実子の長女(21歳)と、養子の次女(14歳)。
ふたりの娘の母親であるFP(ファイナンシャルプランナー)の中村芳子(なかむら・よしこ)さん。
40歳を前に二人目不妊に気づいた中村さんが、2歳の女の子を養子に迎えてから、今年で12年が経ちました。シリーズ最終回となる今回は、ついに中村さんの養女となった絵梨子ちゃんが登場。親子インタビューを通じて、「養子という選択肢」について考えていきます。
第1回:養子という選択、理想の家族のカタチ
第2回:「養子」を迎えて。実際に育てた人の話を聞いてみた
14歳の誕生日を迎えて
インタビューが行われたのは、2月半ばのよく晴れた日曜日。待ち合わせの約束をした教会の隣のカフェに、絵梨子ちゃんはひとりでやってきました。そこは礼拝のために毎週末親子で通っている教会なのだそう。
「お母さん、後から来ます。いつも遅れてくるんです」
そう言ってニコニコしながら席に着く絵梨子ちゃん。ちょうど数日前に14歳の誕生日を迎えたところで、アメリカで暮らす姉の友紀さんからプレゼントされたというピンク色のトレーナーを着ていました。
胸には「Different」という言葉が。「人と違っていることを誇らしく思おう」そんなメッセージが込められているとのこと。
「ご両親からは何をもらったの?」
私が投げかけたその質問に、頬杖をつきながらうーんと考えてから楽しげに答え始める絵梨子ちゃん。
「誕生日がバレンタインデーだから、かわいいチョコをもらった。あとはママがレストランに連れていってくれました」
「それだけ?」
自分の14歳の頃を振り返れば、欲しい物が、延々とリストになるくらいたくさんありました。もし、誕生日プレゼントが「チョコとレストランでの食事だけ」だったら、きっと頭にきて数日親と口を聞こうとしなかったでしょう。
「物はすぐ捨てちゃうから。アメリカのいとこもそう。たくさんプレゼントもらうけど、ちょっと使ったら飽きて捨てちゃう。だから物は要らないの」
コーヒーを注文しながら、おしゃべりをしているうちに、お母さんである中村芳子さんが到着。いよいよ親子インタビューが始まります。
友達は養子であることを知ってるの?
絵梨子ちゃんは現在、中学2年生。学校では自分が養子という話はするのでしょうか?
娘:わざわざ自分からは言わないかな。聞かれなければ誰も、自分が長女だとか次女だとか言わないでしょ。それと同じ。でも、友達から「お姉ちゃんとあんまり似てないね」って言われたら、「だって私、養子だもん」と答えるけど。
母:そうね。でも、親としては学校の先生には「娘は養子です」とずっと伝えています。配慮してもらわなければいけない場合もあるので。例えば小学校では、「自分が赤ちゃんの時の写真を持ってきましょう」という授業があったりしますし。
娘:ああ、そんな授業あったね。
母:先生は「絵梨子ちゃんは2歳の時の写真でいいから」と“配慮”してくれたけれど、それで逆に傷ついちゃった。
娘:うん、他の子の写真を見たら、みんな生まれたてでお母さんに抱っこされてる写真だったから。悲しくなって、家に帰ってきて泣いてたの覚えてる。
母:保育園、小学校、中学校と毎回先生には伝えてきたけれど、養子がいるクラスなんて何年、へたすると十何年に一度しか担当しないので、先生たちも接しかたがわからないんですね。それで間違った“配慮”をしてしまうんです。
娘:そうだね、日本の普通の学校にはいないもんね。アメリカの学校には同じ学年に何人か養子の子がいたけど、みんな全然気にしてなかったよ。
両親とケンカをすることは?
実はつい最近まで反抗期真っただ中だったという絵梨子ちゃん。お母さんいわく「まだ収束はしていないけど、最近ちょっと落ち着いてきた」そうですが、親子関係について実際には何を思っているのでしょう?
