映画『パッドマン』対談 第3回

「生理痛で休みます」とは言いづらいけれど…。『パッドマン』がくれる勇気

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「生理痛で休みます」とは言いづらいけれど…。『パッドマン』がくれる勇気

私たちの周りにあふれている「あたりまえ」なこと。けれど、昔はあたりまえじゃなかったかもしれないし、世界ではいまでも悪い習慣が根付いているかもしれません。

長いことこびりついてカチコチになった思い込みは、なかなか取り除くのが難しいもの。そのタブーをかえることに挑んだ男性の実話を元にしたインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。いまだ生理を「穢れ」としてみなす風潮があるインド社会のタブーに挑んだ本作。インドで公開されると同時に「オープニングNo. 1」を獲得し、大きな話題となりました。

ウートピでは、この映画の日本上映を待っていた!という社会学者の田中ひかるさんと、日本上映を決める選定試写の段階から関わっているという、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの後藤優さんの対談を企画。『パッドマン』が私たちの胸を打つ理由とは——?

第3回となる今回は、後藤さんがSNSでの感想をチェックしているところから始まり、性別の区別なく観てほしいという思いについて語り合いました。

田中さん(左)と後藤さん(右)

田中さん(左)と後藤さん(右)

口コミで男性の鑑賞者が増えた

——SNSでは映画を見た人たちの感想も賑わっていますね。

後藤優さん(以下、後藤):ありがたいですね。私も、毎日SNSでみなさんの感想を読んでいます。ほぼ全ての投稿に目を通していると思っているのですが、ネガティブな感想があまり出てこないんですよ。どんな作品でも、ネガティブなコメントが2、3割出てくるのですが……。この状態は、私が担当してきた中で初めてのことです。おかげさまで、口コミでどんどんお客様も増えているんですよ。

田中ひかるさん(以下、田中):それはうれしいですね。

後藤:はい。特に印象的なのは男性の声も多いことです。「ぜひ観るべきだ」とおっしゃってくれていて。

田中:そうなんですね。実際に映画館に足を運ぶ割合として、男性は多いんですか?

後藤:ええ。今は男性が6、7割です。公開直後は女性が若干多かったのですが、回を追うごとに、男性が増えました。レディースデーにはほぼ満席になるので、女性からの人気がなくなったということでもなく。

田中:それはなぜだと思いますか?

後藤:あらすじで生理用品の話だと知って、「えっ、どうしようかな」とためらう気持ちが最初はあったのではないかと思います。けれど、観た人たちの感想を見て、社会的な問題の解決に立ち向かうとか、アントレプレナーシップに興味を持ってもらえたのではないでしょうか。ほかにも初老の方とか、お子さんを連れてきてくれる方もいて。中には「義務教育で観たほうがいい」という声もありましたね。

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いつまで生理の話を「こっそりするもの」にしておくの?

——老若男女みんなで楽しめますよね。

田中:中高年男性の方たちの目にはどう映ったんでしょう。

後藤:弊社の話ですが、公開を決める会議で、上の世代からは若干抵抗がありましたね。「男性がこういうものを観るのはどうなんだろう」と。

——こういうもの……? その発言の意図というのは?

後藤:教育の在り方が関係しているのではないかと私は予想しています。地域や世代にもよりますが、昭和生まれの世代は、おそらく女子だけで初経教育が行われているんです。女子だけ先生にこっそり呼ばれて、「男子は外で遊んできなさい」みたいな感じで。

——私が学生の時も男女別でした。「知ろうとしてはいけない」「秘密を暴いてはいけない」という思い込みでもあるのでしょうか……。

後藤:けれど、私の子どもは男女一緒に受けているんですよ。だから若い世代ほど男性が観るのも抵抗がないのかな、と想像しています。

田中:そこはまだ地域によって差がありそうですよ。まだ女子だけで「おしべとめしべが」とやっている小学校もあります。女子も男子も最低限の知識を学べるようにして欲しいのですが……。

そういえば以前、単行本版の『生理用品の社会史』を出版した時に、男性の友人に送ったら「僕が読んでいいんですか?」と言われました。彼は、その本を読むことが、女性に対して失礼なんじゃないかと思ったみたいです。生理については、知らないふりをするのが紳士的な態度だと思っている方もいらっしゃいます。もちろんそれもありなのですが。

後藤:「女性もそうしてもらったほうが嬉しいはずだ」という態度ですね。恥ずかしい思いをさせてしまうんじゃないか、と。

田中:購入した生理用品を紙袋に入れるのと同じ発想ですよね。紙袋に入れられるのは、コンドームと育毛剤と生理用品だそうですよ。「人に見られたら恥ずかしいだろう」ということですよね。もちろん、透明な袋で堂々と持ち歩きましょうと言いたいわけではありません。羞恥心は人それぞれですから。

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職場で上司に生理のこと言えますか?

——「生理痛なので休みます」とかも当たり前に言えるといいですよね。

後藤:そうですよね。ちゃんと伝えられる、受け入れもらえることが当たり前だというマインドと環境ですよね。『パッドマン』を上映している私たちでも、なかなか「生理痛がひどいので休みます」と男性上司に言えない雰囲気はあります。「言えばいいじゃん。大丈夫だよ」という気持ちは持っているけれど、「やっぱり言いたくない、言えない」という気持ちも同じくらいわかる。

そんな葛藤もこの映画が変えるきっかけをくれるのではないかと私は期待しています。「声をあげていいんだよ。女性が言いづらければ、男性からでもいいじゃないか」と。主人公のラクシュミのように。

田中:生理のツラさについて男性が発信できるようになるのはいいことですよね。ただ、自分のパートナーとか同僚とか友人のケースを絶対だと思わないでほしいなと思います。

——どういうことですか?

田中:生理のツラさは個人差があるということも同時に知っていてほしいのです。生理の症状を「みんな同じ」だと思ってしまうと、パートナーが生理で大変そうにしているのを見て、「女性はみんなこんなに大変なんだ」と他の人のことも過剰に心配して大げさに扱ってしまうかもしれないし、逆に生理が軽い人の様子を見て、「生理痛って大したことないんだな」と生理痛で寝込んでしまう人を「怠けている」と決めつけてしまうかもしれません。

——なるほど。

田中:そういう意味では、女性の中にも分断があるかもしれませんよね。自分にも生理が来る分、生理痛が重い人と軽い人で分かり合えないという分断が。私から一つ提案したいことは、生理にまつわる不調を感じたら、「行きづらい」と思わずに、婦人科を受診することです。鎮痛剤が効かないほどの生理痛でも、低用量ピルが有効なこともありますし、ピルはPMSにも有効です。

こうした情報は広く知られるべきです。生理痛やPMSに悩むことがあったら、婦人科を受診することは自然なことで、一人一人に合う対処法があるんだということを、初経教育で教えることも重要ではないでしょうか。こういう知識は、男性にもぜひ持っていてほしいです。「婦人科イコール妊娠」ではないのです。

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パッドマン 5億人の女性を救った男』上映中

(構成:ウートピ編集部 安次富陽子、撮影:大澤妹)

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