで洗濯も週一でギリギリやっているような感じで、どんどんだらしなくなっていったんです。

でも、誰かと暮らすと、家事でも縛りができるし、さらに猫なんて飼ったら、ちゃんと世話しないといけない。子供はさすがに現実的に厳しいと思うので、猫だったらいい縛りになるんじゃないかと思いました。猫にとっては勝手で都合のいい話なんですけれど。

——じゃあ猫も飼ってよかったですか?

能町:今のところ何の問題もなく、大成功だと思っています。

——こんなことを言うと怒られるかもしれないですが、猫を飼うのって子供がいるのとちょっと似ているのかなと思います。

能町:似ているとは思いますね。こっちの意思が通じないところもいいんですよね。

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区切りや義務感をつくりたい

——猫を飼うと、自分のためだけではなくて猫のために働いているというふうになる気がします。

能町:そういう“義務感”を自分でつくりたい気持ちってありますよね。あと、区切りを付けたい、という気持ち。

この前、ジェーン・スーさんと『結婚の奴』の刊行記念トークイベントをしたときにもその話になったんです。学校に通っていると、区切りは勝手にできる。小学校6年、中学校3年、高校3年、大学なら4年。「大学1年生のときに、こういう事件があったなあ」って、わりと思い出しやすいですよね。

でも社会に出ると、下手すると20年、30年、何の区切りもない。日々ダラーと過ぎていってしまう。そこに何か区切りを付けたい気持ちが生じるから、人は結婚したり、子供を産んだりするんじゃないかと。もちろん全部が全部じゃないけど、そういう面もあるんじゃないかと。

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——そうかもしれないですね。ライフイベントが発生しますもんね。

能町:イベントをつくりたいんですよね、きっと。猫を飼うのもその一環かもしれない。自分で箱をしっかり作って、そこに収まりたい気持ちがある気がします。

子供がいる人はつい話題が子供一色になりがちですけど、私も最近はつい猫の話をしそうになります。「何か話題ないかな?」って思ったときにまず猫が出ちゃう。

——すごく分かります。それは仕方ない現象ですよね(笑)。

能町:写真も見せたいし。

——私も猫を飼っているんですが、あっという間にスマホの待ち受けもラインのアイコンも猫になりました。

能町:私はまだ待ち受けにはしてないですね。そこはちょっと守っておこうかなって(笑)。

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後編は1月23日(木)公開です。

(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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