ある野菜や果物を食べたときに、唇や舌がチクチクする、かゆくなるなど口の周囲や中に違和感を覚えたことはありませんか。
耳鼻咽喉科専門医で、とおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長は、「口腔(こうくう)アレルギーの可能性があります。花粉症の人は特に症状が出やすいことが分かっています」と言います。
口の中のアレルギーに花粉症が関係するとは……?詳しいお話を聞いてみました。
野菜や果物を食べて15分以内に症状が現れる
まず、「口腔アレルギー」とは聞きなれない言葉ですが、どういった症状なのでしょうか。遠山医師はこう説明します。
「トマトやキウイフルーツ、スイカなど、ある特定の野菜や果物を食べて約15分以内に、その食品が接した唇や口角、舌、ほおの内側、のどにイガイガやかゆみを感じ、鼻水やくしゃみなどの症状が現れることがあります。これを『口腔アレルギー症候群』、または“OAS(oral allergy syndrome)”と呼びます。
野菜や果物に含まれるタンパク質が、『アレルゲン』と呼ぶアレルギーの原因物質の一つだとされています。体内にはアレルゲンに抵抗して排除するようにと働く抗体、『IgE抗体』があり、人によってはその抗体が過剰に反応して、アレルギーが起きるわけです。春のスギ花粉症、秋のヨモギやブタクサの花粉症が起こる仕組みと同じです」
そういったアレルギー症状は、どうして口の周りや中に現れるのでしょうか。
「アレルゲンとなるタンパク質は、食べ物の成分を吸収する小腸にたどり着くまでにほぼアミノ酸に分解されるので、主に口の中だけでの反応となります。ただし、アレルギー反応が強い場合は、体のどこかにじんましんが出る、顔が腫れる、のどが詰まる、おう吐、腹痛、下痢などの症状が現れることもあります。
また重度の場合は、急性のアレルギー症状で、『アナフィラキシーショック』と呼ばれるぜん息様(よう)発作、呼吸困難、低血圧によるショック症状で命に関わる場合もあります」と遠山医師。
スギ花粉症の人は、トマトで発症しやすい
特定の野菜や果物を食べて口の中でアレルギー反応が起きる原因は分かりましたが、なぜ花粉症と関係するのでしょうか。遠山医師は、こう解説を続けます。
「花粉と野菜や果物には、アレルゲンとなるタンパク質の構造が似ているものがあります。そのため、花粉症の人がそういった野菜や果物を食べると、花粉に対する抗体が反応して口の中にアレルギー症状が起こることがあるわけです。
これを『交差反応』と呼びます。特に、カバノキ科のハンノキやシラカバによる花粉症の場合は交差反応が起きる野菜や果物が複数確認されていて、約40%強の人が口腔アレルギー症候群を発症しているという統計があります」
次に遠山医師に、花粉症のタイプと、口腔アレルギーを起こす野菜や果物について挙げてもらいましょう。
<花粉症のタイプと食べてはいけないもの>
・スギ、ヒノキ花粉症……トマト
※スギ、ヒノキは北海道、沖縄を除く地域に自生、植林されるヒノキ科の植物。2~5月に花粉が飛散する。
・ハンノキ花粉症……バラ科の果物であるリンゴ、モモ、ナシ、ビワ、サクランボ、イチゴ。ウリ科のメロン、スイカ、キュウリ。セリ科のセロリ、ニンジン。また、キウイ、オレンジ、マンゴー、トマト、ジャガイモ、アボカドなど
さらに野菜や果物ではないですが、症状が重くなることがあるナッツ類のクルミ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、また、ダイズ(主に豆乳)など
※ハンノキは、全国の湿地や湿原、池沼に自生するほか、公園などにも植えられるカバノキ科の植物。1~5月に花粉が飛散する。
・シラカバ花粉症……バラ科の果物であるリンゴ、モモ、ナシ、洋ナシ、スモモ、アンズ、イチゴ、サクランボ。セリ科のセロリ、ニンジン、また、キウイ、オレンジ、メロン、ジャガイモ、ココナッツ
さらに、ナッツ類のピーナッツ、アーモンド、クルミ。また、ダイズ(主に豆乳)など
※シラカバは本州中部以北の高原、北海道に自生するカバノキ科の植物。4~6月に花粉が飛散する。
・オオアワガエリ、カモガヤ花粉症……ウリ科のメロン、スイカ。また、トマト、ジャガイモ、タマネギ、オレンジ、セロリ、キウイ、米、小麦など
※オオアワガエリ、カモガヤは、全国で牧草として栽培されるほか、河川敷や道端にも自生するイネ科の植物。4~10月に花粉が飛散する。
・ブタクサ、ヨモギ花粉症……ウリ科のメロン、スイカ、キュウリ。セリ科のセロリ、ニンジン。また、リンゴ、バナナ、キウイ、ジャガイモ、トマトなど
※ブタクサ・ヨモギは、全国の野原、河川敷や道端、畑、公園などに自生するキク科の植物。7~10月に花粉が飛散する。
・カナムグラ花粉症……ウリ科のメロン、スイカ。ニンジン、セロリなど
※カナムグラは、全国の野原、河川敷や道端、畑、公園などに自生するアサ科の植物。8~10月に花粉が飛散する。
最後に遠山医師は、花粉症の人の口腔アレルギー対策について、次のアドバイスを加えます。
「野菜や果物を食べて口の中に違和感を覚えたときは、すぐに吐き出し、口をゆすいで、手や顔を洗ってください。
また、自分がどの食品を食べるとアレルギー症状が出るのかを知るためには、医療機関を受診してアレルギー検査を行うとよいでしょう。医師が診察した上で、一度で39種類のアレルゲンを調べる血液検査があり、保険も適用されます。費用は約6,000円です。アレルゲンが特定できたら、抗アレルギー薬の服用や点鼻薬などで治療を開始することができます」
花粉と交差反応が起きる野菜や果物がたくさんあることに驚きました。まず、自分や家族、親しい人のアレルゲンとなる花粉と野菜や果物を特定しておくことが重要でしょう。
そして、それらを徹底して避ける生活が口腔アレルギー対策にとって必須であり、また治療法も確立されているということです。
(取材・文 小山田淳一郎/ユンブル)