母:一番ひどい時はあなた「この家に来なければよかった」「他の家族がよかった」って言ってたの覚えてるでしょ? 「養子縁組、自分から解消してやる」って言ってたこともあったかな(笑)。
娘:言ってたね(笑)。でも、その言葉を言った時は何も考えてなかった。ただママを傷つけたかった。本当にそんなふうには思っていなかった。
母:この子は反抗期が早かったんです。小学5年生くらいから始まったかな。お姉ちゃんは高校生くらいでだいぶ遅かったのに。しかも、この子の反抗期はお姉ちゃんに比べると本当に大変だったんですよ。
養子の子には、他の子が持っていない傷が確かにあると思います。傷があると、相手を傷つけようとする衝動が出てきちゃう。絵梨子の場合、たぶんそれもあったんでしょうね。
娘:うん、そうかも(笑)。
母:でも、アメリカでも日本でも友人たちが励ましてくれたり、実際に絵梨子の面倒をみてくれたりしました。私たち夫婦だけでじゃなくて、みんなに育ててもらってますね、絵梨子もお姉ちゃんも。とってもありがたいです。
今、ご両親に対して不満はないの? ムカつくことはないの?
娘:あるけど、養子であることとは関係ない。ママがうるさく「片付けなさい」とか「セクシーな服を着ちゃダメ」とか言うのはムカついて、時々ケンカになるけど。とにかく18歳まであと4年だから、がんばる!
18歳になったら、どうするの?
娘:家を出る。自分が好きな服を着たい! 将来はモデルになりたい。警察官になるのもいいかも。ダンスも好き。まだ、わかんない!
母:将来、何をしたいかなんて、まだわからないわよね。絵梨子が社会に出る頃には今、存在しない仕事ができているかもしれないし。この10年でも新しい仕事がいくつも出てきたでしょ。
自分も将来養子を迎えたい?
ご両親がした「養子を迎える」という決断についてどう思う?
娘:何も思わない。悪いことだとは思わない。前にお姉ちゃんから「大人になったら養子もらう?」と聞かれたんだけど、「わからない」って答えた。どっちでもいい。産むのもいいし、もらうのもいいと思う。
母:思春期に入って親とは微妙な関係だけど、お姉ちゃんとは本当にいろんなことを話しているみたい。こんなに距離の近い姉妹は珍しいんじゃないかしら。私にも6歳下の妹がいるんですが、絵梨子と友紀ほどじゃないですね。姉妹であり親友、戦友でもあるって感じ。うらやましいくらい。
でも、家族に加わった頃は、お姉ちゃんの友紀さんが「(絵梨子を)乳児院に返してきてよ!」と言って大変だった時期もあったとか。
娘:お姉ちゃんと仲よくない時期のことは覚えていない。お姉ちゃんとは仲よし。ママに言えないことも、何でも話しちゃう。18歳になったら、アメリカのお姉ちゃんのところに行くかも。お姉ちゃん、子どもっぽいから心配だし。
母:そうそう、小さい頃から、絵梨子の方が大人っぽくて。ふたりで赤ちゃんごっこしていたとき、7歳も離れてるのに、絵梨子がママ役で友紀が赤ちゃん役なんです。で、友紀が泣きまねをすると、絵梨子は「ママは仕事に行ってきます」って言ってあやそうとしないの(笑)。
娘:だって、ママいつもそうだったもん。マネしたの。
母:子どもは親をよく見てますよね。
娘:ママは仕事が好き。
母:そう、仕事が好き(笑)。日本とアメリカを行き来しながら仕事をしていた時期もあるので、8、9歳の絵梨子を夫と家に残していくこともよくあったんです。でも、「罪悪感は持たない」って心に決めていて。養子か実子か関係なく「罪悪感」が日本のワーママが一番苦しむところ。だけど、いつでも子どもとべったり一緒にいるだけが母親じゃない。絵梨子や友紀も、友人や親戚の手を借りてみんなで育てた感じです。
まだ結論は出ていないけれど、子どもを愛して、家族を大切にしながら、かつ自由に生きる母親の姿を娘に見せておきたいな、と思うんです。夢ですけど。
娘:ふーん。
1時間弱のインタビューの後の撮影では、ふたりで顔を見合わせながら、「最近、似てきたって言われるのよね」「うん、似てきたよね」と笑いながら話をする、中村さんと絵梨子ちゃん。彼女いわく、「お姉ちゃんはパパ似で、私はママ似」なんだそう。
実は今回の取材には、あらかじめ質問リストを用意していました。ところが、実際にインタビューがスタートしてみると、絵梨子ちゃんが、自分が養子であることをまったくと言っていいほど意識いなかったため、ほとんど役に立たず仕舞い。
「養子の取材だから失礼のないように」といつもよりどこか緊張して取材に向かった自分に拍子抜けしてしまうほど、養子という存在は中村さん母娘にとって自然なものとなっていました。
(ウートピ編集長、鈴木円香)