カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)に輝いた是枝裕和監督の最新作『万引き家族』。リリー・フランキーさんは万引きを繰り返す一家の父親・治を演じ、軽妙な中にも危うさをちらつかせる強烈な存在感で見る者の心をざわつかせます。
俳優として高い評価を得るリリーさんですが、そのプロフィールには、イラストレーター、小説家、写真家……といくつもの肩書きが並びます。「リリー・フランキーって何者?」 そんな会話を巷で何度耳にしたことか。そのとらえどころなさや飄飄(ひょうひょう)とした佇まいが「余裕のあるカッコいい大人」として若い女性からも人気です。
第2回はリリーさんに仕事について聞きます。
焦ると“ババ”を引く
——「ウートピ」読者には30代女性が多いのですが、これからのキャリアプランとか、人生設計とか、いろいろ考えすぎて袋小路……という悩みをよく聞きます。
リリー・フランキーさん(以下、リリー):女の人は、30歳と35歳になる直前に数値化されたものに対して焦ると思うんですけど。そういうときにババ引かないようにしたほうがいいと思いますよ。
——ババっ?!
リリー:慌てるとだいたいカスを引くじゃないですか。だいたいね、博打でもそういうときは「見(ケン)させてください」って言って「引かない」のが一番いいんですよ。
特にベガスとかに行ってバカラとかやると、張り続けたら絶対最後は負けるんです。調子が悪くなったときとか、上手くいかないときは、しばらく「見てる」。
——なるほど……。慌てないで様子を見るというのも大事なんですね。
是枝作品に出演する理由
——あくまで視聴者側のイメージですが、リリーさんは自由に仕事を楽しんでいる印象があります。
リリー:いや、仕事をやっていて楽しいと思ったこと、1回もないですね。それに、楽しそうに仕事してる人も、なんかちょっとヤだなって思う。
——「ヤだ」というのは?
リリー:いいものを作るには苦しい作業もともなうから。楽しいと思えるのはいいものが完成したときだと思う。
——『そして父になる』や『海街diary』など是枝作品に多数出演していらっしゃいますが、リリーさんが仕事を選ぶ基準は?
リリー:たとえば、是枝さんの映画に出るのは、是枝さんの映画だったら何でもいいから出たいっていう気持ち。いいモノをつくっている人の姿っていうのは、勉強になるからです。
——勉強になる?
リリー:いいモノをつくる方法ってひとつしかないんですけど、諦めずに、ねちっこく、精度を上げていくっていうこと。そういう普段忘れがちなことを目の当たりにさせてくれるんです。
ベテランよりルーキーのほうが楽しい
——年齢やキャリアを重ねていくと、「その道のプロフェッショナルにならなければ」とか、「何者かにならなければ」という願望って多少なりとも出てくるのかなと思うのですが、リリーさんは「勉強になる」という姿勢でお仕事を選ばれるんですね。
リリー:ある程度の年齢になったら、ベテランになるより、ルーキーになるほうがいいじゃないですか。わからないことにチャレンジするときのほうが、生き生きしてると思いますよ。
俺も、お芝居をはじめたのは35歳ですし。全然知らないことを始めるのが好きです。写真を撮りだしたのも30歳ぐらいだったかな。
——リリーさんというと肩書きをたくさんお持ちですが、「ご職業は?」って聞かれたらどう答えているのですか?
リリー:一応「イラストレーター」って答えています。「自営業」とか。今回のこういう取材には「役者」で出てますけど、俺なんかが「職業、俳優です」って言ったら、なんか気持ち悪いじゃないですか。
だから便宜上ずっと「イラストレーター」って言い続けてるんです。でもまあ、イラストレーターの人からすれば、「お前全然イラスト描いてないじゃん」ってことになってると思いますけど。
——若い頃、自分のキャリアプランって考えましたか?
リリー:若いときってすごく単純だから、「人がやったことないものをやってみたい」っていう気持ちだったんじゃないかな。でもそれって「発明家になる」みたいなことだから、結局そんなものもなくて。人がやったことないもの……と考えた結果が「いろいろやってみる」ってことだったりするじゃないでしょうか。
でも、「竹串をつくって55年」みたいな、「日本の名工」として取りあげられるような職人の方の仕事を見るとうっとりします。たぶん、自分ができないからでしょうね。
※次回は6月9日(土)公開です。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)
■映画情報
『万引き家族』
6月8日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
配給:ギャガ
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.