「フリマを媒介にしたらお喋りできた」“フツーのババァ”だった私が70歳で起業した理由

「フリマを媒介にしたらお喋りできた」“フツーのババァ”だった私が70歳で起業した理由

70歳で起業した近恵子(こん・けいこ)さんの著書『七十歳ババァ、起業する?』(内外出版社)が、2月に発売されました。近さんは、親友と夫を相次いで亡くし、「この先の人生を有意義に過ごしたい」と一念発起。現在、リヤカーでの移動式リサイクルショップ「Keiちゃん」号を経営しています。

“フツーのババァ”だった近さんが、70歳になったときに考えたことは、「最後を自分らしく生きるには、どうすればいいのか?」ということ。「一人になった今、やっと自立したと感じている」と話す近さんにお話を伺いました。前後編。

「元気が出る」「負けてられない」という読者の声

——『七十歳ババァ、起業する?』を読んで、とても勇気づけられました。

近恵子さん(以下、近):みんな、そう言うの(笑)。「元気が出る」とか、「負けてられない」とかね。私は別に、変わったことをやってないから、「どこがすごいんだろう?」って思うんですけど。でも、しょんぼりするよりは、元気を出してもらったほうがいいからね。

リヤカーで駅前にいると、いろいろな方がお散歩で通るんですよ。「家から一歩も出ないから、しょうがなく散歩で出てきたの」なんて人もいるんです。だから、「毎週火曜は“お散歩の日”って決めて、ここで無駄話しなさい」なんて言ってね。そういう人がたくさんいるんですよ。

——本にも書かれていましたが、“人とのふれあい”を求めている人が多いと感じますか?

近:多いと思います。特に、お年を召した方は、お散歩の途中で寄って、30分とか1時間とか喋っていくのね。ガラクタはもういらないから、あんまりお買い物はしないんだけど、おしゃべり相手が欲しいのよ。私も何もなかったら、家でゴロゴロしてるタイプだから、やっぱりこれじゃいけないなって。家でゴロゴロして何もしないっていうのも疲れるんですよね。気分的に、ダルくて疲れちゃう。

——リヤカーでの移動式リサイクルショップを始めて、一年たったとお聞きしました。振り返ってみていかがですか?

近:今も週に2件くらい不用品の引き取りがあるんですけど、横浜は坂道が多いので、リヤカーを引いていくのが大変で……。だから、坂道が楽に登れる電動三輪車を買いました。駅前まで持ってこられる方も多いですけど、中には「来てちょうだい」っていう方もいらっしゃるので。より可動的に動くために、電動三輪車を導入しました。

それと、不用品の引き取りが2、3件あると、自宅がパンクしそうになっちゃうんですよね。先日も一軒の家から段ボール6箱分を引き取ったので、一部屋がふさがっちゃって……。整理しなきゃと思って、スチール棚を入れて、本棚を動かして、一部屋を倉庫部屋にしようとしてます。来週も、お引越しの方の引き取りがあって、それまでに片付けないといけないので、昨日は大掃除をしてて。やることがたくさんあるので、もうちょっと能率的に動かないといけませんね(笑)。

——ちなみに不用品は、タダで引き取るんですか?

近:「お代はどうしますか?」って聞きますよ。「クリーニング代がかかってるから、いくらちょうだい」という方もいますし。でも、「誰かが使ってくれるんだったら、タダでいいよ」という方が多いですけどね。「寄付します」ということを謳(うた)っているので、「寄付だからお代はいいよ」という方がほとんどです。

小さい商品はリヤカーで、大きい商品はインターネットで出品

——「Keiちゃん」号では、どのような物を売っているのでしょうか?

近:圧倒的にお洋服が多いですけど、何でも売ってますよ。この前は、ダブルベッドをインターネットで出品しました。お年を召した方は、インターネットを使って売買するなんてことはしないので。私が代わりに、インターネットで売って手数料を頂く形でやってます。小さい売り物はリヤカーに乗せるんですけど、ゴチャゴチャなんですよね。そうすると、みんなで引っかき回して「宝探しみたいね」って(笑)。

——それは楽しそうですね。

近:「売る気あるのか!」って怒る人もいますけどね(笑)。「もうちょっと見栄えよくしたらどうなんだ?」「もうちょっと工夫しろ!」って、うるさく言ってくる人もいますし。いろいろな人がいて、結構面白いですよ。

——これまでで、印象に残っている商品は何ですか?

近:卓球台ですね。「ジモティー」で出品すれば売れるだろうけど、子供たちに勉強を教えているボランティアスクールの校長先生と親しくしてて。そこの校長先生に、「卓球台いる?」って聞いたら、「いる!」って言うので、直接ボランティアスクールに持って行ってもらいました。

——今は、週に何日くらいリヤカーで出店しているんですか?

近:リヤカーは、火曜の午前中と金曜の12時~15時半までと決めてます。夏場は暑いので、金曜は15時~18時になりますけど。それよりも早く行ったり、それより長くいたり、予定がない日に臨時で行ったりすることもありますね。リヤカーで行く場所も、今は駅前だけになりました。あちこち借りて出店してみたんですけど、やっぱり駅前がいいかなって。

駅前に出店する近さん

駅前に出店する近さん

リヤカーでの販売は「いろんな人が通るから面白い」

——「Keiちゃん」号のお客さんは、どんな方が多いんですか?

