大庭英子さんインタビュー後編

「肩の力を抜いて、美味しいものを食べて」料理家歴40年のプロに聞く、日々の食事との向き合い方

「肩の力を抜いて、美味しいものを食べて」料理家歴40年のプロに聞く、日々の食事との向き合い方

料理家歴40年の大庭英子さんがこのたび上梓した「究極のはしょり飯」(世界文化社)。時短・節約・手間いらずの、さまざまなレシピを紹介しています。

大庭さんに自炊の楽しみ方を聞いてみると「毎日ちゃんと料理しなくちゃ」「レシピ通りにしっかり作らなくちゃ」といったプレッシャーは持たなくていい、とのこと。

後編では、上手に手を抜いて調理するポイントや、初心者でも失敗しないレシピなど、はしょり飯の実践的なお話をうかがいました。

きちっとするのは「塩分の量だけ」

——いい大人なんだから自炊くらいできなくちゃ、というプレッシャーがあります。本当はそういう「圧」を感じないで、純粋に料理を楽しみたいのですが……。

大庭英子さん(以下、大庭):このあいだ、ふと「自炊」を辞書で引いてみたら「自分のためにする料理」とありました。お料理しようと思うと、彩り豊かで目にもうれしいメニューとかホームパーティーのおもてなしみたいな場面を想像する人もいるかもしれないけれど、もっと適当でいいんです。とくに料理がプレッシャーに感じてしまう人には、「自分のための料理なんだから、適当でいいよ」と言ってあげたいですね。

——しかも、いざキッチンに立ってみると、すごく時間がかかるんです。レシピの1から10までをきっちりやらなきゃいけないような気がして、失敗しちゃうというか。

大庭:きっちりやらなくていいです。自己流でいいんですよ。

——自己流といっても、経験値がないと、どこで手を抜いていいかわからなくて……。

大庭:そういう方のために、料理家の私が上手くはしょったのが「はしょり飯」ですね(笑)。しいて言うなら、どんなレシピを作るにしてもひとつだけ押さえておきたいポイントは“塩味”です。甘みは好みで調整すればいいけれど、塩分が多すぎる料理は食べられなくなってしまいます。だから慣れないうちは、塩分量だけは守るといいですね。

——書かれている塩の量さえ守れば、破滅的にまずくはならないということですか?

大庭:そうですね。ただしそのときは塩そのものだけでなく、醤油や味噌などのしょっぱい調味料も塩分としてとらえてください。食材の種類や切り方は自己流で変えてしまってもかまわないので、味つけのときに食材の総量に応じて塩分の量を調整すること。そうすれば、だいたいのものはちゃんとおいしく出来上がると思いますよ。

初心者におすすめのレシピ。意外なランクインは揚げ物

——本書のなかで、とくに初心者におすすめのレシピを教えてください。

大庭:「くずし豆腐とひき肉のレンジ蒸し」は、豆腐の水切りをはしょっているから、混ぜてチンするだけの失敗しにくいレシピです。カニカマを使う「かに玉」も、手軽でおすすめ。卵は火の通りが早いので、時短にも向く食材なんです。それから、フライパンでさっと揚げられる「スティック竜田揚げ」もおいしいですよ。揚げたてを食べられるのは自炊ならではなので、やっぱりおすすめです。

『究極のはしょり飯』より

『究極のはしょり飯』より

——でも、揚げ物は大変そうで抵抗があります……。失敗しないコツはありますか?

大庭:ポイントは、あらかじめ食材を室温に戻しておくことですね。厚みのある鶏肉や豚肉なら、私は2時間前くらいには冷蔵庫から出しておきます。そうすれば中まで火が通りやすくなり、外側は焦げているのに中心は生焼け、なんてことになりません。トンカツや唐揚げは、下味をつけたお肉に衣をつけて揚げるだけだから、意外と手順も少ないですよ。はんぱに残った野菜も、かき揚げにしてしまえばなんでもおいしく食べられるし。でも面倒なイメージが強くて、おうちではしない人が多いんですよね。だからこそ、私はおもてなしには絶対に揚げ物をするようにしています。みんな、すっごく喜ぶの。

——確かに、揚げたてを食べたい欲はあります!

肩の力を抜いて美味しいものを食べて

——料理家として40年もレシピを考案し続けてきて、正直、アイデアが尽きたりしないのでしょうか?

大庭:レシピって「組み合わせ」なんですよ。たとえば同じ味つけの照り焼きでも、食材が変われば仕上がりがまるっきり変わります。実際、日々の料理ってそれでいいと思うんです。いろんな味つけや調理方法を身に付けなくたって、同じレシピで素材を変えれば充分。私は、手をくわえすぎて味がブレるのが一番残念なことだと思うんですね。どんなに時代が変化しても、素材のシンプルな味わいは、変わらずに楽しめるものです。まぁ、私も若いころは奇天烈(きてれつ)な料理や見栄え重視の料理をつくってきましたけどね(笑)。

——いろいろな要素をどんどんそぎ落として、おいしく食べられる核のところだけを残したのが、いまの先生のレシピなんですね。

大庭:そうですね。以前はおやつでさえ作って食べるのが一般的だったから、必要に駆られてやっていた部分もあるけれど、いまは外食や中食の選択肢もたくさんあります。そのうえ、仕事をしていて忙しい方が増えている。時代が変わったのだから、あまり料理に対するプレッシャーを背負い込まなくていいかなという気がします。冷凍食品やミールキットだって、おいしいものがいっぱい出ていますもんね。とにかく、完璧にしようと思わないで。肩の力を抜いて、おいしいものを食べてください。

(取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子)

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