認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんへのインタビュー後編。前編に引き続き、来年度からスタートする「赤ちゃん縁組事業」について話を聞く。駒崎さんは、民間の養子縁組について法律や統一基準が設けられていない現在の状況こそが、社会的養護への無関心を表していると話す。
【前編はこちら】「赤ちゃん縁組事業」で子どもを救いたい NPO法人が掲げる支援策
行政には「何かやって」より「これをやって」
――民間の縁組事業について、法律がないというのは驚きです。
駒崎弘樹さん(以下、駒崎):今、アクティブに活動している仲介団体は7団体ほどで、どこも少人数で活動されています。ゆえに助けられる子どもたちを助けきれていない。フローレンスのように、ある程度実績と規模のある団体が事業を行うことで、助けられる子どもが増えるし、業界内での統一基準作成や、法律をつくる訴えかけにもつながるのではないかと考えています。
――実際に自分たちが動くことで、行政へ訴えかけると。
駒崎:これまでの経験から、行政に対しては「何かやって」というより、成功事例をつくって「これをやって」の方が早いとわかりましたから。行政も養子縁組を行っていますが、全国に200か所以上ある児童相談所が行った養子縁組が年間247件で、活発に活動している7団体ほどの民間団体の縁組が127件(2011年)。行政は手をこまねいている様子があるので、これは自分でやった方が早いなと。自分で現場を持って提案した方が早いんです。
というのも、児童相談所の仕事のメインになっているのは虐待の対応です。もう起きてしまったことに対して、対処する。それで手一杯になってしまっている。もちろん虐待対応も必要ですが、「虐待予防」につながる里親や縁組の“サブ事業”ももっと行っていかないといけません。本当だったら、民間と手を組んで良いモデルを作っていこうとなったらいいんです。情報は児童相談所に集まってくるわけですから。
「別の世界のかわいそうな子」ではない
――施設養護から家庭的な養育環境へ移行していくべきという方針を国は打ち出していますが、他国と比べて里親等委託率が低いなど、かなり遅れている印象です(※1)。
駒崎:幼少期に特定の大人から愛情を受けずに育った子どもに愛着障害が多いなど、家庭的な養護を増やしていくべきというエビデンスは得られています。ただ、その指摘は施設養護の現場で頑張って働いている人からすると、嫌なことなのかもしれません。「現場も知らずに愛着障害とか言うな」と。でもこれって、施設と家庭養護、どちらにも役割はあるけれど、10年以内に徐々に家庭養護に寄せていければいいねという話で済むことだと思うんです。きちんとオピニオン調整する人がいないと不毛な対立になってしまう。
※1:厚生労働省がまとめた「社会的養護の現状について」内、「各国の要保護児童に占める里親委託児童の割合」(2010年前後の状況)において、日本は12.0%。イギリス=71.7%、ドイツ=50.4%、アメリカ=77.0%、香港=79.8%、韓国=43.6%など。
――大人が言い争っている場合ではない。
駒崎:行政の事情っていうのは子どもには関係ないですから。多くの国民がこの問題に関心を持ってガンガン言っていけば、あるいはこの問題に取り組むことで票が集まると政治家が知れば、変わっていくはずです。でも今は、ほとんどの人にとって虐待を受けている子どもたちや児童養護施設の子どもは「自分たちの日常生活とは別の世界のかわいそうな子の話」。コミットメントする人が少なかった。それはそろそろ変えたいですね。
――虐待のニュースを見て心を痛める人は多いと思うのですが。
駒崎:「こんな親に子どもなんて産ませなきゃいいんだよ」で終わってしまう人も多い。でも虐待してしまった親もまた、虐待を受けて育っていたりするわけですよね。先日もゴミ箱に赤ちゃんを閉じ込めてしまった事件がありましたが、母親は17歳でした。もし、望まない妊娠や育てられない事情があったならば、育ての親に委託することによって彼女も子どもも救えたかもしれない。
ひとり親自己責任論で苦しむのは子ども
――フローレンスを設立した2004年から、国内の子育て観は変わってきたと思いますか?
駒崎:すごく変わったとも言えるし、あまり変わってないとも言えます。2004年当時は、男性の育児参加は今よりなかったですね。今はイクメンって言葉もあるし、男性が子どもの送り迎えをすることがかなり当たり前になってきました。政府の政策にしても、女性活躍推進や子育て支援の優先順位が上がったので、風が吹いているとは思います。
一方で、保育園の騒音が問題になったり、ベビーカー論争があったり、「2015年なのにまだそんなこと言ってるんだ」ということはまだまだありますよね。世の中は変わってきたと思いますし、自分も少しは貢献できたと思いつつ、まだ変えなきゃいけないことは山積みです。
――変えなきゃいけないこととは、たとえば?
駒崎:たとえば、ひとり親になった瞬間に女性が貧困の底に叩き落とされること。母子家庭の母親の平均年収は223万円(平成26年)、ひとり親世帯の約50%が貧困層です(※2)。ひとり親の支援を政府がちゃんとやっていないし、ひとり親自己責任論がまだものすごく強い。「なんで好きで結婚して別れた人に税金使わなきゃいけないの」とか、相手がDVするかどうかなんて結婚するときはわからないのに、そういうことを言う。
養育費の未払いも貧困の要因の一つです。日本の場合、離婚後に養育費を払っている父親は2割しかいません。なぜなら払わなくても罰則がないので、逃げたもんがち。あと、女性の賃金が低いですよね。構造的な女性への差別なので、21世紀になってもこんなことを許していてはいけないと思います。
※OECDによれば、日本の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く、OECDの平均を上回る。また、ひとり親世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高い。(参考)内閣府 子どもの貧困
社会的養護を身近なものにするために
――「赤ちゃん縁組事業」のクラウドファンディングを立ち上げるそうですね。
駒崎:立ち上げ費用の寄付をいただきたいと思っています。主に人件費や研修費にあてる予定です。2~3年ぐらいで、とんとんにしていきたいですね。目標額は2,500万円です。
――達成するといいですね。
駒崎:「障害児訪問保育アニー」の立ち上げ時には1500万円集まりました。なんとか周知していければと考えています。社会的養護の認知を広げるために、フローレンスがプレーヤーとして成功モデルをつくり、自分たちがインフラになるとともに制度を変えていきたいと思っています。里親や養子縁組という「いろんな家族」のかたちが周知されることで、行政もこの問題に積極的に取り組んでくれるようになるかもしれないと考えています。
■関連リンク
・クラウドファンディング:赤ちゃんを虐待死から救う「赤ちゃん縁組」事業を立ち上げたい!
・駒崎弘樹さん公式サイト