近:9時半ごろに行くと、男の人がパッと寄って、パッと買ったり。仕事に行く前だから、時間をかけないのね。リュックとかバッグなんかを、バタバタした男の人たちが買っていきますね。あと、「趣味で作っている物を売らせてもらえませんか?」って女の人が訪ねて来たり。いろんな人が通るから、面白いですよ。

——常連さんもいるんですか?

近:常連さんはいますよ。ただ私は、顔を覚えるのがすごく苦手なのね。顔と名前が覚えられないの。「この前、あれ買ったじゃない」って言われて、「ああ、あの方でしたか」って。買った物は覚えてるんだけど、顔と一致しないの。だから、常連さんはたくさんいると思いますけど、半分くらいしか覚えてないんじゃないかな(笑)。

ただ、何回も紙袋を持ってきてくれたりする人は覚えてますね。「いらない紙袋でもいいの?」っておっしゃるから、「ビニール袋を買ってるので、紙袋でも頂ければ助かります」って言ったら、せっせと集めて持ってきてくださって。「編み物が趣味だけど、もらってくれる人がいないから」って、作品を持ってきてくださる人もいて。みんなで仲良くやれればそれでいいわって思います。

——なるほど。ちなみに、売上げは順調ですか?

近:売上げはすごく悪いですよ(笑)。だって、ものすごく安いのね。「こんなに安くてやっていけるの?」って言う人が大勢いるくらい安いの。でも、それでも買わないの。ということは、みなさん終活が目の前だから、物を増やしたくないわけ。タオルやボールペンとかの消耗品は買っても、お洋服はもう増やしたくないっていう方が多いので、あんまり売れないですよ。

だから、駅前のリヤカーは、不用品を頂く場所として、「Keiちゃん」号の連絡先として、お店を出してる感じなんです。「今日は寒いから何か着る物はないか?」とか、そういう臨時の人たち向けにいくつか置いてあるくらいで。だから、売れる物より、集まる物のほうが圧倒的に多いんですよ。そうやって集まった物を、大きいフリーマーケットに行って売ってます。

——フリーマーケットでも出店してるんですね。

近:大きいフリーマーケットだと、「何か買おう」という人たちの集まりですから、安くて良い物があれば買っていくので。でも、駅前は、買うことが目的じゃなくて、買い物や散歩のついでに「何かあるかな?」って眺めることが目的なの。だから、駅前のリヤカーは、引き取り専門で出してるようなものなので、売上げはわずかですよ。この前は、売上げが520円だったし、売上げが0円の日もあります。

フリーマーケットを媒介にして人と触れ合っている

——いつもどのように接客されているのですか?

近:私は商売下手だから、お客さんが見てても、黙って放っておくわけ。友達がたまに手伝いに来てくれるんだけど、商売上手でね。お客さんが来ると、「これどう? これどう?」って言って、みんな売っちゃうの。私はボサッと眺めてるだけだから、売れないのね。「売る気あるの?」「オススメしないからダメなんだ」って言われちゃって(笑)。

——それでも、リヤカーで出店し続けるのはなぜですか?

近:いくつか理由があるんだけど、ヒマだからっていうのと趣味みたいなものだからね。それと、経費は自分持ちで、売上げは全部寄付しちゃってるの。だから、ボランティアの気持ちもあって。タダで頂いた物を、自分のポケットに入れるのは気が咎(とが)めるのね。ボランティアでやってるから続くのかな?

私は、遺族年金をもらってるので、ギリギリ食べていくには困らないんですよ。「働かなくても食べていけるんだったら、余った時間は好きなことをしたいな」というところから始めたので。中途半端で辞めるのもなんだから、「10年は頑張ろう」という目標を立ててやってます。家でボサッとしてても、しょうがないじゃない?

——近さんご自身は、飽きっぽい性格だとおっしゃってましたが、10年という目標があるんですね。

近:そうそう。本当は、飽きちゃってるんだよね(笑)。でも、振り返ってみたら、フリーマーケットは10年やってるの。ずっと続けてるわけじゃなくて、ちょっとお休みして、物が集まったら出店してという感じなんだけど……。いろんな人に出会えるから、やっぱり面白いのよね。

——いろんな人に出会えるということが、続けている大きな理由ですか?

近:そうですね。私は友達ができにくい人なの。お話も得意じゃないから、座ってるだけで話しかけてくれるのはすごくうれしいし、ありがたいわ。一日中家にいると、一言もしゃべらないじゃない? 家でボーッとしてても、駅前でボーッとしてても同じなら、駅前のほうが話しかけてくれるからいいんじゃないかな。

それに、フリーマーケットで出店してると、面白がってくれる人が多いのよ。この前は、洋服屋さんが来たんだけど、「値段の付け方がめちゃくちゃでしょ?」って言うと、「そうね。でも、面白いわ」って。古着を買ったら、新しい洋服が売れないわけだから、商売の邪魔にならなきゃいいんだけど(笑)。私は素人だし、目利きじゃないから、ブランド物をよく知らなくて適当な値段を付けちゃうのね。それがめちゃくちゃだから、面白がって買っていく人は多いですよ。

——フリーマーケットの魅力は、“人とのふれあい”でもあるわけですね。

近:そうね。知らない人との会話って、話題に困るじゃない? 私はおしゃべりが苦手だから、初対面の人と何をしゃべっていいのか分からなくて、ずっと黙っちゃうの。でも、フリーマーケットという媒体があると、何かしらの話題が出るわけ。やっぱり、一日一言も人としゃべらない日が続くと、人間おかしくなるでしょう? テレビしか相手がいないわけだからね。だから、フリーマーケットに行くんだと思います。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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