女優の三浦透子(みうら・とうこ)さんが単独初主演を務める映画『そばかす』(玉田真也監督)が12月16日(金)に公開となる。恋愛をしたいという気持ちがわいてこない、それでも自分は幸せだ。そんな30歳の女性を演じている。
三浦さんと言えば、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞して話題になった映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)での演技が高く評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の賞を受賞。現在放送中の冬ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(関西テレビ、フジテレビ系列)の、軽めのエッジが効いたヘアメイクの役も記憶に新しい。
欲を出して加えるとするのなら、大河ドラマにも出演しながら『そばかす』のポスターにもあったような、喫煙が様になる。そんなふうに演技とあらば、どんなハンドルも切れそうな三浦さん。一体どんな言葉を紡ぎ出してくれるのだろうか。
“普通”じゃないと感じる自分が救われる作品
——三浦さんが演じた蘇畑佳純(そばた・かすみ)が暮らす海辺の地方都市ではまだまだ「女性は結婚するのが当たり前」のような空気が漂っています。「恋愛しなきゃ」「結婚しなきゃ」のような同調圧力が描かれていましたが、それらに負けまいとしている、佳純の様子が印象的でした。まずは脚本を読んだ感想からお聞きしたいです。
三浦透子さん(以下、三浦):はじめに脚本を読んだときに「あ、自分にも当てはまるところがあるかもしれない」そう思いました。普通に生きてきましたけど、世間でいう「当たり前の幸せ」の価値観にマッチしていない瞬間を感じたことがあります。恋愛や結婚に幸せを感じる人がいることはもちろん否定はしません。でも、一方でそうではないと思う人がいてもいいと思っています。「私が」というよりも、それが当たり前に感じられるような世代なのかもしれません。
——佳純は30歳という設定ですが、三浦さんも同年代ですね。
三浦:たまたま私は 「女性の幸せ=結婚」というような環境下にいなかったので、それは恵まれていたのかなと思います。まだまだそれが当たり前と押し付けられる場所があるんだなというのは実感しますし……。そういう意味で、自分が“マイノリティ”の側なんじゃないかと感じたこともありました。だからでしょうか。脚本を読みながら、そういうふうに感じた自分が救われる話だと思いました。
彼女は自分のことを周囲にわかってもらうことをどこかあきらめている。映画はそこから始まりました。でも、ありのままの自分を受け入れてくれない社会があるとしたら、そちらのほうが間違っているのだから、声をあげてもいいのだという気づきを経て、最終的には“分かってもらう努力”からも解放されていく。
相手に分かってもらう形に自分を説明してあげる必要もないし、彼女が悩んでいるのなら、定まっていない何かがあるのなら、その複雑なものを簡単にしてあげる必要もないし、複雑なものを複雑なまま育ててもいいし……。言葉にすると簡単に聞こえてしまいますが、「何だっていいんだよ」というシンプルなところにたどり着くお話だなと思いました。
「しょうがないよね、これが私だもん」佳純のポジティブな変化
——佳純は世の中に対して違和感を抱きつつも、だからと言って世の中や自分を取り巻く世界を拒絶するわけではなく、周りの人との関わりを通じて変化していきます。“ポジティブな変化”とも言えそうですが、佳純を演じる上で意識したことはありますか?
三浦:佳純がそのことをセリフで言っているんですよね。唯一分かり合えた友人の真帆ちゃん(演:前田敦子)の政治家のお父さんが街頭演説をしていたその後です。「逃げたっていいんだよ」と。佳純は映画『宇宙戦争』で、トム・クルーズが逃げるシーンに共感できると言っていますが、その共感のあり方もラストに向けて変化しているように感じました。逃げている自分を肯定できるようになったのかもしれません。逃げてもいいし、戦ってもいいし、どちらでもいいんだ、と。
結局、どう振る舞っても自分は自分でこの形を変えられないわけだから、変わらない自分や相手のために変えてあげられない自分のことをあきらめて、「しょうがないよね、これが私なんだから」と自分自身に対して思えるように成長している気がしました。
でも別に、私が、そういう彼女にしてあげようと表現する必要はなかったです。彼女が喋っていることやこの映画で歩んでいく道筋をちゃんとたどればそこにたどり着けた。そういう脚本を書いていただいたんだと思います。
——今作が映画単独初主演ということですが、主演”と“出演”ではなにか違うものがありましたか?
三浦:初主演ということは、こうして取材で触れていただくことで「あ、そうだった」とやっと意識するくらいです。佳純を演じているときは必死でそんなこと考えられなかったですし、いつもの撮影に臨む準備をしているだけで精一杯だったかもしれません。
でも、単純にキャストの方やスタッフの方、この映画に関わった人たちに嫌な思いをしてほしくないなあと思っていました。「今日この現場に来てよかった」という1日になってほしいなと思っていたくらいですね。
■映画情報
映画『そばかす』
12月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
(C)2022「そばかす」製作委員会
(あらすじ)
チェリストになることをあきらめて、地元へ戻った蘇畑佳純(そばた・かすみ/演:三浦)。鬱(うつ)病気味の父、佳純をどうにかして結婚させようとする母、初産を控えた妹、歯に衣着せぬ意見を並べる祖母。当たり前の幸せがある家庭環境。周囲から足りないことだとやたら勧められるのは、恋愛をすることだけ。佳純は30歳にして、自分らしく生きる道を探し出そうとしていた。
インタビューは、中編、後編へ続きます。
(聞き手:小林久乃、写真:宇高尚弘、ヘアメイク:秋鹿裕子(W)、スタイリスト:佐々木翔)