『万引き家族』是枝裕和監督インタビュー・前編

21年ぶりのパルムドール『万引き家族』 是枝監督に聞く、“家族の絆”の居心地悪さの正体

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21年ぶりのパルムドール『万引き家族』 是枝監督に聞く、“家族の絆”の居心地悪さの正体

映画『誰も知らない』『そして父になる』など、さまざまな家族の在り方を問うた作品が国内外で高い評価を獲得している是枝裕和監督。

“犯罪でしかつながれなかった家族”を描いた最新作『万引き家族』は、第71回カンヌ国際映画祭で日本作品として21年ぶりにパルムドール(最高賞)に輝きました。

治(リリー・フランキーさん)と信代(安藤サクラさん)の夫婦、息子の祥太(城桧吏さん)、信代の妹の亜紀(松岡茉優さん)は、祖母・初枝(樹木希林さん)の家に転がり込み、初枝の年金で足りない分は万引きで生計を立てています。

世間の目から見れば“犯罪者”の集団ですが、彼らの団らんには笑顔があふれています。映画はこの家族を生んだ社会的背景に目を向けつつも、「どうあるべきか」を提示することはせず、観客に判断を委ねます。答えを出さない、ゴールを設定しない、是枝監督の流儀とは……?

【後編は…】「今? すごく楽しい(笑)」是枝監督が40歳を超えて決めた“自分ルール”
【リリー・フランキー】「ベテランよりルーキーのほうが楽しい」

映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

“家族の絆”の居心地悪さの正体は…

——是枝監督の作品は家族をテーマにしたものが多いですが、これまで映画を撮ってきたなかで、監督の「いい家族」像に変化はありましたか?

是枝裕和監督(以下、是枝):あんまり意識したことはないなぁ……。でも、「『これが“幸せな家族のカタチ”である』ということを提示しない」というのが、家族ものを描くときの最小限の倫理感ではないでしょうか。

そうではない人たちにとって抑圧的に働くような描写はしていないつもりです。

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——プレス向け資料の監督インタビューでは「特に(東日本)大震災以降、世間で家族の絆が連呼されることに居心地の悪さを感じていました」とおっしゃっていました。その部分を詳しく伺いたいです。

是枝:本来は……と言う言い方はあれですが、ああいうことが起きたときに語られる「絆」って血縁を超えてつながっていくことを指すと思うんですが、あのときに消費された「絆」という単語の多くは「やっぱり家族だよね」という血縁に閉じる感じがすごくした。

——血縁に閉じる?

是枝:共同体がね、同質性に閉じるほうに向かっちゃった。この7年、どんどん日本はそっちに向かっちゃっていると思うんですよね。本来は逆だと思うんだけれど。

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——「そっちに向かう」というのは?

是枝:危機に直面すると同じほうに行くほうが安心だって思うんじゃないですか? それが気持ち悪いなって。

だから異質なものを排除しようとするんじゃないですかね。社会がこういうふうによくない方向に向かっていくと誰かのせいにしたくなるからね。そういう気持ち悪さをいろいろなところに感じているから。

でも「血なんてどうでもいい」という映画でもないので。血にこだわっている、こだわらざるを得ないっていうか、そこからなかなか離れられない人も家族の中にはいるからさ。そこは簡単にどっちとは言っていないつもりです。

血がつながっているだけで家族と言えるのか? 親子と言えるのか? という問いはいつもしているつもりです。

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ゴールが見えている作業は面白くない

——『万引き家族』を見て、「生まなければ母親になれないのか」という問いかけが胸に刺さりました。多様な生き方が受け入れられ、この家族のように社会からこぼれ落ちてしまった人にも受け皿を用意できる世の中になればいいのにというメッセージが込められているような気がしたのですが……。

是枝:映画から何を読み取るのか、ここで答え合わせをするつもりはないので、そういう受け取り方で全然いいと思いますよ。

でも、今の日本って「子どもを産んで一人前」って強迫観念のように思っている男たち、女たちがたくさんいますよね。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

——私は映画というのは多様な社会を知る窓という認識を持っているのですが、監督は作品を通して世の中に何か一石を投じたいという気持ちはありますか?

是枝:それを目的につくることはないです。結果的にそうなることはあっても。それを目的につくるということは、ゴールが見えている作業になっちゃうから、撮っていて楽しくないと思います。

社会にも映画にも多様性が必要

——ゴールが見えないから楽しい、と。

是枝:何かを発見するプロセスがあって、その結果として作品があるというのが、理想的な作り手と撮影現場と作品の関係だと思うんです。先にゴールが見えていて、伝えたいことを伝えるために映画を作る、というのは、したことがないし、面白くないと思う。

ただ、社会に多様性があることはすごく大事だと思います。僕ができることがあるとするならば、同じように映画にも多様性が必要だ、ということだから、いろんな映画があるべきだと思うし、いろんな映画の興行の形や作られ方があるべきだと思う。

そう考えると、いまの日本の映画界に一番欠けているのは、監督が企画を立てて、監督の発意のもとに映画が動いて、それが劇場公開されることだと思うので、僕にできることがあるとすれば、そこにこだわるということ。

それが映画の多様性を確保するという目的に一番合致していると思います。だからそういう作り方にこだわっています。

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【後編は…】「今? すごく楽しい(笑)」是枝監督が40歳を超えて決めた“自分ルール”

(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)

■映画情報
『万引き家族』
6月8日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
配給:ギャガ
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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