「大人のじんわり不安」に寄り添ってくれる韓国ドラマ3選

「大人のじんわり不安」に寄り添ってくれる韓国ドラマ3選

3連休にお盆休み。まとまった時間に、話題の韓国ドラマをチェックしてみるのはいかがですか? 今回はライター・西森路代さんがウートピ読者にオススメの作品をピックアップ! 今の自分は理想の大人になれているのか? そんな葛藤を抱える主人公たちの日常を描く作品を3作選んでいただきました。

■西森さんの注目ポイント

「最近の韓国ドラマには、ここで紹介したもの以外でも、郊外や田舎町を舞台にしているものが多くなってきた。都会に暮らす人々が田舎町の自然や人と触れ合って心を浄化していくという意味合いのものもあったが、最近は、それだけではなく、郊外の憂鬱のようなものも描かれたりするし、そこに暮らす人々の悲喜こもごもを描くことで、現代人の感じているそこはかとない不安に寄り添うような物語になっていることもある。

またこれまで、こういう大人になることが正解であると思われていたことを覆してみたり、人生においてのモラトリアムの期間を描くものも増えてきた。そんなときに、田舎町や海辺の町というのはぴったりなのかもしれない。夏休みに、こうした大人のなにげない日常ドラマを見てみるのもいいのではないだろうか」

(トップ画像:Netflixシリーズ「私たちのブルース」独占配信中)

幸せの基準は私が決めることにしました——「椿の花咲く頃」

(Netflixシリーズ「椿の花咲く頃」独占配信中)

2019年に放送されたドラマ。第56回百想芸術大賞でテレビ部門の大賞を受賞した。(この時、「愛の不時着」や「ストーブリーグ」もノミネートされていた)

主人公は天涯孤独でシングルマザーのドンベク(コン・ヒョジン)。物語は彼女が一人息子のピルグ(キム・ガンフン)を連れて、田舎町のオンサン(架空の町)に越してくるところから始まる。誰もが顔見知りであるオンサンで、男性たちは羽を伸ばすためドンベクが営む居酒屋「カメリア」に集まる。店は繁盛するが、他所から来た“美しい未婚の母”に対する町の女性たちの眼差しは冷たかった。

実は、この町では6年前に何人もの町民が殺害された痛ましい事件が起こっていた。ある日、カメリアにも不審な落書きが残されているのが見つかり、ドンベクが殺人犯に狙われている可能性が浮上する……。

そんな孤独や不安を一人で抱えるドンベクをまっすぐな気持ちで支える警察官のヨンシク(カン・ハヌル)の存在が彼女にとっては救いとなる。ラブ・ストーリーでありながら、サスペンスでもある作品で、続きが気になってどんどん見進められるこの作品。

ただ、最初のほうは、町の女性たちのドンベクへの反感が強すぎるのではないかとも思えた。しかしそこは韓国ドラマ、そのままでは終わらない。当初はカメリアの大家であるギュテ(オ・ジョンセ)の妻で、ソウル大出身の離婚弁護士のジャヨン(ヨム・ヘラン)も、ドンベクにつらくあたるが、やがて夫に愛想をつかし、ドンベクに協力することになる展開はアツい。

後半では、7年と3か月しか育ててくれなかったドンベクの母親も登場。この母親を、映画『パラサイト 半地下の家族』(キーマンとなる家政婦だった)のイ・ジョンウンが演じているのだが、この母親と、複雑な思いを抱きつつも、共に生きていくことを決意していく様子も切ない。

決して順風満帆な人生ではないし、不幸や理不尽は私たちの日常の中で繰り返し訪れ、心を削っていく。だからこそドンベクは「幸せの基準は私が決めることにしました」と語る。2019年の世の中に、このメッセージが響いた。

なんてことない人生から“解放”されたいなら——「私の解放日誌」

(Netflixシリーズ「私の解放日誌」独占配信中)

2022年のドラマ。「スライス・オブ・ライフ」という英語タイトルからもわかるように、日常のなんでもない一コマを描いた作品である。

ソウルで働く三きょうだいは、地下鉄を乗り継いで一時間以上もかかる郊外にあるサンポ市(架空の町)に暮らしている。長女のギジュン(イ・エル)は、会社の女性たち、ほぼ全員と社内恋愛する上司に、ひとりだけ見向きもされていない(からこそ愛を待ち望んでいる)。長男のチャンヒ(イ・ミンギ)は、コンビニエンスストアの本社で働くも、いつもどっかで損してばかり。そして末っ子のミジョン(キム・ジウォン)は、契約社員として働くがあまり社交的ではない性質からか、同僚の中でも浮いているし、会社のサークル活動にもなじめない。

