高橋一生さんが恋愛映画で初の主演をつとめ、川口春奈さんが自分らしく想いを貫こうとするヒロインをみずみずしく演じる『九月の恋と出会うまで』(山本透監督)が、3月1日(金)に公開されます。
同名の原作小説(松尾由美著)は、「書店員が選んだ、もう一度読みたい恋愛小説第1位」に輝いた傑作小説。“未来からの声”により命を救われた志織でしたがタイムパラドックスが生じ1年後に志織の存在が消えてしまうと平野は推測。“未来からの声”の主を探すため2人は奔走していきます。
ちょっと不思議なマンションに引っ越してきた“志織”と、小説家志望の隣人“平野”。2人は急速に惹かれ合っていくものの、自分の殻を破れない“平野”の行動が、切なすぎるすれ違いを生んでいきます。
自分の気持ちに素直になればいいのに、行動に踏み出せない。踏み出せないから、自分を取り巻く環境が一切変わらない。“平野”と同じように、自分の殻を破れない人、多いのではないでしょうか?
それでも、抑えられない気持ちは膨れ上がっていく——そんなあなたへ、高橋一生さんと川口春奈さんのインタビューを前後編に分けてお届けします。
過去に価値を与えるのは今しかない
——本作では時間を超えて過去や未来に飛ぶ<タイムリープ>が物語の根幹になっていますが、お二人にとっての「時間」とは何か、まずはお聞きしたいです。
高橋一生さん(以下、高橋):時間には単なる「時刻」と、その人が感じる「主観的な時間」の2種類があって、僕は最近、「主観的な時間」をベースにしたいと思っています。みんなの時間に合わせなければならないということを、あまり意識しなくなってきているのかな、と。
あと、今起きていることに重心を置くようになってきたかもしれません。今の量子物理学だと、過去に戻ることはできないという理論なんです。
けれど、過去に戻れなくても、過去に価値を与えてあげられる今をどう捉えるかが大切だと思っているんです。(一方の)未来は、それをどんなに不安に思ったとしても今を起点にしないと、思い描いた通りにはならない。
過去と未来が包括されて今という瞬間になっているという考えだから、過去がこうだったから未来はこうだ、とは考えずに、現実というものに重心を置くようになりました。
——なるほど。私たちは、過去のダメな自分をもとに未来を不安がってしまいがちですが、その連鎖を断ち切るには「今」を見ることが必要なんですね。川口さんにとっての「時間」はいかがですか?
川口春奈さん(以下、川口):私は1日の長さがとっさに思い浮かんだのですが……24時間じゃ全然足りないです。年々、時が過ぎるのが早くなるので、もっと余裕を持って過ごせたらいいなと思うのですが……。
高橋:反対に、「早く過ぎろ~」という時もありませんか?
川口:それはある! 「公開が待ち遠しい!」とか、何か楽しみにしていることが先にある時は特に。
高橋:そう、本当にわからないと思います、時間の概念って。
川口:精神的なものとリンクしているのかもしれないですよね、体調とも。ただ、仕事をしていると一年ってあっという間に過ぎてしまいます。充実している証だと言えるのかもしれません。
無理して殻を破らなくていい
——映画内での、「自分の殻を破るのに時間がかかった」という“平野”のセリフが印象的でした。その「殻」っていったい何だと思いますか?
高橋:「人からどう見られているのか」「どう思われているか」を意識するかしないかではないでしょうか? 人間の抱える問題って、8割くらい「他人の目」だと思うんです。
“平野”の場合は、“志織”にどう思われているか、距離を置かれてしまうのではないかという不安。それに加えて、自分が自分に向ける厳しい目もあります。そういうものによって本来の自分を覆うようにして作られたものが「殻」なのだと思います。
——“平野”がその殻を破ることができたのはなぜだと思いますか?
高橋:それができたのは、自分の想いときちんと向き合った結果だと思います。(この映画は)自分が本質的に大事にしたいと思っていることを何よりも尊重しなくてはダメだということに“平野”が気づく旅でもあると思うので、“平野”は「殻を破る」という言葉を、そういう意味合いで使っているんだと思います。
——他人や自分の厳しい目線をはねかえすには、まず自分と向き合う。それが「殻を破る」ということなんですね。川口さんは「殻を破った」経験はありますか?
川口:女優としてスキルアップするために、いろいろな役に挑戦して、これまでに見せたことのないような自分を表現したいという思いはあります。そういう意味では、作品や人の縁によって、自分の殻を破る経験があったと言えるかもしれません。
ただ、コンプレックスという意味では私はあんまり「殻」を「殻」だと思っていない部分があって……。そもそも「殻」を無理して破る必要はあるのかと考えてしまうんです。無理に破ろうとして苦しくなるのであれば、破れないままの自分でもいいのかな、と。
今の自分は今しかいないので、仕事も恋愛も、目の前のことに後悔のないように真剣に、でも気負いすぎないように自然な自分でいたいなと思っています。
高橋一生 スタイリスト:秋山貴紀、ヘアメイク:田中真維 (MARVEE)/川口春奈 スタイリスト:壽村 太一、ヘアメイク:笹本 恭平
(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)