「毎晩の寝つきが悪い」「夜中に目が覚めてしまう」「目覚めがスッキリしない」など、睡眠の悩みはつきもの……。特に、暑い夏の夜は、「蒸し暑くて寝苦しい」といった悩みもプラスされ、睡眠不足に陥っている方も多いのではないでしょうか。
医学博士で内科医、脳神経内科専門医、抗加齢医学専門医の山下あきこ医師による著書『こうすれば、夜中に目覚めずぐっすり眠れる―医師が教える、薬に頼らない3つの方法』(共栄書房)が7月11日に発売されました。同書では、不眠で悩む人に向けて、ぐっすり眠るためのコツや睡眠のしくみなどを紹介しています。
山下医師に3回にわたってお話を伺います。最終回は「幸せホルモンと睡眠の関係」について伺いました。

山下あきこ医師
“幸せホルモン”を出すための練習
——前回、幸せホルモンと言われているセロトニンのお話がでました。今回の本にも、幸福度を高めるために「行動」も大事で「喜びや幸せに気付く練習をすることが大事だ」と書かれていました。
山下あきこ医師(以下、山下):幸福が決まる3要素として、遺伝子が50%、環境が10%、行動が40%と言われています。本では周りの親切を受け取ることを紹介しましたが、まずは「気付こう」と思うところから始めてみてください。「今日は喜びを10個感じてみよう」とか、意識的に気付くことをやってみる。そうするだけで、意外と何とも思ってなかったことが、実はうれしいことだったと気付くはずです。
例えば、「電車が混んでなくて快適だったな」とか、「家に帰ったら猫がトコトコ寄って来てくれた」とか、小さな喜びをわざと数えてみるんです。意識的に数えることは、小さな喜びに気付く練習になると思います。
——どんな小さな喜びでもいいんですか?
山下:むしろ、小さければ小さいほどいいと思います。というのは、喜びのハードルを下げたほうが、数が増えるから。大きな喜びって、1日のうちでなかなか起こらないですよね。「今日は晴れてるな」ぐらいが自分の喜びになれば、毎日が喜びでいっぱいになりますよ。
“怒りの感情”をベッドに持ち込まない習慣
——マインドフルネスについてもお聞きしたいです。何か起こるとつい「良い」「悪い」でジャッジ(判断)しがちなのですが、まずは起こった事実を見つめて受け止めることが大事なんだなと思いました。
山下:そのとおりだと思います。例えば、一つの怒りがあった場合に、それに付随した考えがどんどんわいてきますよね。「こんなことで怒る私は、こらえ性のない人間だ」とか、「私の内面がよくないんだ」とか、それとは逆に、「私を怒らせるあの人が悪い」と思ったり。そこには、イライラした事実があるだけなのに、自分の今までの姿勢とか、相手の悪いところをふくらませてしまうと、どんどん問題が大きくなります。だから、「私は怒ってるんだ!」という今の怒りだけに集中することは、まさにマインドフルネスですよね。
ちなみに、怒りの感情は、眠りにも影響します。怒りをそのまま寝床に持ち込んで考え込んでしまったり、怒りによるテンションの高さを引きずって、平穏な気持ちになれなかったり。だから、そういうときは、寝る前に、マインドフルネスやボディスキャンをやると効果的だと思います。
自分の内面に意識を向ける時間をつくる
——マインドフルネスに関連して、「ひと昔前、ビジネスパーソンの脳を休める時間は移動時間でした」と書かれていましたが、どのような仕組みなんでしょうか?
山下:今の時代においては、なかなか難しいことかもしれませんが……。スマホを持っていなかった時代は、移動中に、何かにずっと集中していることはなかったですよね。風景をぼんやり眺めたりとか、自分の内面に意識を向けやすい状態だったと思うんです。でも今は、移動時間が少なくなったことに加えて、移動時間中でもパソコンやスマホで仕事ができちゃう。在宅勤務で、一つ会議が終わったら間髪入れずに次の会議が入るというのも多くなりました。意識を取られて、心を引きはがしてしまう要素がすごく多いなと感じてます。
——自分がリラックスするためのルーティンを決めるといいかもしれませんね。
山下:そうですね。ただ、「自分にとって何がいいのか?」ということに気付かないと、周りがいいと言っているものに振り回される可能性があります。例えば、リラクゼーションの音楽って書いてあるから、「これを聴いたらリラックスするだろう」と思ってやってみると、「全然リラックスしないじゃん!」なんてことも私は結構あるんですよね(笑)。だからやっぱり、自分は何に対して心地よく感じるのか、自分の中の感じ方を大事にしてほしいなと思います。