『母影』インタビュー・後編

“呪い”になる言葉もあるけれど…それでも信じたい言葉の力【尾崎世界観】

“呪い”になる言葉もあるけれど…それでも信じたい言葉の力【尾崎世界観】

ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター尾崎世界観さんの小説『母影(おもかげ)』(新潮社)が1月に発売されました。

マッサージ店で働く母の姿をカーテン越しに見つめる少女の視点からつづられた物語で「第164回芥川賞」の候補作品にも選ばれました。尾崎さんにお話を伺いました。前後編。

いつの間にか「選ばれる立場」になった

——前回のお話を伺っても、尾崎さんは言葉に対してすごくこだわりや思い入れがあるのかなと感じました。

尾崎世界観さん(以下、尾崎):そうですね。言葉を介さないと、コミュニケーションは成立しないので。でも、言葉に対しては「これでいいのかな?」と疑ってもいるんです。言葉に、すごく執着してしまうし、感情も左右されるけれど、それは文字や文章だけでなく、声も加わってのことなんですよね。

だから、最近は何でも書き起こされてニュースになるけれど、いろいろ考えてしまいます。実際には声と間を使って表現していることもあるし、あえてしゃべらないもので伝えていることもあるけれど、それもカットされて手軽に短時間で読めるような記事になってしまうのは怖いですね。

このインタビューも、きっと何かしらのキャッチがつくと思うんですけど、そこで興味を持たれるかどうかは分からない。本のインタビューって、ストレートに出してもなかなか読んでもらえないみたいですね。

——少しでも読んでもらうためにほかのキャッチーな要素を絡ませるとか……。

尾崎:そうですよね。それはすごく分かります。音楽もそうで、「今回はこういう作品で……」とインタビューに答えても、あまり広がらない。それよりも、誰かが勧めたりするほうが大きい。自分で宣伝するより、誰かの評価、口コミのほうが大事になってきていると思います。「広めたい」という気持ちで本人がしゃべる言葉より、そこに何の損得もない人がストレートに褒めているものをみんな当てにしているんだと感じます。

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——ウートピも通勤電車で読んでもらうことを想定して朝や夕方に記事を掲載することが多いのですが、いかに通勤電車に乗っているときや日常の中で読んでもらえるようにするか、は意識しますね。

尾崎:自分自身も無意識に記事を精査しているんですよね。他の人が読み飛ばしているような記事の中に、確実に自分の記事もある。飛ばされてしまって残念だと思うけれど、自分だってそんなふうに「これはいいや」とスクロールして記事を飛ばしているから、一概に文句は言えないんです。

今は選択することがすごく多くて、何かにつけて選ぶ機会が増えました。だから、切り捨てることに慣れている感じがします……今しゃべっていることも、どうにかして今っぽい話題にしようと思って話しているんですけど(笑)。

——お気遣い、ありがとうございます。

尾崎:でも、そんなふうに悪気もなく「選ぶ」ということは、それ以外を「はじく」ことでもあるんですよね。自分の子供の頃はもっと選択肢が狭かったから、今ほどじゃなかったのかもしれません。メジャーデビューをして何年かたったころから、いつの間にか選ばれる立場になった。基本的に誰かに選ばれる立場だから、無意識に何かを捨てたり拾ったりする時代の中で、これからどう闘っていくのかをすごく意識しています。

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芥川賞ノミネートに救われた

——「キャッチーな話題」と言えば、『母影』が芥川賞にノミネートされたことでご自身に変化はありましたか?

尾崎:単純に、すごくうれしかったです。自分で自分を許せるというか、本当に救いになりました。文芸の外の世界から来たという自覚があるので、書くことに対して常に何か後ろめたい気持ちがあったんです。

——それは、ミュージシャンが小説を書くことに対して後ろめたさを感じている、ということですか?

尾崎:そうですね。だからノミネートは“お守り”のような感覚があります。これがあるから、また次もやらせてもらえると思える。

——「次はこういう作品が書きたい」という構想はありますか?

尾崎:メモはしています。でも、まだ具体的にはないですね。次は、時間を空けずに書きたいです。

——「救い」というのは何か救いになるようなものを求めている?

尾崎:救いというか、安心というか……。ただ、本当に落ち着けばいいかというと、必ずしもそうではなくて、逆に悩み事があることによって安心したりもするんです。たまに、何にも悩みがないな、すごくフラットな状態だな、満たされているな、という日があるんですけど、そういうときのほうが逆に不安になるんです。常に何らかの悩みがあるほうが、自分としては正常ですね。

——「後ろめたさがあった」ともおっしゃっていましたが、ミュージシャンが小説を書いたということ以外でも何か後ろめたさがあるのでしょうか?

尾崎:やっぱり、新人賞を獲ってデビューしたわけではないし、バンドのボーカルだからということで買ってくれる人もいっぱいいると思うので。

うらやましいと思う人はいっぱいいるし、この人みたいになりたいと思う人もいるけれど、その人はその人で、高いレベルで同じくらい悔しい思いをしているだろうし、そう思うとキリがないですね。バイトしながら音楽をやっていた頃と今を比べて、悔しさが減っているわけではないから。その場所なりの悔しさ、情けなさは毎回ちゃんとあります。

——その頃になりたかった自分にはなれていますか?

尾崎:確実になっていると思うんですけど……それでもやっぱり悔しいです。でも理想が上がって、ステージがどんどん変わっていくので、それは健全だと思います。まったく志が変わらなければ満足できると思うけれど、昔から悪いところ、足りないところを見てしまうクセがあるので。昔に比べたらできていても、「ここはできていない」と、また新たな課題が見つかるんです。

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囚われることもあるけれど、取り外す力もある「言葉」

——この記事を読む人や『母影』を読んだ、そしてこれから手に取るであろう人たちにメッセージをお願いします。

尾崎:言葉に対して、接する角度を変えてみたら面白くなるのではということを伝えたいです。言葉に囚(とら)われてしまう瞬間もあるけれど、それを取り外す力だってあると思うので。

——言葉に囚われる瞬間?

尾崎:人に言われた言葉が気になるじゃないですか。っても、ちゃんと言葉を疑っていれば、絡(から)めとられてもまた外せる。そういう能力を身に付けていくことも大事なのかなと思います。

——「ウートピ」は、実は「呪いを解く」というのが裏テーマにあるんです。特に女性は世間や周りからの言葉が呪いになって「こうしなきゃいけない」とか「こうすべき」と思い込んでしまっている人が多いと思います。そんな人たちが少しでも楽に、自由になれる言葉や情報を発信していきたいという思いがあるので、尾崎さんがおっしゃったことに通じると思いました。

尾崎:「言ったらいけない、言われたらいけないこと」というのはあるけれど、何かの拍子にそんな言葉を受け取ってしまったら、言われたほうがそういう言葉をしっかりかみ砕いて取り外す力が、「疑い」なんだと思います。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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