40代からの私
『万引き家族』是枝裕和監督インタビュー・後編

「今? すごく楽しい(笑)」是枝監督が40歳を超えて決めた“自分ルール”【万引き家族】

「今? すごく楽しい(笑)」是枝監督が40歳を超えて決めた“自分ルール”【万引き家族】

映画『誰も知らない』『そして父になる』など、さまざまな家族の在り方を問うた作品が国内外で高い評価を獲得している是枝裕和監督。

“犯罪でしかつながれなかった家族”を描いた最新作『万引き家族』は、第71回カンヌ国際映画祭で日本作品として21年ぶりにパルムドール(最高賞)に輝きました。

治(リリー・フランキーさん)と信代(安藤サクラさん)の夫婦、息子の祥太(城 桧吏さん)、信代の妹の亜紀(松岡茉優さん)は、祖母・初枝(樹木希林さん)の家に転がり込み、初枝の年金で足りない分は万引きで生計を立てています。

世間の目から見れば“犯罪者”の集団ですが、彼らの団らんには笑顔があふれています。映画はこの家族を生んだ社会的背景に目を向けつつも、「どうあるべきか」を提示することはせず、観客に判断を委ねます。

前編に引き続き、是枝監督に話を聞きました。

【前編は…】是枝監督に聞く、“家族の絆”の居心地悪さの正体

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「自分で決める」が大切とは限らない

——『万引き家族』では、物語の後半、家族が引き裂かれていきますが、まだ子どもの息子が自分の意志で生きる場所を選択し、成長を見せる姿が印象的でした。

「ウートピ」読者には30代女性が多いのですが、キャリアや人生の選択肢が多い時期でもあるぶん、「世間的にはこうあるべき」「まわりがこうだから」と迷いがち。監督は「自分で決めること」の大切さについて、どう考えていますか?

是枝裕和監督(以下、是枝): “自分で決めているつもりだけど、実はそうではないかもしれない”ということも、時にはありますからね……。

役に立つことを言うつもりもないし、言おうと思っても言えないんですが、僕も、次にどんなものを撮るのか、自分で決めているようでいて、まわりの状況や役者のスケジュール、予算の都合など、意外と外的な要因で決まることが多いんです。

『万引き家族』もそう。本当は先に撮ろうと思っていた作品がひとつあったんですけど、先にこちらを撮ることになり、でもやってみたら、このタイミングで安藤サクラと出会えた。これは稀有な出会いだったなと思います。もともと会おうと思っていたわけではなくて、街でたまたま出会ったんです。

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——街でたまたま? 本当ですか??

是枝:本当です。そういう積み重ねでモノってできてくるから、自分で本当に全部決めているのかな? って。それに、全部自分で決めたことが必ずしも上手くいくとは限らないですよね。

僕がずっとお世話になっていたプロデューサーの安田匡裕さんが2009年に亡くなったんです。僕にとって父親みたいな存在で、精神的にも、金銭的にも、ずーっとスネかじりでモノを作ってきたんですけど、自分でなんとかしなければいけなくなった。

長くいた(テレビ番組制作会社の)テレビマンユニオンを辞めて、自分で自分が作りたいものを作る集団を立ち上げたのですが、もし安田さんが健在だったら作ってないですね。

そこで、自分が“息子”のポジションから、今度はまわりの若い子たちに対して、“父親”とは言えないまでも、そういう存在にならざるを得なくなった。

それは望んだことではないけども、引き受けるしかないものだったから。でも、そうやって循環していくものなんじゃないかな。

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40歳を超えて決めたルール

——是枝監督には、何か自分で決めた生き方・働き方のルールはありますか?

是枝:自分のルール? 最近はもう、やりたくないことはやらない。やりたくないことをやるほど、残りの人生の時間は長くないってことですね。やりたいことだけやってる。

——それはいつ頃からそう思うようになったんですか?

是枝:40歳を超えた頃からそうなりましたね。

——楽しいですか?

是枝:今? すごく楽しい(笑)。

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——でも、人気マンガや小説の映画化が多い日本の映画界で、監督のようにやりたいことを貫くのはなかなか難しいのではないでしょうか?

是枝:監督発のオリジナルの企画が動きにくいですからね。でも、映画監督が受注仕事になったら、たぶんつまらないと思うんだよ。

企画を受注して職人的に映画をつくるというのも、それはそれでやれば楽しいかもしれないけど、それだけになっていくと、映画がコマーシャルと一緒になっちゃうから。そうするとたぶん続かないな、映画監督みたいな大変な仕事は。

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(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)

■映画情報
『万引き家族』
6月8日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
配給:ギャガ
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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