もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…?

「未知なる自分を追い求めたい」中谷美紀型女子のストイックさをどう受け止めるか

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「未知なる自分を追い求めたい」中谷美紀型女子のストイックさをどう受け止めるか

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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今回取り上げるのは女優の中谷美紀さんです。主演を務めた連続ドラマ「あなたには帰る家がある」(TBS系)では夫に浮気をされる主婦を熱演し、話題をよびました。私生活では「結婚願望はもともとない」と語るなど、ミステリアスな印象の強い彼女のような人がもしオフィスにいたら——?

もはや求道者?

90年代に映画『リング』(中田秀夫監督)でブレークした中谷美紀。その後主演したドラマ『ケイゾク』(TBS系)は、女性が捜査の主役となる本格ミステリドラマ流行の先駆けとなった。坂本龍一のプロデュースによる音楽活動でも知られ、2000年代には映画『電車男』(村上正典監督)や『嫌われ松子の一生』(山田宗樹監督)の当たり役で大成功し、ドラマ『JIN-仁-』(TBS系)やNHKの大河ドラマ『軍事官兵衛』への出演など、アラサー女性にとってはなじみ深い女優のはず。

そして今年は40代の実力派女優として、金曜夜のプライムタイムドラマに主演。夫との不仲を乗り越えて自立、子連れ離婚へと踏み出す、どこかにいそうな「ちょっと気が強くてキレイめの普通の主婦」を演じ、共感を集めた。

ある30代の女性は「ミステリアスなのに泥臭さもある、相反するものが同居する不思議な存在」と中谷美紀を評する。

イメージ外の役も引き受けていく仕事への前向きな姿勢。料理の腕はプロ級で、美容や健康法に関する知識も豊富。言語に関しては英語・フランス語まで堪能だという。人生の全てにおいて「プロ根性」が漂っている。「言葉にすると息苦しいくらい完璧主義に見えるのに、つらそうに見えないのが不思議だなと思います」と。

「つらそうには見えない」が、世間でクールビューティーと呼ばれる中谷美紀の表情には、やはり怠惰や弛緩とは全く逆のストイックさが浮かぶ。おそらく彼女は、あるときから自己の内面にベクトルを向けた、美意識の求道者になったのだ。

女優とは、自分と無縁の感情も表現できる人

……映画とファッションとイケメンを愛する後輩女子のB子が言いました。

「いやー河崎さん、放送のたびに世間をかき回した金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』が終わりましたねぇ。私もう、木村多江さん演じる抑圧された専業主婦の茄子田綾子にほんとイライラ&戦慄していたんで、最終回の意外な展開には『そう来るのか〜』って腰が抜けちゃって……」

河崎:別の人からは「イライラの置き場所に困る」という感想も聞きましたよ(笑)。主人公たちの年齢設定が40代(玉木宏さん演じる秀明は39歳)ということもあって、家庭を持つ大人たちのドラマという触れ込みでしたね。事前に女性100人へ女の本音をリサーチしたというだけあって、特に中谷美紀さん演じる普通の主婦・佐藤真弓の設定や心情など、細部がとてもリアルだったのが印象的です。

B子:佐藤真弓・秀明夫妻と、ユースケ・サンタマリアさん演じる茄子田太郎・綾子夫妻が、秀明と綾子が陥った不倫をきっかけにクロスオーバーしていくんですよね。佐藤夫妻のどこにでもあるような家庭という描写に比べて、モラハラ夫と過剰に抑圧された専業主婦妻との茄子田夫妻の異常っぷりが際立っていましたね。いやー、今どき「貞淑な妻」なんて抑圧が突然爆発した時のエネルギーって、ホラーですね!

