『ボクたちはみんな大人になれなかった』文庫本発売記念

辻褄の合わない彼女たちを包みこんでくれるのはいつだってボクたちだった【maegamimami】

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辻褄の合わない彼女たちを包みこんでくれるのはいつだってボクたちだった【maegamimami】

2017年6月に発売され、累計発行部数8万部超の燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)の文庫版が11月28日に発売されました。文庫版の発売を記念して、ウートピではドラマのポスタービジュアルや雑誌や広告などで活躍中のイラストレーターのmaegamimami(マエガミマミ)さんに書評を寄稿いただきました。

ボクたちはみんな大人になれなかった文庫カ

「走馬灯」

忘れられないいくつかの光景を思い出している。

それらは全て写真に残っていなくてあたしの脳裏に焼きついてるだけだから、いつか忘れてしまうような気もするけれど。

特別じゃない日の方が多い。大抵の毎日は、さみしくて退屈で少し悲しい。

その時あたしはリビング窓際ソファの上、夏の手前の匂いがまじった風を浴びてた。amazonから届いた小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を開いたのは夕暮れ前で、気づいたら窓の向こうに月。

明るいうちに点けておいた小さな間接照明の光だけ浴びて、最後のシーンを読み終えたまましばらくソファにうずくまっていた。

ボクとかブスな彼女とかスーとか関口とか七瀬とか、小説の中の登場人物がこぼしていった感情の欠片(かけら)みたいなのが部屋中に散乱している気がして、あぁ掃除しなくちゃとぼんやり思った。

この中には、ふたを閉めて向き合わないようにしていたあたしのどうしようもない思い出や未解決の案件が混ざっている。こんなにこぼしちゃった、どうしたらいいのと。

***

以前、大好きなカメラマンが「ボクは全て煙に巻きたいんだ」と言っていた。

すてきなこというなって赤ワイン越しにその人の表情をインプットした。どこまでが本当でどこからが作り込んだ嘘なのかわからない彼の写真が好きだった。

そこに写っている女の人たちはみんな共通して寂しそうで、口元は無邪気に笑ったまま泣く寸前の瞳でこっちを見ている。

ほんとうの姿だなぁと思う。女の人ってこんなだなぁって。たいてい辻褄が合わないし、簡単そうに嘘をつくし、寂しい瞳のまま微笑むし。

きっと突然、一足先に大人になったみたいな顔を見せて去っていく。今までのこと、全部忘れちゃったと言わんばかりの横顔を残して。

でもそこにはきっと理由があったと思うんだ。強がりや誰にも告げない彼女の彼女たちの、何かを諦めたり、腹をくくったり、自分に不誠実になったり、守りたいものが欲しくなったり、他力本願になったりの、支離滅裂な感情の中に「ボク」に伝えられなかったほんとうの想い。

辻褄の合わない彼女たちをまるごと包みこんでくれるのはいつだってボクたちで、グズでダサくて冴えない夢ばかりみているボクたちに、悔しいけれどあたしたちは多分——。

ボクたちはいつも彼女たちが本当に欲しいものに気づいてくれない。勝手なことばかり口走って彼女たちに夢ばかりを置いていく。

でも、そんな彼らに都合よく抱きしめてもらいたくなる自分の罪を彼女たちはよく分かっている。「君はそのままでいて」と“私”を託すズルさも。

だから、去るんだ。

小説の中の最愛のブスな彼女にも、バーテンダーで風俗嬢のスーにも、そんな不甲斐ないものが宿っていたかな。暗闇の中、ボクの胸に顔を埋めて呼吸していた彼女はその時どんな瞳をしていただろう。ボクを背中で見送ったあと、寝そべったままのスーの頬に涙はツーっと流れ落ちただろうか。

彼女たちに聞いても、わかってたまるかと煙に巻くかもしれないけれど。

***

窓からのぬるい風がぴたりと止まる。部屋中に散乱した感情の欠片が小説を読み終えたあたしの足元にゆっくりもぞもぞ集まってきた。

あの人にとって自分は何だったのかとか、ならば自分にとってあの人は? とか。それが恋でなくても。

映画監督目指していた昔の同僚はいつしか教師になっていた。途絶えた年賀状のやり取りのその先をあたしは知らない。

いくつものあの頃の大切なあの人たちが顔を見せては去っていく。

今もしかめっ面かな、再婚は上手くいったのかな、ピアノは弾いてるかな、小説は仕上がったのかな。

まだ毎日泣いてるかな、まだ若さを引きずっているのかな、まだあの町に住んでいるかな。まだ、息をしているのかな。

はじまったら終わるんだってことを毎日生き抜いていくたびに知る。たくさんのさよならをくり返してここに辿り着いてる。

彼らによって刻まれたそれぞれの傷跡は、今朝もあたしと共に目を覚まして地団駄踏む足元を支えてる。

***

読み終えて数分後、あたしは燃え殻さんにDMを送った。散らかったままの感想を身勝手に。

その後、これはどこまでが真実でどこからがフィクションですか? の問いに何度も答えてもらっている気がするけど、答えは未だ煙に巻かれたまま。

小説の中、彼女が「へへ」で誤魔化した別れの温度も、スーがたった三文字に託した愛の言葉も、もしも本当にそのシーンが存在していたとするならば、この物語が世の中に飛び出した瞬間に浄化して成仏したんじゃないかな。

***

ずっと隣にはいられなかったあの頃のあの人たち。季節の風とか煙草の煙の匂いとか屋上からの夜景を見た時なんかに私はきっと。まだきっと思い出す。

残っているのは出来事の記憶だけで、さぁ、さっぱり違う自分だわといつかぜんぶ忘れるかもしれないけれど、それまでは。

未練振りかざして何が悪い? ないものねだりの尊いあの頃。

個人的な記憶をいとも簡単に呼び覚ますこの物語は、今日も誰かのポケットの中。君のことが好きだった。

(文・イラスト:maegamimami)

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辻褄の合わない彼女たちを包みこんでくれるのはいつだってボクたちだった【maegamimami】

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