女優の真木よう子さんが5年ぶりに主演した映画『アンダーカレント』が10月6日に公開されます。国内外で高い評価を受けている豊田徹也さんの同名マンガが原作で、『愛がなんだ』や『ちひろさん』などで知られる今泉力哉監督が実写化しました。

亡き父から銭湯を継いだものの、共同経営者である夫の悟（永山瑛太さん）が失踪。休業していた銭湯を再開すると堀と名乗る男（井浦新さん）が「働きたい」とやってくる－－。

あるトラウマを抱えながらも家業の銭湯を切り盛りするかなえを演じた真木さんにお話を伺いました。

「役に没頭するあまり気を失った」の真相は？

——まずは脚本を読んだ感想とかなえを演じる際に意識したことを教えてください。

真木よう子さん（以下、真木）：脚本より前に原作を読んでいたので大体のストーリーはわかっていました。私はマンガマニアで自分が好きなマンガや思い入れのある作品だと、心のどこかで「実写化してほしくない」と思う気持ちもあるのですが、そういうファンの期待を裏切らないように、「残念だったね」とならないように常に台本と一緒にマンガを持ち歩いて、かなえの表情やしぐさに気をつけていました。

——マンガマニアなんですね。

真木：これ系というか、ファンタジーや冒険ものみたいな現実とかけ離れた作品よりは実際に起こり得るヒューマンドラマが好きなんです。『アンダーカレント』は20代前半の頃に読んでいたのですが、このお話をいただいた時に「読んだことある」とすぐに思い出せました。だいぶ時間がたっていたけれど、自分の中に残っていたんだと思います。

かなえの役も自分とかけ離れていないからこそオファーをいただけたと思ったので、私が演じて「違う」と思われないように頑張りました。

——真木さんのコメントで「しばしば役に入り込むあまり、撮影期間中はかなりつらかったことを覚えています。ショックのあまり気を失った初めての作品です」と伺ったのですが……。

真木：ごめんなさい、それちょっと話を盛ってしまったというか、すごく暑い日に冬の設定で着込んで撮影をしていたのですが、役に集中しすぎておそらく熱中症になってしまったんだと思います。その発言が一人歩きしちゃったと思うのですが、そういうのは良くないなと思ったのでちゃんと訂正しないとと思いました（笑）。

——かなえを演じていてつらかった？

真木：かなえは周りの人に支えられて普通に笑っているけれど、本当の中身や本心（アンダーカレント）は誰にも言えなくて、ずっと抱えてこれからも抱えながら生きていくんだろうなと考えたら苦しいですよね。そこはずっと忘れないように演じていました。どのシーンもそれを忘れてはいけないし、そういう意味でつらかったですね。

——生きていくってそういうことなのかもしれないと思いました。

真木：やっぱり何かを解決する映画ではないし、解決する道があればいいのだけれど、かなえの場合は解決という話ではないので、同じような経験や似た思いを持つ人はズンとなってしまうかもしれない。でも、リリー（・フランキー）さん演じる山崎や瑛太さん演じる悟の言葉や他の登場人物が言っている言葉に少しでも耳を傾けて欲しいというか、私たちに投げかけてくる言葉があると思うので、どうしたら幸せになれるのかを考えていける映画になればいいなと思います。

他人のことも自分のことも「わからない」から…

——リリーさんが演じた探偵の山崎が投げかける「人をわかるってどういうことですか？」というセリフが印象的でした。ウートピは「わかり合えないことをわかり合う」というのを編集方針の一つとして掲げているのですが、真木さんは人とわかり合うことについてはどんなふうに考えますか？

真木：私もわからないですね。そばにいる人のこともわからないし、みんなそうなんじゃないかな。自分自身のことだって100パーセントわかってるかって言われたら「はい」とはすぐには答えられません。でも、わからないからこそわかりたいって思うし、歩み寄りが大事なのかなって。とはいえ、「わからなければいけないよ」と押し付ける映画ではないとは思います。

——人と関わるって面倒くさくて煩わしいこともあるけれど、それでも人と関わっていくことは諦めたくないと思わせてくれる映画でした。そこで、真木さんに伺いたいのが、人間関係を築いていく上で意識していることや心掛けていることはありますか？

真木：他人って私が思っているよりもわかることがあるのかなって。特に年上の人については、自分がいくら取り繕っても本質が見抜かれていることが多いと思うので、頑張らないようにしています。なるべく自分のことを嫌いになりたくないし、好きでいたいので裏表を作らないようにしているというか……。「私のことをわかってね」というわけではないけれど、わかりやすいようにはしています。人に対して疑いやネガティブなイメージを持たれるようにはしないようにしています。

（聞き手・ウートピ編集部・堀池沙知子）

【スタッフクレジット】
＜ヘアメイク＞
Miyuki Ishikawa （B.I.G.S.）
＜スタイリスト＞
藤井希恵（THYMON Inc.）
KIE FUJII（THYMON Inc.）／ kie fujii
＜衣装＞
ワンピース ¥75,900 / AKANE UTSUNOMIYA （アカネ ウツノミヤ）