「他人に対して恋愛感情を持たない」という女性が主人公の映画『そばかす』。インタビュー後編で主人公の蘇畑佳純(そばた・かすみ)と同年代という、主演の三浦透子さんに聞いたのは「好きな仕事」と「家族」の向き合い方。これは令和を生きる私たちにとっても、目を背けることができない問題。
他人からは些細(ささい)なことと思われても、本人にとっては日々、心のどこかがムズムズしているようなもの。このテーマに三浦さんはどんな回答をくれるのか?
この小さな興奮を前編、中編、後編でつづっていく。
好きじゃないことを仕事にしていても、全然いい
——佳純はチェリストの夢をあきらめて、東京から地元の浜松市へ帰郷します。チェロを弾くことは好きなことだったはず。三浦さんは女優という職業を選択されていますが、好きなことをできているという実感がありますか?
三浦透子さん(以下、三浦):(質問に対して)ズレた回答になってしまうかもしれませんが……表現を仕事にしていても、必ずしも全員が「好き」を仕事にしているわけではないと気がしています。個人的には、好きじゃないことを仕事にしていても、全然いいと思っていて……。好きなことは大事に取っておいたり、好きではなくて得意なことを仕事にしたりしてもいいですよね。自分の中で納得できていればいいのかなって。
私はお芝居のお仕事は、自分の意図とは違うところでスタートしています。
——そうなのですね。
三浦:女優を始めたきっかけが5歳でCMのオーディションに受かったことなんです。これもたまたま通っていたダンススクールで知って、友人と一緒に受けただけなんですよ。女優志望というわけでもありませんでした。だからこの仕事がしたいというものすごいエネルギーを持って、芸能界へ入ってくる人がすごくキラキラして見えて。自分には持っていないものだと、コンプレックスを抱いた時期もありました。自分は本当に好きでこの仕事をしているのだろうかって。そういう自分と向き合って、20年近く続けていると「やれていることに意味がある」と思えるようになりました。
私は今、お芝居を好きだと思えています。でも、それを仕事にすることの難しさも同時に感じています。だからそう思うのかもしれません。好きじゃなかったらやっちゃいけないものでもないし、あなたを求めている場所や人がいて、それに応えたいという気持ちで続けるというのも、それも素敵なことだなって。本当に仕事をするモチベーションって人それぞれだなって思っています。めちゃめちゃ普通のことを言ってすみません。(笑)
——いえいえ。(笑)ちなみに佳純がチェロを辞めた理由はなんだと思いますか?
三浦:彼女が映画の中で、話していること以上に言語化できることはないのではないでしょうか。
父と共有してた“痛み”と母に押し付けられる“当たり前”
——蘇畑家での、お父さんとお母さんへの佳純のあり方が真逆でした。
三浦:家族の中でお父さんとだから共有できる何かがあるなと感じていました。お父さんも会社でうまくいかなくて鬱(うつ)を抱えているキャラクターとして描かれています。社会の大多数とまじわれなかった自分がいてそ、の結果、心が疲れてしまった。そういう部分でお父さんと佳純の間には、共有できる痛みがあるのかなと感じていました。
すごく簡単に言うと、佳純はお父さん似で、妹はお母さん似かなって。父娘ふたりとも、自分自身と向き合える真面目さはあるけれど、それゆえに悩んでしまうようなこともありますよね。
——佳純の母(坂井真紀さん)は勝手に佳純のお見合いをセッティングするなどエネルギッシュなキャラクターです。佳純にとってはなかなかキツい環境ですよね……。
三浦:でも、ひょっとしたらお母さんも、年頃になったら結婚、出産は当たり前で、周囲からの視線や意見が飛んでくるような環境の中で「娘さんは年頃だけれど、まだ結婚しないの?」と周りから何かを押し付けられている側かもしれないんですよね。
そういう視点で見ていくと、みんな何か、程度の差はあれど、周りからの当たり前を押し付けられる窮屈さを抱えて生きているんですよね。根っこから悪い人っていないし、最終的には受け入れる心の広さを持っている家族なんだなって。だからこそ、佳純の母であり、父であり、妹、おばあちゃんなのかなと思いました。
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映画に対する気持ちを切々と三浦さんから聞いて、感想は一言。「また会いたい」である。それ以外に言葉が見当たらなかった。
映画『そばかす』は公開中。
■映画情報
映画『そばかす』
12月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
(C)2022「そばかす」製作委員会
(あらすじ)
チェリストになることをあきらめて、地元へ戻った蘇畑佳純(そばた・かすみ/演:三浦)。鬱(うつ)病気味の父、佳純をどうにかして結婚させようとする母、初産を控えた妹、歯に衣着せぬ意見を並べる祖母。当たり前の幸せがある家庭環境。周囲から足りないことだとやたら勧められるのは、恋愛をすることだけ。佳純は30歳にして、自分らしく生きる道を探し出そうとしていた。
(聞き手:小林久乃、写真:宇高尚弘、ヘアメイク:秋鹿裕子(W)、スタイリスト:佐々木翔)