女の子を目の前にするとつい名言を連発してしまったり、「素の俺を見てほしい」と迫ったりしてしまう“おじさん”たち。
そんな痛々しくも愛らしいおじさんのエピーソードや生態を軽妙に、かつ鋭く綴った鈴木涼美さんのエッセイ『おじさんメモリアル』(扶桑社)がこのたび発売されました。
本書を執筆したきっかけについて「おじさんを好きではあるけれど、同時に痛々しい生き物だなって思っていた。そんなおじさんを集積したら面白いなと思っていた」という鈴木さん。
9月12日に東京・下北沢の「本屋 B&B」で社会学者の田中俊之さん(男性学)と司会に恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田代表を迎えたトークショー「なぜ私たちは<おじさん>が嫌いなのか」が開催されました。
本書に登場するおじさんのタイプについて熱い議論が繰り広げられたトークショーの一部を前後編に分けて紹介します。
【前編は…】男は40歳で“別れ話”に目覚める「おじさん」の生態
本当の私を知っている?「中身を愛しているおじさん」
鈴木涼美(以下、鈴木):「俺の本質を見て」っていうおじさんもいるんだけれど、逆に「俺も君の巨乳や肩書きではなくて深い魅力を知っているよ」って言いたがる「中身を愛しているおじさん」もいますよね。
「本当の私をなんで君が知っているんだ?」って思うんだけれど。本質好きっていうか本質っぽく見えるもの好きおじさん。そういうおじさんって「頭のいいところが好き」って言いたがる。私は「顔が好き」って言われたほうが嬉しいんだけれど(笑)。
田中俊之(以下、田中):大多数の人と俺は違うよってとこだと思います。魅力的な女性は「美人」とか「スタイルいいね」とか言われ慣れているだろうから、自分は他と違うとアピールしているわけですね。
でも、「自分だけは君の本質を見ている」という口説き方は、実際にはありふれていてあまりに平凡。それに本人はまったく気がついていない。
さっきから、おじさんはとっくに女子が学んでいるところを学べていないってことが浮き彫りになってきましたね。
桃山商事・清田代表(以下、清田):おじさんたちが「真実」「本質」「本当」みたいなものにこだわるのってなぜなんですかね……?
田中:自分もそうやって見てほしいっていう欲求ですよね。
鈴木:本質なんてないのに。
男も女も、片方だけ褒められると、もう片方を言われたいなっていうのはありますよね。
「色っぽい感じだけれど頭いい」って言われると嬉しい。「色っぽいね」だけだと「脳みそもありますが」って言いたくなるし、逆に「頭いいよね」だけだと「メイクも好きだし」って言いたくなる。
上司だったら最悪!「チェンジおじさん」
鈴木:いきなり「セックスしよっ!」って言ってくるおじさんも最近増殖していると思います。
キャバ嬢の時に1回しか会ってないお客さんが「今度エッチしようよ」って気軽に送ってくる。「ノー」に決まってるのに通り魔的に言ってくる。「俺は草食系男子じゃないぞ」アピールなのかな。
田中:まさに通り魔ですね。ただ言いたいだけなのかも。女性に向けてその言葉を発したいっていう。
鈴木:「いいケツしてるなー」っていうのが世の中的に言いにくいから濃縮して言っているのかもしれないですね。
田中:セクハラになっちゃうので、会社で言えないですからね。職場で発散しきれなかったおじさんの欲望が、溢(あふ)れ出してしまっている。もっとも、最終的にその欲望は何なのか?について考える必要があります。
(資料を見ながら)ところで、最後の「チェンジおじさん」ってすごいですね……。
鈴木:これは、キャバクラや風俗でチェンジすることを生きがいにしているおじさんですね。わりとキレイな子をチェンジして、それを振っちゃう俺、ってとこに価値を感じている。
