映画『ひとよ』インタビュー・前編

鈴木亮平、苦しみを抱え込んだ“内向き”の男の役で新境地 映画『ひとよ』で白石組に初参加

鈴木亮平、苦しみを抱え込んだ“内向き”の男の役で新境地 映画『ひとよ』で白石組に初参加

大河ドラマ「西郷どん」など過去の出演作や、明快なトークなどの印象ゆえか、俳優の鈴木亮平さんには「陽」のイメージが強い。そんな鈴木さんが最新出演映画『ひとよ』で演じるのは、吃音を持つコミュニケーションが苦手な男性。まとっているのは「陰」の熱量だ。

イメージにとらわれず鈴木さんを起用した白石和彌監督は、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『孤狼の血』(18)など立て続けに話題作を生み出し、おそらく現在、俳優から最も起用されたいと願われている映画監督。俳優人生の「第二章の始まり」を意識しているという鈴木さんと、彼の新たな顔を引き出した白石監督の対談をお届けする。

『ひとよ』メインビジュアル

『ひとよ』メインビジュアル

意外? 白石組は「誰も叫ばない」平和な現場

——お二人は初めてのタッグですよね。鈴木さんにお伺いします。白石監督の作品には『凶悪』(13)や『日本で一番悪い奴ら』(16)など血の気の多い男たちが主人公のものが多いので、パワフルでやんちゃなイメージがあるのですが、初めて白石組に参加された感想は?

鈴木亮平さん(以下、鈴木):いい意味で“平和”でした。過去に撮られた作品のイメージから「おりゃー!いくぞー!」っていう血気盛んな現場を想像すると思うんですけど、全くなくて。誰も叫ばない(笑)。だけど、出来上がった作品に、ものすごい熱が乗っかってるんです。

——熱が乗るタイミングってあるのですか?

白石和彌監督(以下、白石):僕は俳優さんの演じたものを見たときにスイッチが入りますね。「生で見たお芝居の感動を、何割切り取ることができるだろうか」ということをいつも考えて、お客さんに届けたいという思いで必死になってやっています。

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苦しみを抱え込んだ男の役で新境地

——この映画は、タクシー会社を営む稲村家の物語です。母のこはる(田中裕子さん)は、ある夜、夫を殺(あや)めます。全ては夫から暴力を振るわれていた3人の子どもたちの幸せのため。「15年後に戻ってくる」と言い残して自首した後、行方知らずになっていた母親。映画は、そんなこはるが帰ってくるところから始まります。鈴木さんが演じるのは、父親からの暴力や事件で受けた心の傷や、その後の誹謗中傷などに耐え忍びながら、15年前の一夜から前に進めないでいる長男・大樹です。

鈴木:この映画は、見る人の育ってきた環境によって、誰に共感するか、母と子の関係をどう捉えるのかが全然違うと思います。

大樹は一言で言うと「マザコン」なんです。お母さんを愛してるんですよ。だからこそ、自分が欲しかったもの——母親のぬくもりや優しさ——を与えてくれなかったこはるに、愛情と同じだけ憎しみも抱えてしまっている。大樹が求めているものは、恐らくもう母親から与えられることはないかもしれない。

下の弟妹は兄貴から学習できますけど、大樹は長男なので、彼にとっては全部初めてのことばかり。殴られる母親を見るのも兄妹の中では彼が初めてで、父親の暴力に対しては下の2人より大きな傷を抱えている。しかも吃音を持ってることで、自分の思いを人に打ち明けない。すごく大きなものを抱え込んでいる人だから、演じていて苦しかったですね。

サブ2

——鈴木さんといえば、トークも面白いですし、コミュニケーションも上手な方という印象があります。この内へ内へと引きこもってしまう大樹という役に鈴木さんを起用した理由は?

白石:役者さんを選ぶときは常に、その人のパブリックイメージとは違う役柄で出てもらいたいと思っているんです。鈴木さんご本人は、いろんなベクトルが外に向かっていく方なので、その逆をやってもらいたいと思いました。

鈴木:役者ってパブリックイメージでキャスティングされることが多いので、それって本当に有り難いことなんです。僕たちはイメージと違うことをやっていきたいと常に思いながら、そこから抜け出したキャスティングをされないことに、役者として悩んだりする。キャスティングするほうも怖いということは分かります。でも、そこをなんとか、あえてこの役に……と思ってくださる白石監督のような存在はすごく貴重です。

しかも白石監督は、毎回それを結果として形にしてくれる。人柄的にはこういうナイスな方なんですけど、何かを打ち破ろうっていう反骨精神みたいなものはめちゃくちゃ感じましたね。映画作りで発散してるから普段こう優しくいられるだけで、映画作りがなかったら、僕はこの人、危ない人だと思っています(笑)。

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コンプライアンスぎりぎりで「世間にいたずら」

——白石監督はいつも、コンプライアンスぎりぎりセーフのところでエンターテインメントとして皆が楽しめる作品を撮ってらっしゃる。あのバランス感が絶妙だと思っています。

白石:いたずらしてるだけなんです。世間で思われているコンプライアンスの山の稜線を歩いてる感じですね。時々、一歩踏み外して「やっぱりダメだな」みたいなことをやって(笑)、世間にいたずらしてるというか・・・・・・。

——それはなぜですか?

白石:それが楽しいから。

鈴木:今の話を聞いて思いましたけど、監督の作品って、激しくてパワーがあるんですけど、どこかに品があるなと僕は思うんです。ずっと目を背けたくなるのものは見続けられないし、そこだけでは売っていないというか。やっぱりエンターテインメントとして、映画として、楽しさの中に、ちょっとそういう部分が入ってくる。

白石:そこは気を付けていますよ。あとは、コンプライアンスでテレビではやれないことや、他の映画ではやらないことをやるというのは、ある意味、僕だけ自由な武器を持ってるみたいなところがある。ルールの中ではやっていますが、普段観客が見ていないものを入れることで、物語そのものが強化されるという効果はすごく意識してます。

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■作品情報

作品名:『ひとよ』
公開表記:11月8日(金) 全国ロードショー
コピーライト :(C)2019「ひとよ」製作委員会
配給:日活

(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘)

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