親の介護をしないとダメですか? 最終回

親の認知症を過度に恐れるのではなく「これから」を考える【吉田潮】

親の認知症を過度に恐れるのではなく「これから」を考える【吉田潮】

父親が認知症になった経験を記録した『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)を上梓した、コラムニスト・フリーライターの吉田潮さん。

実際に介護生活に入ってみて実感したのは、「介護はプロに任せるべき」ということ。「子どもは親の面倒をみてこそ」「施設に入れるのはかわいそう」……そんな思い込みや“罪悪感”の上に成り立つ介護は共倒れになることが多いですが、吉田さんはそうではない介護生活を模索しているそうです。

いつか認知症になるかもしれない親のために、私たちができること、「本当にすべきこと」ってなんだろう? 3回にわたって、お話をうかがいます。

リアルに感じる人手不足

——今はどれくらいの頻度でお父さんが暮らす施設に通っているんですか? 東京から2時間以上かかるとお聞きしました。

吉田潮さん(以下、吉田):母が体を悪くして、月に1、2回しか行けなくなったので、それをフォローするために週に一度くらいかな。行けないときもありますが。入所したばかりのころは10日に2回くらいでしたが、今はだいぶ慣れてきました。でも、ときどき呼び出しがあって。自分のタイミングで行けばいいというわけにもいかないんですよね。

——急な呼び出しはキツイ……。

吉田:なかなか行けないときに限って「お父さんが転んじゃって、たぶん骨に異常はないとは思うんですけど……」とかケアマネさんから連絡があって、じゃあ明日行きますってなる感じ。

——家族の人が行かなきゃいけない頻度ってどれくらいですか?

吉田:ホームで「これくらいの頻度で来てください」とかは決まってないので、全然来ない家族もいますよ。でも私は、ホームのスタッフに「家族がマメに来ますよ、見てますよ」というのを見せるのは大事じゃないかと思っていて。

家族の目がないから虐待するとか、そういう話じゃないですよ。うちの施設ではそういうことはないと思うし、私が行かなくてもマメに世話をしてくれているんだろうなとわかるくらい、お部屋もキレイになっているし、着替えもちゃんとしてくれてる。いつも完璧にやってくださってるんだけど。もしかしたら家族が全然行かないとこだと、多少そこが緩くなるとか、ちょっとした差配があるかもしれない。

——そもそも人員不足なわけですし。

吉田:人手不足はリアルに感じますよ、ほんとに! だから感謝しかない。ネパールから来ているXさんとか、子育て真っ最中のSさんとか、優しくてよく気が付くリーダーのTさんとか……顔と名前がすぐ浮かぶくらいには、スタッフさんたちとコミュニケーションとっているつもりです。

——家族とスタッフさん、入居者同士、スタッフさんと入居者、いろいろ人間関係がありますけど、それがこじれたらどうなるんでしょう。

吉田:表出しやすい関係に、入居者同士の相性はたしかにあると感じます。すごく相性悪いおばあちゃんたちがいるんだけど、どちらかが食堂兼居間にでてきたら、もう片方は個室に引っ込んじゃう。

あと、徘徊がひどいおじいちゃんには、けっこう入居者からのブーイングがありました。手にうんこつけて他人の部屋に入ってきちゃうのよ。実際、うちの父の部屋ではおしっこしちゃうし、はさみとかいろんなもの持ってっちゃって。でも、だからといって配置を変えてくださいっていうのは家族のわがままになるんだと思います。スタッフさんには言えなかったですね。

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施設にかかるお金の話

——そうか。なかなか言えないものなのですね。

吉田:施設に過剰な期待はしないこと。私もケアマネさんも介護士さんもナースも同じチームの一員なんです。そう思っていれば、お互い様みたいな感じになるんだけど、こんなこと言うと優等生だね。もっとリアルな話が聞きたいんでしょ?(笑)

——いや、そういうメンタリティみたいなものも聞きたいですよ!

吉田:そう? じゃあもうちょっと言うと、相性みたいな部分はどうしようもないと思うんだよね。それよりは、いかに自分の親が快適な感情でいられる時間がどれくらいあるか、を考えたらいいと思った。多くを求めすぎてはいけない気がします。

——「ここがダメだったから、ほかの施設へ」っていうことはできるんでしょうか。

吉田:ショートステイを繰り返すっていうのはできますよ。一か月間施設に入って、一回家に帰ってデイサービスを数日やって、次の施設が見つかったらまたそっちに行きましょう、みたいな。

——ショートステイって、いくらくらいかかるんですか?

