『#駄言辞典』インタビュー・前編

“怒り”からその先へ…絶版を目指した『#駄言辞典』出版の理由

“怒り”からその先へ…絶版を目指した『#駄言辞典』出版の理由

「心を打つ『名言』があるように、心をくじく『駄言』(だげん)もある。『#駄言辞典』を付けて、駄言にまつわるエピソードをつぶやいてください。まとめたものは、絶版を目指して出版します」

2020年11月、日本経済新聞社は「目指せ、絶版。」と銘打ち、広告紙面で上記のような呼びかけをしました。

そして、実際に集まった約1200の「駄言」の中から六つのカテゴリーに分類し、さまざまな分野・世代のキーパーソンへのインタビューとそれぞれの駄言が生まれた時代背景や歴史、法律をひもといた『早く絶版になって欲しい #駄言辞典』(日経BP)が6月10日に発売されました。

編集を担当したのは「日経xwoman」副編集長の小田舞子(おだ・まいこ)さん。「駄言を言った人が悪いとか犯人探しをしたいわけではなかった」と話す小田さんに『#駄言辞典』誕生の経緯や今、この本を出版する意味について伺いました。

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『#駄言辞典』誕生の経緯

——『#駄言辞典』は「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」の一環として、日本社会の多様性を阻むステレオタイプの撲滅を目指し展開中の「NIKKEI UNSTEREOTYPE ACTION」の一つとして誕生したそうですね。小田さんが編集を担当することになった経緯を教えてください。

小田舞子さん(以下、小田):「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」は日本経済新聞社と日経BPの共同プロジェクトなのですが、出版社である日経BPが本の編集を担当することになりました。

その時はまだ私が担当するとは決まっていなかったのですが、もともとジェンダーに関することに興味を持っていました。記者としてずっと取材も続けてきましたし、ジェンダーギャップに対する個人的な怒りもありました。ただ怒りだけではなくてどんなふうにしたら社会は変わっていくかも考えていかなければいけないと思っていました。だから、『#駄言辞典』の話を聞いたときに自分が担当したいと思いましたし、「この仕事は小田さんにお願いしたい」と言われた時はすごくうれしかったですね。

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——書籍化するにあたり、内容はどんなふうに決まっていったのでしょうか?

小田:駄言は「#駄言辞典」のサイトのフォームに投稿された分とTwitterで「#駄言辞典」をつけて投稿してもらった分で合計1,200個くらいありました。プロジェクトチームでは、それらをどんなふうにまとめていくかをみんなで話し合いました。

まずは、集まった駄言をカテゴライズしようとなって、最終的に「女性らしさ」「キャリア・仕事能力」「生活能力・家事」「子育て」「恋愛・結婚」「男性らしさ」の六つに決まりました。

——カテゴリーの並びは多かった順ですか?

小田:基本的には多かった順です。カテゴリーのトップは「女性らしさ」なのですが、「女性らしくない」「女のくせに」という性別による行動規範に関する駄言が特に目立ちました。

『#駄言辞典』より

『#駄言辞典』より

「女らしさ」「男らしさ」はなぜ生まれた?

——例えば「女性らしさ」の章には「女の子なんだからそんなに勉強頑張らなくてもいいよ」とか「女性ならではの感性」といった「駄言」が並んでいますが、それだけではなくて「女性らしさ」を準備した社会背景や法律についても言及されています。性別役割分業が社会でも企業でも必要とされた事情などもつづられていて勉強になりました。

小田:駄言を集めただけの本にはしたくなかったんです。誰が悪いとか、言った人が悪いとか犯人探しをしたいわけではなかった。ある「駄言」が生まれたそもそもの理由や背景、なくすにはどうすればいいのか? をみんなで考えていく本になればと思いました。

そのためにアーティストのスプツニ子!さんやサイボウズ社長の青野慶久さんら6人のキーパーソンへのインタビューも同時に行って、ヒントをいただきながら考えました。インタビューで分からなかったことは自分でいろいろ資料を読んで探して書いていきました。

——第3章「『駄言』にどう立ち向かえばいいのか」では、「駄言」が生まれる歴史的背景や社会構造などから考察されていますね。

小田:「パーソナルイズポリティカル(個人的なことは政治的なこと)」という言葉があります。第1章では「自分が言われて傷ついた言葉」や「嫌だと思った言葉」がバーっと出てきますが、それらをそこの地点にとどめておいても何も解決しないんですよね。「駄言」を生み出している社会構造があるはずで、そこをかみ砕いていく必要がある。私もいろいろな本や資料を読んだのですが、特に中村敏子さんの『女性差別はどう作られてきたか』(集英社新書)はすごく勉強になりました。

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この本ができたのはSNSの力

——令和になって丸2年がたち、コロナ禍で社会の動きが加速化した気がします。このタイミングで『#駄言辞典』を出す意味についてはどんなふうに考えていらっしゃいますか?

小田:この本ができたのは、SNSの力も大きいと思っています。SNSがなかったら、駄言は届いてこなかった。SNSでみんなが口々に自分が言われて嫌だったことや傷ついたことを言えるようになったんですよね。これが10年、20年前だったら届いていなかったと思います。言う場所がなかったから一人一人が心の中にしまっていたけれど、SNSで可視化できたのは大きかったと思います。

実は集まった「駄言」を分析する作業をしていた時に、気分が落ち込む日が続いてしまったんです。編集作業でずっと「駄言」を見ていたので感情移入してしまったんですね。「私明るい性格なのになんでこんなに暗くなってるんだろう?」って。ちょっとしたことで涙が出てきて、それはきっと「駄言」を言われた人の涙なんだろうなと。やっぱり「駄言」を言われてそのときは笑って流しても本当は傷ついているんだなと改めて気づきましたね。

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老若男女、みんなで作った本

——本を作っていく過程では、さまざまな人が関与したのでは? 意思決定層に多い、年齢が高い人たちとの間でジェネレーションギャップを感じたり反対されたりすることはなかったのでしょうか?

小田:それが面白いことに、日本経済新聞社と日経BPにいる、「偉い男性」の中にも「面白い」と言ってくれる人がたくさんいたんです。最初に「これやろうよ!」と声をかけてくれた上司も男性でした。しかもただ「面白いね」と言っているだけではなくて、何かやらなければ、今やらないでどうする? という空気を感じたし、女性だけではなく男性もそういう気持ちを持っているのを感じました。

——それは希望ですね。

小田:希望です。今が変わるチャンスなのかなって。逆に言うと、今何もやらなかったら、この後100年また同じことが続くと思うんです。

今回は女性を取り巻く状況に関する「駄言」が特に目立ったのですが、決して女性だけの問題ではなくて男性の問題でもあるんですよね。今の社会の構造を作っているのは主に男性だから。みんなが当事者であるところからスタートしなければいけないので、今がチャンスだと思います。

——いろんな人に読んでほしいですね。

小田:それで言うと、今回はとても多様性のあるプロジェクトでした。メンバーには男性も女性も同じくらいいて、年齢もキャリアもそれぞれ。社内の編集だけではなくて広告や販売などいろんな部署の人、さらには日本経済新聞社の社員も含めてチームみんなで作っていった本です。この本に関わった一人一人が自分ごととしてそれぞれの立場や考えから意見をバンバン言い合って、中のデザイン一つとっても最後の最後まで納得するまで話し合い、最後までみんなが考え抜けたことがうれしかったです。

私は編集記者の仕事をして20年ですが、ここまでいろんな人が関わった本は初めてでしたね。そうして生まれた本なので、いろんな立場の人に手にとっていただけたらうれしいですね。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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