『万引き家族』リリー・フランキーさんインタビュー・第1回

リリー・フランキーさん、“いい大人”ってどんな大人ですか? 「万引き家族」で主演

リリー・フランキーさん、“いい大人”ってどんな大人ですか? 「万引き家族」で主演

カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)に輝いた是枝裕和監督の最新作『万引き家族』。リリー・フランキーさんは万引きを繰り返す一家の父親・治を演じ、軽妙な中にも危うさをちらつかせる強烈な存在感で見る者の心をざわつかせます。

俳優として高い評価を得るリリーさんですが、そのプロフィールには、イラストレーター、小説家、写真家……といくつもの肩書きが並びます。「リリー・フランキーって何者?」 そんな会話を巷で何度耳にしたことか。そのとらえどころなさや飄飄(ひょうひょう)とした佇まいが「余裕のあるカッコいい大人」として若い女性からも人気です。

でも、いい大人って、一体どんな大人のことを言うの? リリーさんにお話をうかがいました。

<どんな映画?>「産まないと親になれないのか」を問う 『万引き家族』とは?
【前編】是枝監督に聞く、“家族の絆”の居心地悪さの正体
【後編】「今? すごく楽しい(笑)」是枝監督の“自分ルール”

映画『万引き家族』(是枝裕和監督)で主演を務めたリリー・フランキーさん

映画『万引き家族』(是枝裕和監督)で主演を務めたリリー・フランキーさん

最後まで成長しないのが治

——是枝監督作品への出演は4本目になりますね。

リリー・フランキーさん(以下、リリー):是枝さんは特殊な存在です。是枝さんの空気感は、僕にとってすごく居心地がいい。居心地いいんだけど、すごく集中できるんです。ものづくりの濃度が高いんですよ。

——今回リリーさんが演じた治は、子どもに万引きを教えるようなどうしようもない父親です。この役をどうとらえて演じたのですか?

リリー:是枝監督からは「最後まで成長しない木偶の坊(でくのぼう)でいてください」と言われました。

たぶん一般的なドラマでは、もっとダメになっていくとか、成長してお父さんらしさを見せる、みたいな展開になっていくんでしょうけど、この映画の治というのは、祥太が成長していくための術(すべ)。そこに埋没していく存在なんです。だから、治は成長してはいけないし、いいところを持ってはいけないんです。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

——子どものまま大人になった感じというのでしょうか……。

リリー:治はずっと「ごっこ」をやっているんですよね。父親ごっことか、万引きごっことか、家族ごっことか。この家族の中にいると、治は楽しいんですよ。

この映画での治は、息子の祥太が大人になっていくときに、「ん? この人、ちょっと大丈夫かな……?」って感じるような木偶の坊でずーっといなければいけなかったんです。

大人になっていく過程で、誰しも父親が小さく見える瞬間ってあるじゃないですか? 祥太ぐらいの年齢の男の子には、父親に対して「あれ、この人イケてないんじゃない?」って感じることが結構あると思います。

同性同士の評価のほうが始まりが早いじゃないですか。「お母さんみたいになりたくない」「お父さんみたいになりたくない」みたいな瞬間は、同性同士のほうが早くくる。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

——リリーさん自身、父親の存在が小さく見えた瞬間って覚えてらっしゃいますか?

リリー:俺は3つまでしかオヤジと一緒に住んでないのですが、たまーにオヤジが家に来たとき、昼まで寝ていたり、電話で居留守をつかったりしている姿なんかを見ていたので、治という役についても「うん、なるほどね」と。俺がそういうふうに親を見てた目で祥太が治を見られるように、治を演じようとは思いました。

「いい大人」「いい家族」なんて存在しない?

——是枝監督の言葉を借りるなら、「徹底した木偶の坊」がいるとすると、反対に「見習うべき大人」像もあると思うんです。リリーさんにとって「いい大人」ってどういうイメージですか?

リリー:いないんじゃないですか?

——えっ、いない?

リリー:「いい大人」っていうのは一般的にカテゴライズしたら、仕事をちゃんとしてる人じゃなきゃダメでしょ。でも、仕事をちゃんとしてる人だって、なにかしら、ある。

——確かにそうですね。治たち一家は犯罪者です。一見幸せそうに暮らしている家族ですが、裏に秘密があるところがリアルです。

リリー:この家族がやっていることは、万引きとか、車上荒らしとか、明快に犯罪です。

でも、明快な犯罪じゃなくても、人々には、絶対何かしらの「悪」が存在してるはずですよね。実はお父さんが不倫してるとか、お母さん人の陰口たたいているとか、その類いのものが。

普通の家族ドラマって「善」として描かれやすいけど、ホントのリアルな家族って絶対そうじゃない。

——そうですね。どんな家族にも多かれ少なかれ「人様にお見せできないこと」はありますよね。

リリー:そんな現実の中で、この映画の家族のシーンにちょっと幸福感があるのは、一般的な家族よりも、彼らが身の丈で生きているからだと思うんです。食うに困ってるわけじゃないけど、別にそれ以上のものを求めてないじゃないですか。

いい家に住みたいとか、海外に行ってみたいとか、そういうのが一般的な趣向なんだと思うけど、この人たちって身の丈で生きてるから、発泡酒飲んでトウモロコシ食べただけですごく幸せそう。

映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

——「幸せな家族」って一体なんだろうと考えさせられました。家庭にはそれぞれ、誉められないところや秘密があったりするけれど、それを抱えて生きていくって、結構しんどいなとも思います。

リリー:煩わしいものですよ、家族って。「家族」ってみんなが持ってるものだから当たり前だと思ってるけど、すごい情報量があるじゃないですか。

この映画のなかでも、子どもの教育の問題とか、お金の問題とか、仕事の問題とか、性の問題とか、ものすごくいろんなものが詰まってる。

いちいち向き合っていくか、何も起きてないフリをするかどっちかしかないけど、何にも起きてないフリをしてなきゃやってられないこともある。

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次回は6月7日(木)公開です。

(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)

■映画情報
『万引き家族』
6月8日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
配給:ギャガ
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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