ファンクラブも登場! 韓国で中年女性同士の恋愛を描いた映画がヒットした理由

ファンクラブも登場! 韓国で中年女性同士の恋愛を描いた映画がヒットした理由

韓国の映画やドラマは、詩的でロマンティックなラブストーリーの宝庫。でも、『ユンヒへ』(公開中)のように、中年の女性同士の愛を描いたものは少ない。

2019年に韓国で公開されると、ファンクラブまで誕生するほど女性たちの熱い支持を獲得した『ユンヒへ』。監督は、これが長編2作目となる韓国映画界の新鋭イム・デヒョンさんだ。制作当時30代前半という若い男性監督が、中年の女性同士の恋愛を描いた映画を成功に導けたのは、なぜなのか? この映画に込めた思いを聞いた。

イム・デヒョン監督

イム・デヒョン監督

アナログな「待つ」恋愛が成立する中年世代

韓国で暮らすシングルマザーのユンヒ(キム・ヒエさん)のもとに、初恋の女性ジュン(中村優子さん)から手紙が届く。それを読んでしまった娘のセボム(キム・ソヘさん)は、母をジュンが暮らす北海道・小樽の旅に誘う。小樽にやってきたユンヒが向き合う二十年前の想いと、自分自身の本当の気持ちとは……。

イム・デヒョン監督は、女性ふたりの静かな愛を、手紙という媒体を使って綴(つづ)っていく。性的指向が原因で差別され、自分をひた隠しにして生きてきたユンヒと、彼女の背中を押す娘。自分は一体何者なのか、問い続けながら生きてきたジュンと、彼女に寄り添う伯母。世代を超えた女性たちの連帯をとらえる目線も温かい。

——『ユンヒへ』のように中年女性が主役のすてきな恋愛映画は多くありません。どうして中年女性の愛を描こうと思ったのですか?

イム・デヒョン監督(以下、イム):もともと中年の世代の人たちに関心を持っていました。例えば、今の若い人たちの恋愛は、デジタルのメッセージやメールですぐ思いを送ってしまいますよね。誰かを待つということを、あまりしなくなったと思います。

私の両親の世代では、まず手紙を送って相手からの返事を待ち、断られると、二度目に求愛するまで再び待つというようなやりとりがあった。恋愛がゆっくりしたスピードで進んでいった時代だと思うんですよね。まさにアナログ時代の恋愛です。そういう恋愛のやり方に関心を持っていたので、アナログ時代の雰囲気を描きながら、自分が語りたいものを映画の中に込めてみたいと思いました。

ユンヒへ/サブ3

——日本では、ユンヒやジュンのように40代から50代前半の世代は、就職氷河期に社会に出て経済的に苦労を強いられている人も多く、LGBTQの話も今ほどオープンにできなかった世代です。さまざまな生きづらさを抱えながらも、声が拾い上げられにくい層だと感じるのですが、韓国ではいかがでしょうか?

イム: LGBTQを取り巻く環境は以前より良くなったとはいえ、韓国でも依然として、自分の性的アイデンティティを隠さなければいけない人は多いですね。やはり、いまだに社会の姿勢がそうさせたり、差別が存在するからだと思います。

ユンヒたちの世代のクィアの人たちは、自分の性的アイデンティティを表明するなんて考えられないような時代を生きてきたわけですよね。それだけではなく、自分自身の存在や個性すら表現することが難しい、生きづらい時代だったと思います。

今の若いLGBTQの人たちは自分たちの権利を勝ち取るために頑張っていますし、抑圧を受けることも以前より少なくはなりましたが、実は社会的な空気が変わっただけで、法的制度が変わったわけではないんです。そういう状況を見ると、まだまだ進歩していないなと思います。

ユンヒへ/サブ1

中年女性が自ら自分の道を見つけていく物語

——若い頃なら恋愛対象が誰であっても、思い切って突っ走ることができるかもしれませんが、ユンヒやジュンの世代になると、それぞれ家庭や仕事など、さまざまな関係やしがらみの中で身動きが取りづらくなっていると思うのです。『ユンヒへ』は、そのあたりをすごくうまく描いていると思いました。

イム: ジュンは日本人の父を持ち、20年以上前に韓国から日本に帰ってきたという設定です。日本で大学に通い、その後、獣医師になって動物病院を経営しています。家の中を見ると、本もたくさんあります。一方のユンヒは、高校を卒業後、早くに結婚して子供を生み、工場の調理師として働いている。それを見ただけで2人の性格もライフスタイルも違うと分かると思います。

2人がやりとりする手紙のトーンも、性格やライフスタイルの違いから異なるスタイルになるだろうと考えて、脚本を書く時に書き方を工夫しました。ジュンのほうは、心の中の思いをつづる媒体として手紙という手段を選び、いかにも教育を受けた人だということが分かる整った文章で書いている。一方、ユンヒのほうは、洗練されてはいないけれど、ストレートに気持ちを表現するというスタイルで書いています。

職業に対する考え方も2人は違います。ユンヒは、ジュンのように夢に向かって進んでいって職業をつかみ取ったわけではなく、結婚した後に自分ができることを仕事にした。自分が何をしたいのか、何になりたいのかではなく、生活に必要だから働いてきた。でもジュンと再会して、自分が本当にやりたいものは何なのかと考えるようになります。彼女の性的指向に偏見を持つ兄が紹介してくれた仕事ではなく、自分の道を見つけて、自分で選んだ仕事をしようとしていきます。

——40代になるとなぜか「人生後半戦」みたいな錯覚に陥りますが、実際、まだまだ先は長い。ユンヒの行動に勇気をもらえる観客も多いのではないかと思います。

イム: 今の言葉を聞いて、ジュンの伯母のマサコ(木野花さん)の、「雪は、いつやむのかしら」というセリフを思い出しました。

(小樽の)雪は、ずっと降り続けるものですよね。おそらくマサコは小樽でずっと雪かきをしながら生きていくことになるし、雪かきは続くと分かっている。「雪は、いつやむのかしら」というのは諦めではなく、「たとえ雪が降っても、雪かきをし続けながら生きていくように、しっかりと生きていく」という決心を表したセリフでもあるのです。

ユンヒへ/サブ7

「男女はこうあるべき」という「性別二分法」から脱却したい

——脚本を書いた時、性別の違いは一切考えなかったのか、あるいは「女性の気持ちってどうなんだろう?」と考えながら書いたのか、どういうアプローチをされたのですか?

イム: 私自身は生物学的な男性として生まれていますので、女性を描くということに対しては、アプローチするときに慎重になったのは確かです。ただ、そうは言っても、女性は身近で、決して遠く離れたところにいる存在ではないので、考え方や気持ちも私とそう違いはないと思っています。人の感情というのは、どんな性的アイデンティティを持っている人でも、普遍的だという気持ちでアプローチしていきました。

「男はこうあるべき。女はこうあるべき」と分ける性別二分法がありますが、そこから脱却したいという思いもありました。性別二分法などという考え方は、生まれつき人が持っているものではなく、子供の頃から社会の中で教え込まれて身につけていくことだと思うのです。

それに、クリエイターであれば、どういう人物でも作り上げなければいけないと思っています。ただ、慎重になりすぎて、自分が語りたいことを語れない状況になるのは避けたいとは思いますね。

メイキング風景

メイキング風景

■映画情報
『ユンヒへ』
2022年1月7日(金)より全国公開
配給・宣伝:トランスフォーマー 
Twitter:@dear__yunhee
公式サイト:transformer.co.jp/m/dearyunhee
(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

(聞き手:新田理恵)

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