最愛の人との死別、老い、そして“一周回って”突き刺さる「ありのまま」の私…『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な今の私』

最愛の人との死別、老い、そして“一周回って”突き刺さる「ありのまま」の私…『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な今の私』

「ブリジットはいない」なんて思っていたけれど…

世界的に大ヒットした映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)の公開から四半世紀。当時ヒロインと同世代だった女性たちは「これこそ、私たちの映画」と歓喜した。

自分もそんなファンの1人だが、少なくとも自分のまわりに“ブリジット・ジョーンズ”は1人もいなかった。コリン・ファースとヒュー・グラントという英国2大美男子と恋をし、楽しい友人たちに囲まれ、ドジだけど実はとても優秀で、やりがいのある仕事に就いている。うっすら「実はブリジットって別世界の人間よね」と思いながらも、いつもテンパっていて、空回りしがちで、頭の中がぐちゃぐちゃなまま人生をばく進する彼女に確かに共感し、勇気づけられながら、続編の2作目、3作目と一緒に年を重ねてきた。

©2025Universal Pictures

そんなシリーズの完結編となる『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な今の私』(マイケル・モリス監督)が現在公開中だ。

シリーズも4作目くらいまでくると、最初の物語のスピリットは失われ、惰性で見るようになってしまうことも多い。『ブリジット・ジョーンズの日記』とはいえ、同じ轍を踏むことになるのでは? しかも、大好きなマークが亡くなっているという設定は原作どおりらしい……と、正直大きな期待を抱かずに見に行ったら、共感度においてはシリーズ最高、忘れられない1本になりそうな作品に仕上がっていた。「別世界の人間」だなんて思っていてごめんなさい。

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「実は生きていた!」ダニエルが教えてくれること

前作『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』で妊娠が発覚し、最愛の人マークとついにゴールインしたブリジット。2人の子供に恵まれ、幸せに暮らしていたが、マークは4年前、人道支援活動中に殉職してしまった。

最新作『~サイテー最高な今の私』では、ブリジッドは悲しみを引きずりながら2人の子育てに追われるシングルマザーになっている。登下校の送り迎えをする時ですらパジャマを脱がない暮らしを続けているブリジットに、このままではいけないと友人や周囲の人は仕事復帰を勧める。

そうした助言や支えもあり、テレビ局のプロデューサーの仕事に復帰したブリジット。一歩踏み出してみた途端、魅力的な男性との出会いも訪れ、久しぶりの恋の予感に心をときめかせる。彼女の暮らしは一気に彩りを取り戻していくが……。

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恋といえば、前作では飛行機事故で亡くなったことにされていたダニエル(ヒュー・グラント)が、「実は生きていた!」ということで再登場。親密な関係だったこともあるブリジットとは何でも話せる友人になっている。貫禄がついてずいぶん丸くはなったが、プレイボーイぶりは健在。しかし、大勢の美女に囲まれてきたダニエルも寄る年波には勝てず、自分に残された人生の時間を実感し始める。

寂しさに襲われるダニエルに、筆者は初めて親近感を覚えた。年老いて何をするのもままならなくなったとき、手を差し伸べてくれる人は、この世に何人いるのだろう?  プレイボーイのダニエルと問題の質は違うが、「友達100人できるかな♪」なんて歌に「無理無理」とツッコミを入れながら生きてきた筋金入りの内向型人間なので、人生の幕引きでできれば避けたいパターンをいろいろ思い描いては、友達を持つことの大切さを痛感しているところだ。多くなくてもいいから、支え合える誰かがいてほしい。

話がそれたが、ブリジットやダニエルのように、大切な人との別れや老いや死への不安は避けて通れない。必ず向き合わなくてはいけない未来におののきながらも、生活は続いていくのだという現実をこの映画は突きつける。これから先、どうなるのかは誰にも分からない。情緒がぐちゃぐちゃでも、誰かと支え合いながら、ぐちゃぐちゃなままで今を生きるしかない。

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中年になって向き合う「ありのまま」の自分

『ブリジット・ジョーンズの日記』を多くの女性たちが支持した理由の1つは、「ありのまま君でいい」という夢のようなメッセージを映画から受け取ったからだろう。正直、この手のメッセージに対しては、努力をしないことや自堕落を極めることの口実にされているような気がして懐疑的だったのだが、人生半周して、今こそ心に刺さっている。

中年にもなると体にガタがきて、否が応でも生活を変えていく必要に迫られる。「ああしろ」「こうするべき」という助言や情報が入り乱れて、正解などないように思える。結局、生き方を決めるのは自分自身。ありのままの自分の心に問うしかない。

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お酒とタバコを愛し、下ネタで盛り上がり、セックスにも奔放で、暴飲暴食も日常茶飯事。そんな新しいヒロイン像を描いて一世を風靡した『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ。最新作で再会したブリジットは、きらきらママ友にマウントを取られても、たぶん死ぬまでそれがセクハラだと理解できない保守的な人々に不躾な言葉を浴びせかけられても、困ったような笑顔を向けるだけで、胸をはって通り過ぎる。

ブリジット・ジョーンズは、大切な人たちとの思い出や悲しみを胸に、前に向かって進んでいる。きっと頭の中はカオスで、今日も困ったような笑顔を浮かべながら。 同じ時代を生きる女性たちを鼓舞し続けてきたシリーズの着地点は、まさかの“死別と老いに真っ向から向き合うラブコメ”。完結編にふさわしい傑作だ。

©2025Universal Pictures

 

■作品情報
『ブリジット・ジョーンズの日記サイテー最高な私の今』
配給:東宝東和
公式サイト:https://bridget-jones-movie.jp/

(ライター・新田理恵)

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