over30のための甲状腺トラブル入門(第2回)

バセドウ病の5割は20代、30代の女性。意外に身近な3つの「甲状腺の病気」

バセドウ病の5割は20代、30代の女性。意外に身近な3つの「甲状腺の病気」

「日本人の10人に1人が抱えている甲状腺疾患。うち9割は女性です。特に30代に入ると、女性の発症率は高まります」そう警告を鳴らすのは、内分泌代謝内科医の会田梓(あいだ・あずさ)先生。第1回では甲状腺疾患の基本知識について聞きました。

第2回は、一度は耳にしたことがある「バセドウ病」や「橋下病」など、主な甲状腺の病気について聞いてみました。

甲状腺の病気は大きく3つに分けられる

——甲状腺疾患にはいろんな種類があるそうですが、主な病気を教えてください。

会田梓先生(以下、会田):甲状腺疾患は大きく3つに分類されます。甲状腺ホルモンが増加する「甲状腺機能亢進症」、逆に甲状腺ホルモンが減少する「甲状腺機能低下症」、そして甲状腺に腫瘍ができる「甲状腺腫瘍」です。

——歌手の絢香さんが公表したことで話題になった「バセドウ病」も甲状腺の異常による病気でしたね。

会田:はい。バセドウ病は甲状腺ホルモンが増加する「甲状腺機能亢進症」です。つまり、代謝がよくなり過ぎて異常をきたしてしまうんです。主な症状は発汗異常、食欲増加、体重の減少、動悸、手の震え、精神的にはイライラしたり、落ち着きがなくなったりします。また、甲状腺が腫れて首が太くなったように見える人もいます。

症状が更年期障害のホットフラッシュや精神的な不安定さと似ているため、婦人科の受診をすすめられる人も多いようです。その場合、血液検査に甲状腺の数値が入っているので、ここで異常を発見できる可能性はあります。もし入っていないようだったら、甲状腺ホルモン値も調べてもらってください。

バセドウ病の5割は20代、30代の女性

——バセドウ病というと「目が飛び出す病気」「まれな病気」と認識している人が多い気がします。

会田:女性の場合、200人に1人の割合で発症すると言われているので、決して珍しい病気ではありません。なかには「最近目が出てきた、顔が変わった」という自覚症状や周囲からの反応で受診される方もいますが、バセドウ眼症が出る確率はバセドウ病の20~30%とかなり低いんですよ。

バセドウ病発症には遺伝的素因が約80%関与しています。残りの20%が、喫煙、女性ホルモン、妊娠などの環境因子によるもの。また、バセドウ病は、発症者のうち20~30代の女性が半数を占める病気ですが、はっきりとした理由はわかっていません。

ただ、妊娠する可能性が高い年代であることが理由の一つと言えるかもしれませんね。妊娠時には甲状腺ホルモンの数値をかならずチェックするので、その際に異常がわかるケースが多いのです。また、社会的な立場や子育てなど、ストレスの多い年代であることも原因だと思います。

橋本病の半数は遺伝によるもの

——甲状腺ホルモンが減少する「甲状腺機能低下症」というのは?

会田:「橋本病」と呼ばれる疾患です。バセドウ病よりも発症率が高く、女性の20~30人に1人がかかる病気と言われています。

——どんな症状が出るんですか?

会田:甲状腺ホルモンが減ることで新陳代謝が悪くなり、寒がりになったり、冷え性になったり、むくみがひどくなったり、胃腸の働きが鈍り食欲不振に陥ったりします。無気力になる人も多く、心療内科でうつ症状と診断されるケースが多々あります。

また、頭の回転が鈍くなったり、忘れものがひどくなったりする症状は認知機能低下と勘違いされやすく、むくみは腎臓病や心臓病を疑われるケースが少なくありません。他の病気と診断された方で、治療をしているのに改善しない状態が続いている場合は甲状腺の異常を疑ってみましょう。

「首の左右一方にしこりができる」が特徴

——甲状腺腫瘍について教えてください。

会田:名前の通り、甲状腺にしこり(腫瘍)ができる病気です。甲状腺がぼこっと膨らんでくるので、見た目の変化で受診する方が多い疾患と言えます。腺腫様甲状腺腫(良性)は左右に様々なしこりができて全体的に腫れて見えるのが特徴です。バセドウ病や橋本病とは異なり、体調不良といった自覚症状はあまり出ません。

甲状腺腫瘍には良性と悪性の2種類があります。良性の場合、小さいものは経過観察でいいですが、定期的に検査を受けることを勧めます。悪性というのは甲状腺がんということですが、甲状腺のしこりの約20%が癌です。他の癌に比べると、甲状腺癌は進行が遅く、治りやすいものが多いのが大きな特徴です。

正しい治療で、変わらぬ日常生活

——バセドウ病や橋本病は完治する病気なのでしょうか?

会田:バセドウ病は治るケースもありますが、橋本病は残念ながら完治しません。とはいえ、薬の服用によって症状がほぼ収まっている状態を保つことが可能なので、無理なく普通の生活を送ることができます。

バセドウ病の場合、内服治療・放射性ヨウ素(アイソトープ)、手術の3つの方法があります。どの方法を選ぶかは、症状、年齢、社会状況、ご本人の希望によって変わります。

通常、まずは薬で様子を見ます。症状が改善するまでに1、2ヶ月かかりますが、徐々に内服量を減らし、1年半~2年たつと約半数は内服しなくても良い状態になります。薬で効果がなければアイソトープや手術に変更するかを相談します。

アイソトープの場合は、薬より短期間で治りますが、効果が出るまで1年前後かかり、甲状腺機能低下になることがあります。手術の場合はより早く治りますが、甲状腺機能低下になるため、薬を飲み続けなければなりません。

甲状腺ホルモンが不足している場合は、甲状腺ホルモンを服用してホルモンバランスを正常に保ちます。甲状腺機能が正常であれば、治療の必要はありません。しかし、甲状腺機能が正常でも将来、甲状腺の働きが低下したり、一過性に甲状腺ホルモンが過剰になったりすることもあるので、定期的な検査が必要です。

ストレスについては、バセドウ病・橋本病どちらにも当てはまります。バセドウ病も橋本病も原因は自己免疫ですので、免疫反応が強くなるようなことがあると悪化します。ストレス、出産、花粉症、ヨードなどが有名な要因です。

心労は一番の天敵なので、ストレスのない環境を心がけることで薬の量が減ったり、場合によっては飲まなくてもよくなったりするケースもあります。

バセドウ病にしても橋本病にしても、大切なことは定期的に採血をして甲状腺ホルモンの数値を確認すること。そして、医師から処方された薬を正しく服用することで、なんら支障のない日常生活が送れます。

次回は、「甲状腺異常による妊娠・出産への影響」です。

(塚本佳子)

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