吉田:2人部屋で月額12万円くらいだったかな? うちの父は2割負担なので、1割負担の人はもう少し安いです。それを繰り返すっていうのも、もしかしたらひとつのホームでずっと過ごすより安く済むかもしれないし、「この施設が合わないなら、ほかに行ける」っていう気軽さはいいのかもしれない。場所を変えるのが合ってるタイプの人ならね。

——なるほど「合わないから次へ」ができるのがショートステイ。

吉田:あと、本人に合う/合わないを確認したいなら、有料老人ホームはいろいろ資料を取り寄せられるし、見学ができますよ。施設によっては、介護認定の「要支援」から入れるみたいなところもあるし。あ、介護認定を受けてない状況だと、サ高住(サービス付き高齢者住宅)のほうがいいかもしれない。高いけどね、月30万円とか。

——高い!!

吉田:サ高住は、要するにマンションだからね。あと、有料老人ホームで気をつけたいのが、料金改定のこと。母と姉と見学に行った施設で一番気に入ったところは、ご飯も美味しくていい感じだったんだけど、「3月いっぱいに入ればこの金額、4月からは値段が上がります」って営業トークをしてきて、そこで「あっ、料金改定がけっこうあるのね」って気づいたの。まあ、運営母体が民間の会社ですからね。月額16万円だったのが1年後には18万円に……とかありえます。そういう料金改定についていけずに退所するって話も聞いたので。

——特養はそんなことないんですよね?

吉田:特養はずっとほぼ値段変わらないですよ。変わるって言っても、介護保険の中でリハビリの料金が変わるから32円上がりますとか、そんな話。

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——やっぱり特養、経済面では強いですね。でも、希望者が多すぎて入れない。

吉田:東京で特養入れるなんて、夢のまた夢らしいですね。東京に住んでた親を茨城の特養に入れたとかって話もいっぱい聞きます。

——特養か、有料老人ホームか、サ高住か……。親の経済状況がわからなければ、どこの情報を集めればいいのかもわかりません。やっぱり今の私たちができそうなことは、第1回でお話しいただいた「エンディングノート」ですかね。

吉田:そうね。とりあえず親のお金のバックグラウンドをちょっと掴んどこうぜ、みたいなとこですかね。そして、介護のニュースを見たりして、何か状況が変わってないかをちょっとだけ知識として入れておく。

——きょうだいがいれば、きょうだい間で話をして。親と話すよりきょうだい間で話す方がまだ話しやすいところもありますしね。もし話ができなさそうであれば、ケアマネさんとかプロの相談できる人を味方に引き入れておく。

吉田:家族が敵になったりする場合もあるだろうから、もしかしたら家族連携よりも、プロに相談を、の方が先かもしれないですね。

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認知症を過度に恐れない

——実際に介護生活が始まったら、スタッフさんに過剰な期待はしない。

吉田:そうそう、スタッフさんがきちんと見ていてくれていても、転ぶものは転ぶんですよ。もう何十回も施設で転んでますからね、うちの父。

——そして、自分の楽しみをつくる。自分を追い込まないことですよね。私の知人で、遠距離だったばかりに親の認知症に気づけず、発覚したときにはだいぶ進行してしまっていたのを悔やんでいるという人がいます。「あのときこうしてれば……」と悔やんでしまうとき、どうやって発想を切り替えたらいいと思いますか?

吉田:悔やんでるんだ。でもね、それは気づかなかったというよりかは、進むものだったんだと思います。決して、遠距離でマメに連絡をとってなかったせいではなく、進むものです。転ぶものは転ぶ、進むものは進む。

だから、そんなにご自分を責めて、その時間を悔やむよりも、じゃあ今から何できるか?とか、認知症になった親がどうしたら今から楽しい時間を過ごせるかとか、何やったら喜ぶかみたいな、そっちにスイッチしたほうがいいと思います。難しいでしょうけど。

——罪悪感とか後悔って、介護のカセになりがちです。

吉田:でも、悔やんでもしょうがないし、認知症ってほんと進むんですよね。なだらかな人もいれば、びっくりするスピードで進行する人もいる。それに、進むこと自体が悪いことではないというか。

認知症研究の第一人者の長谷川先生は、自分が認知症になってみて、「認知症は余分なものがはぎとられちゃう。よくできてるよ。神様が用意してくれたひとつの救いだ」って言ってたんですよ。ちなみに、長谷川先生を追ったドキュメンタリー番組は「認知症になってもからも見える景色は変わらない。普通だ。前と同じ」っていう言葉で締めくくっていました。「あ、そっか、変わらないのか」と思うと、自分も救われた気がして。

——認知症を過度に恐れるのではなく。

吉田:そう。来るときは来るので、うんこ投げるとか、そういう状況になったら、いち早くプロに任せようっていう話ですかね。

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(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)

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