映画『エゴイスト』インタビュー・前編

「ステレオタイプに陥らないように」どんな役にもなりきる鈴木亮平が考えたこと

「ステレオタイプに陥らないように」どんな役にもなりきる鈴木亮平が考えたこと
PR

外見や佇まいに至るまで、どんな役も自分のものにしてしまう俳優、鈴木亮平さん。2月10日公開の映画『エゴイスト』(松永大司監督)で演じるのは、ゲイである自分を押し殺して思春期を過ごし、東京に出て、ファッション誌の編集者として働く主人公の浩輔。2020年に亡くなったエッセイスト高山真さんの自伝的小説が原作で、鈴木さんは「高山さんが、ちょっと自分に似てると思った」と出演理由を語ります。客観的に自分の内面を見つめながら、絶好調に見えるキャリアにも決してあぐらをかかない鈴木さん。その胸の内を聞いた。

ステレオタイプに陥らない映画に

——『エゴイスト』は、田舎から東京に出てファッション誌の編集者になり、自由な日々を謳歌している浩輔が、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚さん)と出会うところから始まるラブストーリーです。出演依頼を受ける決め手になったのは?

鈴木亮平さん(以下、鈴木):原作への興味からです。理由は2つあって、1つは、原作に書かれていたテーマが「愛とエゴ」「善と偽善」というもので、僕も非常に興味があったからです。映画の題材にしたときに、観客が全員飛びついてくれるようなテーマではないので、それを描いたエンターテインメントってそんなにない気がするんですけど。そこを丁寧に切り取られていた。

それともう1つ、高山さんが、ちょっと自分に似ているなと思ったからです。そういうテーマについて深く考えがちなところもそうですし、「自分が今どういう気持ちでいるんだろう?」って、客観的に観察して、かつ、それを言語化するように言葉で勝負している。僕もそういう癖があるなと思ったし、また、大学に進学する時に同じように地方から出てきて、僕と同じ大学に入って、同じように外国語を勉強されたというのも、親近感が湧いたというか、共感できる部分が多かったですね。

——では、即決されたのですか?

鈴木:果たして、きちんとできるのだろうかと、まず相談させていただきました。異性愛者視点での物語に陥る可能性があったので。でも、その部分は、LGBTQ+インクルーシブディレクターとしてミヤタ廉さんが入ってくれたり、浩輔の友達役にゲイの方々をキャスティングしてくれるという話があったので、そこまで配慮していただけるなら、自分も相談しながらやっていこうと思いました。

——浩輔を演じるにあたり、高山真さんのブログを読んだり、ゲイの方々にお話を聞いたり、入念にリサーチをされたと伺いました。演じるうえでよりどころとした高山さんの言葉や特徴があれば教えて下さい。

鈴木:高山さんが書いたものに、『愛は毒か 毒が愛か』という本があるんです。そのあとに『エゴイスト』を書かれているのですが。僕はその「毒」を「エゴ」に置き換えられるなと思ったんです。「愛はエゴか、エゴは愛か」というのは、僕の中でテーマとして置いていたものですね。

この映画はフィクションなので、演じる上では、ご本人に寄せる必要はまったくないんですけど、彼が映像化の直前に亡くなられたということもあり、彼が生きた証しにもなる映画なので、彼のキャラクターをきちんと尊重した上で演じたという気持ちはありました。

——話し方や物腰など、普段の鈴木さんとは全く違うことに驚きました。身体的な特徴は、どういうふうに作り上げていったのですか?

鈴木:浩輔の身振りや話し方というのは、非常に僕たちも悩んだところです。実際の高山さんの持っていた個性は生かしたかった。いわゆる「オネエっぽい」と言われる口調やゲイの方々のいう「ホゲる」という表現です。ただ、映画として、高山さんを正確に演じることが果たして正しいのだろうか。ともすれば、ステレオタイプ的に捉えられてしまい、いわゆる「ゲイの人ってこういう感じだよね」という偏見を助長させることになるかも知れない。

一方で、彼がもともと持っていた身振りや話し方などをなくしてしまうことも、ある意味漂白してしまうことになる。ゲイの方々にリアルだと思っていただけて、かつ、当事者じゃない方々にも適切に届くラインはどこなんだろうと、ミヤタ廉さんと逐一話し合いながら演じました。

——ミヤタ廉さんには、撮影前から参加していただいたのですか?

