生理は女性たちが毎月向き合う日常の一つだし、中絶は”人生の一大事”で“トラウマ”になるとは限らない--。
34歳のうだつが上がらない(と自分では思っている)独身女性・ブリジットと6歳の少女・フランシスのひと夏を描いた映画『セイント・フランシス』が8月19日(金)から全国で順次公開されます。
大学を中退後、レストランスタッフとして働いてるブリジット。SNSを開けば友達は結婚や子育て、キャリアなど年相応にステップアップしていく。「それに比べて自分は……」と落ち込むこともしばしば。そんな中、子守りの短期仕事で出会ったレズビアンカップルの娘・フランシスと交流するうちに、ブリジットの心は少しずつ変化していく――というストーリー。
ブリジットを演じた女優のケリー・オサリヴァンさんが自ら脚本を手掛け、生理や避妊、妊娠、中絶といった女性の身体にのしかかる負担やプレッシャー、レズビアンカップルが直面する差別などを軽やかに脚本に落とし込んでいます。
ケリーさんに、執筆のきっかけや作品にこめたメッセージを伺いました。前後編。

脚本・主演を務めたケリー・オサリヴァンさん
「ここに私がいる!」と思える作品を作りたかった
——同作は、グレタ・カーヴィグの『レディ・バード』に触発されて、脚本を執筆されたとお聞きしました。どんな部分に影響を受けたのでしょうか?
ケリー・オサリヴァンさん(以下、ケリー):『レディ・バード』は、彼女の生活をそのままを映像化したような作品ですよね。非常に個人的な部分を描いていることに驚いたというか。そして私も、主人公に自分を重ねて見ることができたんです。演劇が大好きな女の子で、夢や希望があって……。まさに、私の経験と重なる部分がありました。だから、もし私が自分の個人的な経験を映画にしたら、それを見た人が「ここに私がいる!」って感じてくれるかもしれないと思いました。
それと、私がもっとも関心を持っていることは、人間関係。普通の人が日々経験している日常の些細(ささい)なことが、残りの人生に大きく影響を及ぼすこともある。そういったことを描きたいと思っていました。
——カップル同士でNetflixのアカウントを共有していることや他愛(たわい)もないやりとりなど「あるある」が満載でした。日常の些細なことを、どんなふうにエピソードに落とし込んでいったのでしょうか?
ケリー:すごくディテールにこだわったので、日常的に気を配っていました。何か出来事が起こると、「これは使えるかも」「これは使わなきゃ!」と意識して。私は多分、観察眼があるんじゃないかと思っていて。たとえば、この映画の中でも、婦人科に行って下半身を見せてるのに、その天井には和むような写真や絵があったりするエピソードが登場しますが、例えシリアスな状況でもコメディの要素はあると思ったし、見た人にも共感だったり、気づきがあると思いました。「そういうことあるよね」って。
シリアスな出来事の中にも「おかしい」部分って絶対にある
——タブー視されがちな生理や必ずトラウマや罪悪感とセットで語られがちだった中絶、深刻一辺倒だった産後うつがときにコミカルに描かれているのが印象的でした。無理にコミカルに仕立てているというのではなく、日常の一コマとして淡々と軽やかに描かれていました。罪悪感を感じるのが悪いというのではなく、あくまでも感じ方は人それぞれというか……。
ケリー:例えば、中絶に関して言うと、「怖い」「もう終わりだ……」というような描き方はしたくなかったんです。それがドラマチックなことであったとしても、リアルな人生にはコメディ要素が伴いますよね? 本当にドラマチックな瞬間でも、「ちょっとおかしい」部分が絶対にあるんです。私の実体験でもそうだったので、映画の中でもシリアスな面とコメディ要素が同居していて。もちろん、すべて面白おかしく描こうというわけではなく、繊細さも合わせて描くことも大事なんですけど……。
私は、ブリジットが妊娠を知った瞬間から、彼女は100%の確信を持って中絶して、決して撤回することも、一度も後悔することもないというようにしたいと思いました。そして、ここで生まれる感情に罪悪感は含まれていないということ。
中絶はクライマックスでも決定的な出来事でもなく、誰かのストーリーの一部であり得る。私は中絶が話してはいけないタブーであることにうんざりしているし、 少なくともひとりの女性の経験として正直に絶妙なニュアンスで、ときには面白くさえ描くことができるのではないかなと思いました。
人生を生きる最高の方法
——大変な出来事の中にも「おかしみ」があるというか、一つの出来事も違う部分から光を当てるような人生観のようなものを感じたのですが、ケリーさんの人生観が反映されているのでしょうか?
ケリー:そうですね。「人生を生きる最高の方法」というのは、多分そういうことだと思うんです。一番期待していない部分で、何かおかしなことが起こるというのが、人生だったりするじゃないですか。中絶のことも、もし私が経験してなかったら書けなかった部分ではあるんですけど、「こんなおかしなことが起きた」「こんなことが伴った」というところは想像してなかったですし。
だから、自分自身に対して、「これはおかしなことなんだ」「笑ってもいいことなんだ」ということを許してあげる。他の人が軽い反応をしても、「それでもいいんだよ」って許してあげる。そういうことが必要なんじゃないかなと思います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
■映画情報
8月19(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国ロードショー!
監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク 2019年/アメリカ映画/英語/101分/ビスタサイズ/5.1chデジタル/カラー 字幕翻訳:山田龍
配給:ハーク 配給協力:FLICKK (C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式HP:www.hark3.com/frances/