臨床心理士のみたらし加奈さんによる初の書籍『マインドトーク』(ハガツサブックス)が6月30日に発売されました。“自分との対話”を意識したエッセイで、自身の生い立ちや家族、パートナーとの関係、“顔出し”する臨床心理士としてSNSを中心に発信する理由などをつづっています。
最終回は「他人をジャッジすることの暴力性」と「呪いの言葉を解く方法」をテーマに伺いました。
他人をジャッジするのは暴力
——前回、「カウンセリングの場では絶対に相手を感情的にジャッジしてはいけない」というお話がありました。『マインドトーク』でも、みたらしさんが留意されていることとして、「相手の状況と自分の状況を比べてジャッジしない」「悪気がなかったとしても相手に窮屈な思いをさせてしまったときは『ごめんなさい』と謝ること」と書かれていました。今回は「ジャッジ」することについて伺えればと思います。
みたらし加奈さん(以下、みたらし):私自身がわりとジャッジされることが多かったんです。バッググラウンドやセクシュアリティもそうですし、こういう見た目なので「強そう」みたいな感じでジャッジされることが多かったです。でも、私の多面性を考慮しないまま、一面性だけを切り取ってジャッジされてしまう。私をある型に押し込めようとしていると感じて腹が立ったし、悲しかったし、窮屈さを感じました。そんな自分の感情に気づいたことから私も相手を縛る呪いの言葉や決めつけの言葉を言わないように注意しようと。我が身を振り返るではないですが極力気をつけようと思うようになりました。
「美人だね」相手を一つの型に押し込むのは呪い
——見た目を評価するルッキズムも最近話題に上ることが多いです。
みたらし:ルッキズムに関しては私自身も無意識にやってしまっていました。セクシュアリティやマイノリティの部分でジャッジはしないようにはしていたのですが、外見って触れやすい話題なんですよね。初対面で会話がなかったりすると、どうしても「きれいですね」と相手のことを褒めちゃったり、外見についてジャッジをしてしまったりって結構あるのかなって。
でも、たとえ自分に悪気がなかったり褒めていたとしても外見についてあれこれ言うのは失礼なことだと知ったのがハワイにいたときです。アメリカでは「頭小さいね」とか「足長いね」とか、ポジティブな言葉であっても相手の外見について褒めるのはすごく失礼なんですよね。これって結構気軽に言ってしまう人も多いと思います。「すごく頭が小さくていいね」とか、「細くてスタイルがいいね」みたいな感じで、外見の一部だけを切り取ってポジティブにフィードバックしちゃう。
——「美人に美人と言って何が悪い」という反論も聞こえてきそうです。ただ、お話を伺って、評価するという行為自体が暴力性を孕(はら)んだものである以上、気をつけないとなと思いました。
みたらし:その言葉が相手を縛ってしまうことにもなり得る。「美人だね」と言われたからずっと美人でいないといけなかったり「頭小さいね」と言われたから、少しでも頭が大きく見えそうなファッションは避けて一生懸命小さく見えるようにするとか……。相手を一つの型に押し込むのは呪いの言葉ですよね。
相手のここがすてきだなと思ったときは、例えば「あなたのそういう勇敢なところ、本当にすごいよね!」「あなたの雰囲気がとっても落ち着く」というように、その人のありのままの行動や無意識の部分、そして「頑張っていること」についてフィードバックしてみることはポジティブな意味合いを含むと思います。
また、特定の誰かや世間の基準とは比べずに、「あなたのオリジナル、そのものが魅力だ」という伝え方はとってもうれしいですよね。ただそこでも気をつけて欲しいのは「善悪の決めつけ」です。「その部分が善い」とか「その部分が悪い」という言葉は呪いの言葉になってしまうので、その辺りだけ意識してもらえると「窮屈さ」が変わってくるのではないかと感じています。
まずは自分の中にある呪いに気づく
——「男って○○だよね」「女って○○だよね」のような呪いの言葉も世の中にはたくさんあります。呪いを解いていくために必要なことはどんなことでしょうか?
みたらし:呪いの言葉って、最初は他人からかけられて意識すること多いと思うんですけど、やっぱり人からかけられた呪いを解くのってすごく難しいんですよね。相手に「黙って」とか、「その言葉を言わないで」というのは難しい。だから、まずは人からかけられた自分の中にある呪いを解いて、なおかつ自分がいつも発している呪いの言葉を解いてあげることが大切だと思っていてます。
——自分の中にある呪い?
みたらし:まずは他人に対応するのではなくて、自分のほうから直していく。例えば、友達と話していて、「もうちょっと痩せたほうがいいよ。痩せたほうがかわいいって」とAちゃんのためを思って言ったつもりの言葉も「もしかしたら呪いの言葉だったかも?」と少しずつ自分で意識したりするようになると、おのずと他人から言われる言葉も「これは呪いだ」と分かるようになる。まずは、己から出ているものに気を配って呪いと気づいてあげる。それに、明らかに自分のコンプレックスに関わることでないと、他人からの言葉が呪いと気づきにくいんですよね。
——スルーしてしまうかもしれないです。
みたらし:スルーしちゃったりとか、「これは悪意がないから呪いじゃないかな」とか思ったりしてしまう。だから、まずは自分のアウトプットに気づくことによって、他人からのアウトプットにもアンテナを立てるイメージですかね。もちろん、たくさん呪いの言葉をかけてくる人には距離を置いて接するのが必要なのですが、自分が他の人に呪いを発さないことによって、呪いを解いてあげる。
さっきの例で言えば「痩せたほうがいいよ」と言ってしまったAちゃんに対して、「ごめん、今の言葉呪いの言葉だった。あなたはそのままですてきだと思うよ」と言い直す。そうすると、Aちゃんも呪いから少し解かれるきっかけになりますよね。そういうことによって、人間関係がすごくスムーズになったり空気感が生まれ始めたりして、相互作用で呪いが解かれていくのかなと思います。
【第1回】私が“顔出し”する臨床心理士として発信し続ける理由
【第2回】「自己肯定感が低いからダメ」って思っていない? 自己肯定感の本当の意味
【第3回】まずは自分の感覚を信じてあげる。「自分を大事にする」ってどんなこと?
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)