そんな三きょうだいの暮らす家には謎の男がいた。名前をクとだけ名乗るその男(ソン・ソック)は、昼間は三きょうだいの父のもとで、農業などの仕事をしているが、夜になると、家の外でひとり焼酎を飲んでいた。

謎めいたその男が少し気になるきょうだいたち。ある日、ミジョンはかつて交際していた男に押し付けられた借金の取り立ての通知が来るのを両親に知られないために、クにその通知を受け取ってほしいと頼む。かすかな交流が始まったふたりだったが、ある日突然、ミジョンはクに「私を崇めて」と告げるのだった。

「スライス・オブ・ライフ」というタイトルの通り、実はほとんど何もおこらないし、サスペンス要素が強いわけでもないのに、クを演じるソン・ソックの何かを背負い、そして諦めたような表情と、ミジョンのどこか世の中に馴染めなさそうな雰囲気が独特で、そんなふたりが、惹かれあう様子に妙に持っていかれるものがある。

現代社会に生きていれば、どこか自分は皆と同じようにうまく生きられているのだろうかと考えてしまったり、自分だけが損をしているような気持ちになったり、ほんの少しだけ疎外感を感じていたり、なにか毎日を過ごすだけで疲れてしまったりしているものである。

そんな、誰の中にもある、馴染めない気持ちに寄り添ったような部分が、これまでのドラマにはない空気感で、妙に中毒性があった。

“大人になる”ってなんだろう——「私たちのブルース」

(Netflixシリーズ「私たちのブルース」独占配信中)

イ・ビョンホン、シン・ミナ、チャ・スンウォン、イ・ジョンウン、オム・ジョファ、キム・ウビンなど…ひとりでも主演を張れそうなトップスターが総出演の2022年のヒューマンドラマ。

舞台は済州島のブルン村(これも架空の村である)。それぞれの俳優が演じるエピソードが、かわるがわるに展開されるオムニバス形式の作品になっている。

個人的には、先述の『椿の花咲く頃』でヒロインの母親役だったイ・ジョンウン演じるウニが中心となるエピソードに惹かれた。40代後半のウニは地元・ブルン村の水産市場で5つの鮮魚店を経営するほか、カフェなども手掛けるなどしてバリバリ働いていた。ある日、彼女の同級生で初恋の相手であるチェ・ハンス(チャ・スンウォン)が銀行の支店長として戻ってくる。アメリカでプロゴルファー(プロ2部)として暮らす娘とそのサポートをしている妻とは別居中のハンスは、ある目的のためにウニに近づく。ハンスは娘のためにお金が必要だったのだ…。

「ハンスとウニ」のエピソードは、大人の恋の難しさやほろ苦さが描かれていたが、それでも、どこかどっしりとしたウニの存在感によって、後味はすっきりした感覚も残った。

イ・ジョンウン演じるウニはドラマの後半でも、同級生で、お姫様体質の親友で、離婚を繰り返してきたオム・ジョンファ演じるコ・ミランに翻弄される「ウニとミラン」というエピソードも展開される。

アラフィフ、大人の女性、しかも長年親友同士であったふたりが、少女時代から貯めてきた不満をぶつけ合い、仲たがいしてしまうシーンは胸が痛いが、その後、ウニがミランの経営するマッサージ店を訪れ、彼女に施術される中で、胸の中をすべて吐露しあい誤解を解いていくシーンでは、ふたりと同じ気持ちになって泣けてしまった。

このドラマは、イ・ジョンウンや、チャ・スンウォンや、イ・ビョンホンという50代になった俳優たちが同級生役を演じていることからもわかる通り、中年の群像劇なのである。

しかもそれは、完全に大人になれた人たちの群像劇というよりも、いつまでたっても、大人ってなんなんだろう、自分たちはちゃんとした大人になれたのかなと思わせるような群像劇なのである。

登場人物たちは、ときに癇癪を起し、ケンカをし、仲直りをする。とてもかっこいいものではない。でも、そんな風に無様な姿をさらしながらも、なんとか共に、それは恋愛とか結婚とか家族とかとも違う類の連帯をして生きていこうとする姿がとても愛おしいのである。

(西森路代)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「大人のじんわり不安」に寄り添ってくれる韓国ドラマ3選

関連する記事

編集部オススメ
記事ランキング