河崎:私は茄子田太郎・綾子夫妻の非現実的そうに見える設定が、むしろ現実の人々の感情をもっとも細部まで描き出し、視聴者の感情も引き出していることに感心していました。

実はちょっと、リサーチの成果としてリアルに作り込まれた佐藤夫妻には鼻白む場面も多々あって。現実に寄せれば寄せるほど、現実に生きている視聴者からは「あるある! わかる〜」なんて共感と同じ分量で「(私の場合は)そうじゃない」という個々の反論や解釈も芽吹いてしまうから、加減が難しいですよね。茄子田夫妻の現実離れして個々のリアルを拾わない「どフィクション」の方が、かえってメタファー的に自由にリアルを表現したり示唆したりできるものなんだなと発見したのが、個人的な収穫でした。

B子:放送終了後は「本当は茄子田夫妻が主役だったのでは?」なんて意見も出ていましたよね。佐藤夫妻の方では、秀明の情けなさも視聴者からの同情を一切引けないレベルでコミカルに振り切っていました。でも秀逸だったのはやはり、あの中谷美紀さんが口に出さずに激しくディスる、心の声ですよね〜。本人はきっとそういう感情とは無縁で暮らしているんじゃないかと思えるだけに、女優さんってすごいなと。

「失敗が怖い」タイプの完璧主義とは違う、中谷美紀の完璧主義とは

河崎:中谷美紀さん本人は、「ひとり」を追求する美意識の女優という印象です。同世代ですが、デビュー時からひときわ目を惹くクールビューティーということもあって、他とは一線を画すアート志向を感じさせる人でしたよね。坂本龍一さんとの音楽のお仕事のあたりからドライブがかかった気がします。

B子:恋の噂も多くありましたよね。ミュージシャン、俳優、海外の音楽家……。どんな人と噂になってもなんとなく彼女らしさを感じるというか。

河崎:彼女の芸の幅が付き合った男性たちの風味をどんどん上乗せして広がっていったことを考えると、女優のキャリアというのは付き合った男性たちの歴史でもあるなーと思わされます。公私の生活が一体となって表現活動をしているのが、アクターという職業ですよ。

B子:2016年のドラマ「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」(TBS系)の記憶も新しいですが、もしかして、割と恋愛面はこじらせてきている……?

河崎:男たちの風味を全部自分のものにして、「こじらせ」にも、ましてや「負け犬」の印象にも着地させていないのが、彼女のすごいところなんですよ。いろいろな経験を積んだ彼女にとっては、生きることすべての底に美意識が流れているんだと思います。本当に多岐にわたって情熱の対象があり、挑戦し続けている。中谷美紀さんの完璧主義は、他人の目を意識して「失敗が怖い」と間違いの排除に躍起になる完璧主義とは全く逆のベクトル。超然と、自分の中へと究極的に向けられたベクトルなんですよね。だからあのストイックな表情が生まれているのではないでしょうか。

B子:姿勢よく美しい着物姿にも定評がありますよね。あと、糖質を受けつけない体質だそうです。常に自分と向き合い、まるで修道僧のよう……。彼女の挑戦は「まだまだ自分は成長できる。まだ見ぬ自分がいるはず」と未知への好奇心に溢れているような気がします。

河崎:先ほどもちょっと触れましたが、アラフォー独身女性を「負け犬」と評したかつての価値観の先を提示し、一人で生きることをカッコよくした女優さんです。ある意味もっとも同時代的な女優さんではないでしょうか。彼女のような上司がオフィスにいたら、私たちは彼女の潔い努力を尊重して、ついていけますよね。彼女の厳しさは他人じゃなくて自分に向けられたものだとわかるから。そこに嘘がないから。

中谷美紀さんのファンは、彼女のクールビューティーだけでなく、ストイックな生き方も含めて憧れていますよね。ストイック女子は、中谷美紀の姿を見て感動で泣き、その背中を追って走る、と。

B子:人生100年時代を生きる女子たちですからね。人生ってやっぱりマラソンメタファーなんですね……先は長いです。

河崎:今や結婚なんて、いつしたって、しなくたっていいんですよ……60代で初婚という人も出るご時世なんですから。人生100年時代は、もう時間軸が今までとは違うの。規格が変わったんだから、古い定規は捨てないとね。

(河崎 環)

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あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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