春先は風邪なのか鼻炎なのか花粉症なのか、鼻のムズムズが止まりません。ティッシュペーパーが手放せないという人も多いでしょうが、スッキリしたいために強引に鼻をかんでいないでしょうか。
耳鼻咽喉科専門医で、とおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長によると、「鼻は正しくかまないと、感染症をまねいたり耳を傷めたりすることがあります」とのことです。ひんぱんに鼻をかむ季節、正しい方法を教えてもらいました。
鼻水は異物が体内に侵入するのを防いでいる
鼻水がダラダラと出るのは、不快で面倒なばかりか人目にも悪く、いいことはひとつもないと思っていませんか。はじめに遠山医師は、「鼻水は健康を守るために重要な役割があり、なくてはならないものです」と言います。どういう働きがあるのでしょうか。
「空気中にはホコリやちりのほか、たくさんのウイルスや細菌が存在しています。花粉もその1つです。これらはヒトの体にとっては異物ですから、できるだけ体の中には入れないようにしなければなりません。その異物を洗い流してくれるのが、鼻水なのです」
目にゴミが入ると涙が出るように、鼻から異物が入ると鼻水が出るということです。では、なぜ花粉の季節になると鼻水がたくさん出るのでしょうか。
「それは、花粉という過剰な異物を洗い流すために、鼻水の量も多くする必要があるからです。風邪でたくさんの鼻水が出るのも、できるだけウイルスを洗い流そうとする働きによります」と遠山医師。鼻水は体にとって必要不可欠なものだということを理解しておきましょう。
鼻をすするのもダメ。「鼻のかみ方NG集」
それでも、鼻水の不快な感覚からは逃れられません。一気にスッキリする方法はないのでしょうか。
遠山医師は、「鼻水が多いと、勢いよくチーンと、左右同時にかんで早く出したいかもしれませんが、それは鼻にも耳にもよくありません」と話し、次の「鼻のかみ方のNG」を挙げます。
・チーンと勢いよくかむ
耳の奥がキーンとなることがありませんか。強い反動と衝撃で耳の奥にある「中耳」に圧力がかかり、耳を傷めることがあります。また、鼻水が耳の奥に入り込み、中耳炎を引き起こす可能性もあります。
・両方の鼻を同時にかむ
細菌やウイルスが含まれている鼻水が鼻の奥に入り込み、副鼻腔炎(ふくびくうえん)や中耳炎になる危険性があります。
・ティッシュペーパーや指でかきだす
鼻が詰まっていてなかなか鼻水が出ないと、ティッシュペーパーをねじねじと詰め込んでかきだしたくなります。また、鼻の奥で鼻水がかたまっていると、指でかきだす人もいるでしょう。
鼻にティッシュペーパーや指を詰めると、内部を傷つけることがあります。すると鼻血が出る、また、その傷から細菌が入って、「鼻せつ(びせつ)」、「前鼻炎(ぜんびえん)」、「鼻中隔膿瘍(びちゅうかくのうよう)」といった感染症の原因になることがあります。
・鼻水を鼻の中に残したままにする
鼻に鼻水が残っていると、その中で細菌やウイルスが増え、気管支炎や肺炎を引き起こすおそれがあります。
・鼻をすする
鼻をかまずにすすると、鼻水に含まれた細菌やウイルスが鼻の奥だけでなく耳の奥まで達することがあり、その場合は中耳炎や感染症の原因になります。また、鼓膜が薄くなる、弾力がなくなる、へこんだ状態になるなどで耳に支障が出ることもあります。
・鼻毛を抜く
鼻水が多いと、少しでもスッキリさせたいと鼻毛を抜いてしまう人がいますが、これは大きな間違いです。鼻毛はウイルスや細菌の体内への侵入を防ぐフィルターのような役割を果たしています。鼻毛を抜くのはフィルターを除去することになり、異物が侵入しやすくなります。するとますます鼻水が出るばかりか、感染症になる可能性が高まります。鼻毛が気になるときは見える部分だけをカットするようにして、抜くのはやめてください。
・手に付着させない
洗顔時についでに手で鼻をかむ、ティッシュでかんでも指に付着したなどの場合は、すぐに手を石けんで洗ってください。風邪やインフルエンザ、ノロウイルスなどに感染している場合、ウイルスや細菌が口に入る、またその手でタオルやドアノブを触ると家族ら人に感染する可能性があります。
正しい鼻のかみ方は、少しずつ、片方ずつ、こまめに
では次に、正しい鼻のかみ方について遠山医師に教えてもらいましょう。
・少しずつかむ
まずは口で息を吸ってから息を止め、口を閉じて鼻水を少しずつ前に送り出すようにしてかみましょう。
・片方ずつかむ
ティッシュで片方の鼻を押さえ、そっと少しずつかみましょう。こうすれば耳を傷めることがなく、スッキリしやすくなります。
・こまめにかむ
先にお話ししたとおり、鼻水がたまっていると細菌やウイルスが鼻の中で増えます。また、ついすすりたくもなるでしょう。こまめにかめば、そういったことを防ぐことができます。
最後に遠山医師は、「そっとかむことを意識して続けてみてください。そうするとあまり苦しくなく、鼻の周囲の皮ふを傷めることも少なくなります。メリットを体感できると習慣化することができるでしょう。また、そのようにかんでも鼻が残っている感覚が強い、なかなかかみきれないときは急性副鼻腔炎や急性鼻炎などの病気の可能性があります。早めに耳鼻咽喉科を受診してください」とアドバイスを加えます。
ついチーンと強く両方の鼻でかみがちですが、それは危険な方法だということがわかりました。これからはソフトに片方ずつ少しずつこまめにかむようにして、鼻水の季節を乗り切りましょう。
(取材・文 堀田康子 × ユンブル)