“犯罪でしかつながれなかった家族”を描いた是枝裕和監督の最新作『万引き家族』(6月8日公開)が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しました。日本人監督作品が同賞を受賞するのは、1997年に今村昌平監督が受賞した『うなぎ』以来で、21年ぶりの快挙となりました。
受賞を受けて、『万引き家族』は公開劇場を300館以上と拡大。また、6月8日の公開初日に先駆けて、公開予定の劇場300館以上で、6月2、3日に先行上映を行うことが決定しています。
日本中、いや、世界中から注目を浴びている映画『万引き家族』ってどんな映画? 映画の紹介と授賞式の公式会見の模様をお届けします。
“家族を超えた絆”を描く
『万引き家族』は、家族を超えた絆を描いたヒューマンドラマ。治(リリー・フランキーさん)と信代(安藤サクラさん)の夫婦、息子の祥太(城 桧吏さん)、信代の妹の亜紀(松岡茉優さん)は、祖母・初枝(樹木希林さん)の家に転がり込み、初枝の年金で足りない分は万引きで生計を立てています。
冬のある日、治と信代は、近所の団地の廊下で震えている幼い女の子を見つけ、家に連れて帰ります。体中傷だらけの女の子の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにしますが……というストーリー。
これまでにも『そして父になる』(13年)や『海街diary』(15年)など様々な家族の形を描いてきた是枝監督が『万引き家族』の着想を得たのは2016年ころ。
親が死亡していたことを隠し、その家族が年金を不正に受給していた年金詐欺事件に触れたことといいます。
「他人から見たら嘘でしかない。死んだと思いたくなかったという家族の言い訳を聞いて、その言葉の背景を想像してみたくなりました」(是枝監督)
「産まないと親になれないのだろうか」という問い
(以下は日本時間の5月20日に行われた第71回カンヌ国際映画祭授賞式の公式会見から)
——家族を取り扱うテーマは普遍的です。この場合は日本ですが、家族の関わり合い方は国や文化によって違います。もちろん個々に問題を抱えていたりもします。家族の関わり合いを日本的な観点、そして個人的にどのように考えてこの作品を描いたのでしょうか?
是枝裕和監督(以下、是枝):あまり家族を描くときにどうすると日本的か日本的じゃないかということを考えては作りません。ただ、今の日本の社会の中で、隅に追いやられている、本当であれば見過ごしてしまうかもしれない家族の姿をどう可視化するかということは考えます。
それは『誰も知らない』の時もそうでしたし、今回もそうでした。僕が子どもの時に住んでいた家は、あの家と同じように平屋で狭くて、僕は自分の部屋がなかったので、押し入れの中に宝物と教科書を持ち込んで自分の部屋にしていた記憶があるので、その押し入れから大人の世界を見るということは自分の実体験としてあります。万引きをしていたわけではありません(笑)
——どうして『万引き家族』の物語、この家族像を作ったのでしょうか? そして、それがなぜ監督にとって重要なのでしょうか?
是枝:どうして描こうと思ったかというのを後付けで語ると、監督はだいたい嘘をつくのでそんなに本当のことを話さないと思いますけど。
一つは『そして父になる』は、「家族は時間なのか血なのか」ということを問いながら作った映画だったんですけれど、その先に「産まないと親になれないのだろうか」という問いを立ててみようと思いました。
今回の物語の中心にいるのは、自分の子どもではない子どもを育てながら父親に、母親になりたいと思う、そういう人たちの話をやろうと思ったのが最初でした。
彼らをどういう状況に置こうかというのを考えたときに、ここ数年日本で起きているいくつかの家族をめぐる出来事を、新聞とかニュースで目にした時、経済的にかなり追い込まれた状況で、万引きとか年金を不正に受給することでかろうじて生活を成り立たせている家族というものの中に、そういうテーマ、モチーフを持ち込んでみようかなと思ったのが今回の映画になりました。
ウートピでは、是枝監督と主演を務めたリリー・フランキーさんのインタビューを6月2日から順次掲載いたします。お楽しみに!
(文:ウートピ編集部・堀池沙知子)