『結婚の奴』インタビュー・後編

恋愛も結婚も“実験”するのが楽しい。コンプレックスとの向き合い方【能町みね子】

恋愛も結婚も“実験”するのが楽しい。コンプレックスとの向き合い方【能町みね子】

文筆家・マンガ家の能町みね子(のうまち・みねこ)さんによる最新エッセイ『結婚の奴』(平凡社)が12月20日に発売されました。

“結婚のやつ”をめぐるモヤモヤとした気持ちを抱えながら、ゲイライターのサムソン高橋さんと暮らし始め、恋愛でも友情でもない2人の生活をつくるまでや、過去の恋愛や結婚への思いについて赤裸々に語った意欲作です。

恋愛や交際など一般的に“結婚へのプロセス”とされているものをすっ飛ばして「お互いの生活の効率性」を追求するために「結婚」した能町さんに話を聞きました。前後編。

【前編】「大人は区切りや義務感が欲しくなる」能町みね子が結婚した理由

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世間の「常識」から逃れられない自分

——能町さんがやられていること――今回は「結婚」ですが、それらは擬似的なプレイで、世間の「当然」や「常識」にはどうやっても一生手が届かないと綴られていました。世の中で「普通」や「一般的」とされていることへの執着や憧れのような気持ちがあるのでしょうか?

能町みね子さん(以下、能町):「常識」とされていることをやらなければという義務感のような思いは、一生消えないと思います。「常識」とか「普通」なんてくだらないと思っているはずなのに、「そこを守らないとダメ」と考えるすごく保守的な自分がどこかにいるんです。

どこかで「本来はそれが正しい」って思っているんです。家を継がなければとか、たくさん子供を産んで子孫を繁栄させなければとか、古風にもほどがある考えが正しいという固定観念が自分の根っこのどこかにある。刷り込みに近いものです。そこから逃れたいがゆえに、わざわざそこに反することを頑張ってやろうとしているところがあります。

——この本を書いたことで「常識」への執着が薄まったり、考えが変わったりというのはありますか?

能町:うーん。今でも、刷り込みはそう簡単に抜けないと思うんですよね。それが正しいと思いたくはないんですけれど、どこかにはある。

田舎に帰って、家を継いで、子供を育てている人を、今でも無条件でどこか「偉い」と思っちゃう。「偉い」と思う必要は全くないはずなのに、やっぱり瞬間的には思っちゃうんです。

——いち読者として能町さんの著作を読んできて「こういう生き方もあるんだ」「常識にとらわれなくていいんだ」と勇気づけられてきたので、能町さんがそんなふうに感じているというのが驚きというか、意外でした。

能町:心の底にある「こうすべき」という保守的な規範が自分でもすごく嫌で、どうにか打ち消したいなと思っているので、全部、反動なのかもしれません。もういい加減そこから解放されたいと思っているんだけど、そう簡単に脱出できない。

——だからこそ、恋愛のプロセスをすっ飛ばしていきなり「彼氏」をつくっちゃうとか、結婚までの面倒くさいあれこれをなくして「結婚」しちゃうとか、行動力がすごいなあと思います。

能町:行動することで形骸化させたいんです。

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恋愛は向いていないと気付いた

——本の中では過去の恋愛についても書いてらっしゃいます。

能町:恋愛は出だしだけは多少楽しいですね。中学生レベルのお付き合いまでは。といっても、その人のことが好きで一緒にいられるから楽しいというわけではない気がします。みんなが楽しんでいる恋愛を自分もできている、という達成感に近い。

——バレンタインだから恋する女の子がやっているチョコ作りに挑戦しようか、とか……。

能町:マニュアルをなぞる満足感ですよね。でも、ほかの人はどうなのかなって。

——実は能町さんだけじゃなくて、みんな擬態している可能性もありますよね。「恋愛とはこういうものだから」と少女マンガや恋愛ドラマをなぞるような……。

能町:もしかしたら多くの人が擬態かもしれないですよね。みんなが本当に混じりっけない気持ちでバレンタインチョコを作っているかというと、実は「プレイ」でやっているだけなんじゃないかと。恋愛のプレイに満足している、みたいな。

でも、失恋してめちゃめちゃ落ち込んだという話は知り合いでも結構聞きますけど、私は本当にその経験だけはないんです。「恋人と別れて何も食べられなくなり、げっそり痩せた」なんてことが全くない。ちょっとへこんでも2日くらいで気持ちが戻るし、未練もほとんどない。やっぱり自分は恋愛に向いていないんだ、ということはこの本を書きながら改めて気付きました。

——“実験”して分かったんですね。恋愛に限らず、ほかのことでも“実験”してみてもいいかもしれないですね。世間ではみんな当たり前のようにやっていることも自分には合うとは限らないし。コンプレックスと言っていいのかは分からないのですが、そういうモヤモヤがあったら一度“実験”してみてもいいかもしれないですね。

能町:コンプレックスと向き合って、モヤモヤした部分を実験で確かめるのは面白いです。大人になると、できることが結構多くなるので。子供のときだと、自信がなさ過ぎて何もかもうまくできないけど、大人になると冷静に動けることもある。

結婚の話とはズレてしまいますが、私は子供の頃から運動が本当にダメで、体もものすごく固かったんです。でも最近、ストレッチ教室に通うようになって、子供の頃から一度も手が床に着かなかったのが、一年かけて着くようになった。できないことも一個一個つぶせるんだな、と気付いたんです。大人ってそういうところがいいなって。

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「恋愛」だった? 雨宮まみさんへの思い

——恋愛の文脈で、(2016年に亡くなった、ライターの)雨宮まみさんへの思いも綴(つづ)られていました。能町さんの、雨宮さんへの思いは「恋愛」だったのでしょうか?

能町:結論は出ていないんですけれど、書いているうちに恋愛に近いものに思えてきました。

でも、恋愛感情って結局何なのか、突き詰めると分からない。恋愛と性欲って、近いようで全然違います。雨宮さんに対して別に性的な魅力を感じていたわけじゃないけど、それ以外の面で「恋愛はこういうもの」というチェックリストを作ったときに、たくさんチェックが当てはまるんです。そういう意味で恋愛っぽい、と思いました。

「結婚」の箱に入ることで安心する自分

——この本を読んで、恋愛って何なのか、結婚って何なのか、分からなくなりました。

能町:それは本望です。分からなくしちゃいたいですね。

でも、例えば「結婚」という箱に入ることで安心する部分もある。私は今の自分の状況を無理やり「結婚」と言い張っているんですけど、一般的な意味で「とりあえず結婚したい」という人の気持ちも分かるんです。

自分に何か区切りをつけたい、何もすがるところがないのが不安定過ぎて、とりあえず世間体として安定した形に落ち着きたい。そういう意味で「結婚したい」となるのも分かります。

——ウートピは編集方針として、ずっと「世間の『こうしなきゃ』の呪いにとらわれないで」というメッセージを発信してきました。でも、今回能町さんにお話を伺って、「常識」の箱に入ることで安心したり、救われたりすることもあるんだなと思ったら、その気持ちや生き方自体を決して否定できないし、否定しちゃいけないんだなと思いました。

能町:「常識」のほうを無理やり自分に引きずり込むというか。「結婚」を求めているんだとしたら、どんな状態でも「結婚」って言っちゃえばいいんだと思います。言ったもん勝ちです。男とか女とか関係なく、結婚と言い張れば結婚だし、事実婚と言い張れば事実婚だし、家族って言えば家族。そうやって定義を曖昧にしていきたいです。

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(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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