「チェンジ」って女の子にとっては嫌なことだし、拒否権がないんです。立場の上下がわかりやすく出るものなんですよね。「そういうことをする人って普段よっぽど抑圧されてるんだろうなー」って私なんかは思っちゃうんですが(笑)。普段から崇められている人ほど丁寧だったりするので。
田中:今までと違うのは、相手が傷つくことを理解している点ですよね。自分の気持ち悪さに無自覚なおじさんとは別種のタチの悪さがありますね。傷つけることに快楽を感じているとするとタチが悪すぎる。これはきついよね。
鈴木:いい意味で影響力を行使するのは難しい。尊敬とか憧れって日々の積み重ねだから。でも、傷つけるのって簡単なんですよね。女性を傷つけるっていう影響力を持っているってこと確認したいのかな。
田中:確かに、人から尊敬されたり敬意を払われたりするのって手間がかかるんですよ。人を傷つけるのって物理的にも簡単だし、言葉でも簡単。
安易な手段に出るってことにどうしようもなさを感じる。ナイフで刺しているか言葉で傷つけているかの違いだけ。まさに通り魔。上司だったら最悪ですね。
必要以上に怒鳴るおじさんの心理
鈴木:必要以上に怒鳴る人って記者時代も多かったんです。パワハラ講習の途中で怒鳴る人とか(笑)。雰囲気悪くなるし、印象も悪くなるのに、そこまで必要以上に怒鳴る人ってなんなんだろうっていうのは思っていましたね。
田中:コミュニケーション能力の問題だと思うんです。仕事をやっていれば部下や後輩をぐうの音を出ないほどとっちめることもできる。
でも彼、彼女が次の日も会社に来て、仕事を続けていくことを考えると、10できる注意を8くらいにするのが有能な上司だと思うんです。
論破はコミュニケーションじゃありません。一方通行でやり込めたって思っている人ってまわりからすれば迷惑だし、それじゃあ家庭でも仕事でも居場所なくなりますよね。
平気で他人を傷つけるようなことを言う人は「本当のこと言ってるだけ」とかほざきそうですけど、単に、コミュニケーション能力が圧倒的に欠如しているだけです。
鈴木:部下を叱りつけて、ぐわーって言った後に「俺も昔は同じでさ……原稿なんて書けなかったし、取材先に行っても何も聞けずに帰ってきたし」って言って気持ち良くなっているおじさんもいますよね。
田中:最終的に自分が気持ち良くなることしか考えてない。
清田:その最後の言葉までがセットなんですよね。
鈴木:気持ちいいっていえば、店員さんに異様に威張る人いますよね。一緒にいて恥ずかしい。
田中:一緒にいて恥ずかしいってのがわからないし、わざと彼女に見せているんですよね。
鈴木:そういえば、22歳くらいの時に一瞬いいなと思った28歳くらいの代理店勤務の男性がいたんですが、タクシーの運転手さんに威張っていて、全然好きじゃなくなっちゃったことがありました。かっこいいって思っているのか1人でもやっているのか……。
田中:彼女に見せてるんじゃないですか?
鈴木:それで言うと、26、7の男の子が寿司屋に入って「大将!」って言ってるのって私は滑稽に見えちゃうんですよね。居酒屋の女将さんに「お母さん!」とか声かけちゃう人。
田中:そうですね。これまでの話を聞いていると『おじさんメモリアル』に出てきたおじさんって、信頼を積み重ねていく感じがまったくないですね。
お寿司屋さんと懇意な間柄になるのも、若い頃に先輩や上司に連れてってもらって、自分が50歳くらいになってやっと言える地点なのに。
プロセスを飛ばしたがるのは、今日出てきたおじさんの共通点ですね。「簡単なやり口」に安易に流れちゃってるっていう。
鈴木:確かに……。(会場に向かって)気をつけてください。文脈があってこそのかっこいいセリフも、経験があってこその粋な態度も、それだけ切り取ったらただの失礼なヤツですよ!
田中:偉そうにいろいろ言っちゃいましたが、今日の話はすべて40過ぎのおじさんである自分にブーメランとして返ってくるので、僕も気をつけます……。
(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)