鈴木:脚本の段階から入ってくださり、キャスティングにも関わってくださいましたし、宣伝の場においても、僕たちの発言に対して誤解されるところがないかチェックしてくださっています。「セクシュアリティって、そもそもどういうことなんだろう?」とか、LGBTQ+を取り巻く現状や歴史とか、僕たちがいろいろ教わるところから、すべてにおいて関わってくださった。今までミヤタさんのような方が僕らの業界にはあまりいなかったのですが、今後は増えていくのではないかと感じています。これまで僕たちの業界はマイノリティの描き方というものに対してーー性的マイノリティだけではなく、人種とか、障がいなども含めてーーあまりにも無頓着だった気がします。そのような状況でミヤタさんの存在はすごく頼りになりました。

皆が安心して、より良いものを作れる環境に

——近年の日本映画で、本作ほど正面から性的なシーンをしっかり描いている映画はなかったように思います。その必要性をどう考えていらっしゃいますか?

鈴木:セックスは現代社会の恋愛において、とても重要なものだと思います。もちろん、描く、描かないは作品のテイストによると思いますけど、描くことが必要な作品だったら、僕は描いたほうがより2人の関係が伝わると思います。たとえば今回の映画なら、浩輔と龍太が出会って初めて関係を結ぶシーンと、付き合った後でのシーンで、2人がどういう関係性を築いているのか、違いが分かります。龍太のセックスに対して違和感を抱く重要なシーンでもありますし、二人の愛情の強さが垣間見える大切なシーンだと思うので、描くことで得られるものが非常に多いのではないかと思います。

インティマシーシーンに関しても、当事者の方が見たときに違和感がないか、また、ファンタジーに寄り過ぎていてもダメだし、あまりに性的な印象が強すぎても違うメッセージを与えかねないので、そこのさじ加減は非常に監督も重視していました。

——「セックスが丁寧」というセリフがありましたが、ちゃんと感情の乗ったシーンになっていましたよね。

鈴木:それも振り付けのコレオグラファーの方と監督が、たとえば、「龍太は浩輔の腕にキスをすることにしましょう」とか、丁寧だというのをどう見せるのかを話し合って、それを僕たちに伝えてくださった。前もって話し合っていただいたので、僕たちも役の感情が乗せやすかったです。

今作では、現在日本に女性2名しかいないインティマシーコーディネーターさんは付けることができなかったのですが、男性同士のインティマシーシーンのリアリティをアドバイスしてくれるインティマシーコレオグラファーさんに入っていただいて、男性と女性のセックスと、男性同士のセックスでは、どういうところが違うかみたいなところを、細かくアドバイスしていただきました。ただ、(インティマシー)コーディネーターさんとは違うので、俳優周りのケアとか、現場を最小限の人数にするとか、そういう部分は監督とスタッフの皆さんが配慮してくださいましたね。

今回はそういう形になりましたが、今後は、たとえばインティマシーコーディネーターさんが女性なら、コーディネーターさんとゲイのコレオグラファーさんの二人一組でお願いするとか、そういうことが一番理想的な形になっていくのかなと思います。

昨年別の作品で初めてインティマシーコーディネーターさんとお仕事させていただのですが、素晴らしかったです。俳優部を守るというだけではなく、結果としてシーン全体のクオリティが上がることに気が付きました。そういうことを僕らが模索しながら、皆が安心してより良いものを作れる環境になっていくのだろうなという予感がしています。

■映画情報
『エゴイスト』
公開表記:2月10日(金)全国公開
配給:東京テアトル
(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

(聞き手:新田理恵、写真:伊藤菜々子)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
PR

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「ステレオタイプに陥らないように」どんな役にもなりきる鈴木亮平が考えたこと

関連する記事

編集部オススメ

2022年は3年ぶりの行動制限のない年末。久しぶりに親や家族に会ったときにふと「親の介護」が頭をよぎる人もいるのでは? たとえ介護が終わっても、私たちの日常は続くから--。介護について考えることは親と自分との関係性や距離感についても考えること。人生100年時代と言われる今だからこそ、介護について考えてみませんか? これまでウートピで掲載した介護に関する記事も特集します。

記事ランキング