「日本人の10人に1人が抱えている甲状腺疾患。うち9割は女性です。特に30代に入ると、女性の発症率は高まります」そう警告を鳴らすのは、内分泌代謝内科医の会田梓(あいだ・あずさ)先生。
「実は甲状腺トラブルは、妊娠・出産する時にリスクにつながる可能性があります。『いつか産みたい』を考えているなら、日頃から自分の甲状腺の状態を知っておくことが大切」なんだそう。シリーズ第3回は、妊娠・出産と甲状腺ホルモンの関係について聞きました。
第1回:甲状腺の病気、9割は女性がかかる。知っておきたい基礎知識
第2回:バセドウ病の5割は20代、30代の女性。意外に身近な3つの「甲状腺の病気」
流産や早産のリスクが高まる可能性も
——ずばり、甲状腺トラブルは妊娠・出産にどのような影響があるのですか?
会田梓先生(以下、会田):甲状腺ホルモンに異常をきたしていると、流産や早産の危険が高まるほか、胎児の臓器形成に影響を与えます。そのため、妊娠と診断された時点で、かならず甲状腺ホルモンの数値を調べます。
妊娠の初期症状として、ホルモンが出過ぎる甲状腺機能亢進症があらわれるケースがありますが、一過性の症状であれば、しだいにホルモン値は落ち着いてきます。妊娠時の甲状腺ホルモン異常が一時的なものなのか、もしくは本人も気づいていなかったけどバセドウ病なのか、きちんと見極めることが大切です。
——バセドウ病の人は、妊娠・出産に関してリスクが高いということでしょうか?
会田:本来、バセドウ病の方は妊娠前に甲状腺ホルモンを安定させる必要があります。数値が高いまま妊娠してしまうと、流産や早産の確率が高まってしまうからです。また、バセドウ病の薬の中には妊娠したい場合には薬の変更が必要な場合があるので、妊娠を考えている方は早めに医師に相談しましょう。
妊娠してからバセドウ病とわかった場合も、適切な治療を受けホルモンバランスを整えることで妊娠を継続できるので、不安になる必要はありません。
妊娠中に薬でホルモン値を正常にすればOK
——第2回で教えていただいた橋本病は、バセドウ病とは逆に甲状腺ホルモンが減少する病気ですが、橋本病に関しては妊娠・出産のリスクはないんですか?
たとえ橋本病でなくても、妊娠によって甲状腺ホルモンが低下するケースは多々あります。その場合、甲状腺ホルモン剤(一般名:サイロキシン 商品名:チラーヂンS)を飲むことで甲状腺ホルモンを増やし、バランスを整えます。ホルモンが低下したまま妊娠を続けると胎児の知能、発達に影響を与えると言われているので、薬での治療は必須です。チラーヂンSは妊娠中や授乳中も服用可能な薬です。
いずれにしても、甲状腺ホルモンの数値を正常*にコントロールすれば、妊娠・出産になんら支障はありません。妊娠すると定期的に検診があるので、不安な場合はその都度、医師に相談してみてください。
*妊娠中は非妊娠時と異なる甲状腺機能の目標値が設定されています。
甲状腺トラブルが不妊の一因になることも
——母親がバセドウ病や橋本病を抱えていると、胎児に影響はありますか?
会田:甲状腺疾患は遺伝性があるため、子どもにも影響する可能性はあるでしょう。ただし、日本の場合は出生時にかならず甲状腺ホルモン値を調べますし、母親の甲状腺に異常がなくても4000~6000人に1人は子供が先天的は甲状腺機能低下症(クレチン症)にかかって生まれます。けれど、妊娠中の母親が必要なだけチラーヂンSを服用し、生後すぐに治療を始めれば、知能の発達へ悪影響を及ぼすことはほとんどありませんので、安心してください。
——ちなみに、甲状腺異常は不妊の原因にもなるのですか?
会田:一因としてあると思います。甲状腺ホルモンが減少すると冷えやむくみ、月経不順につながります。体がそのような状態だと、どうしても妊娠しにくくなる。甲状腺ホルモンが減少している人が、甲状腺ホルモンを増加させた結果、妊娠したという例もあります。
妊娠によって甲状腺疾患が発覚することも少なくありませんが、できれば妊娠する前に甲状腺ホルモンの数値を調べ、正常な状態で妊娠することをおすすめします。
最終回は「甲状腺疾患の予防方法」です。
(塚本佳子)