私たち女性をよくも悪くも悩ます「結婚」。
そんな「結婚」をテーマに、江戸末期、明治大正、昭和と不思議な縁でつながる3人の女性たちを描いた歴史エンターテインメントが高殿円さんによる小説『政略結婚』(角川書店)です。
「結婚」をテーマに小説を執筆した経緯や3人のヒロインを描くことで伝えたかったことなど、高殿さんに3回にわたって話を聞きました。
「他人の陣地で戦争しても負けます」
——初めての新聞連載と伺いましたが、連載の経緯を教えてください。
高殿円(以下、高殿):最初は子ども新聞に連載したいと伺っていたんですが、事情が変わって「新聞の日刊連載でお願いできないか」という話になりました。
私の前に連載をされていたのは夢枕獏先生だったので、ひたすら恐れ多いという気持ちでした。
依頼をいただいたときから歴史小説で、というのは決めていたのですが、時代小説をお書きになる作家さんはたくさんいらっしゃる。ここらで本腰を入れて自分の畑を耕さないといけないなあと思いました。
——「自分の畑」ですか?
高殿:なんの準備もせずに他人(ひと)の陣地で戦争しても負けますから。それよりは、自分で土地を耕して畑を作ることから始めたほうが、自分には合っていると思いました。そのほうが敵がいませんしね。
——確かにそうですね。それってほかの仕事もそうなのかも……。
高殿:書く以外の仕事もそうなんじゃないないかなあ。たとえば記者さんでも、他人があまり手を付けていない、珍しい切り口が認められると、仕事の依頼が増えますよね。
これまでに書いた『トッカンー特別国税徴収官ー』*や『上流階級 富久丸百貨店外商部』**は、取材のハードルが非常に高かったんです。けれど、今振り返ってみるとそれがよかった。ハードルが高ければ高いほど、それに挑戦した甲斐はあるんだな、と感じました。
その経験もあって、自分だけにしか書けない、自分にしかできないものはなんだろうって、常に考えるようにしています。自分にしかできないものを見つけて、それに商品価値があるかどうかを冷静にジャッジして、最後に自分の書きたい欲をトッピングする、そんな感じです(笑)。
*『トッカン』シリーズ:税金滞納者から取り立てを行ない、特に悪質な事案を担当する特別国税徴収官の姿を描いた小説。2012年にテレビドラマ化された。
**『上流階級 富久丸百貨店外商部』:百貨店の外商部を舞台にした小説。2015年にテレビドラマ化された。
——まさか最初から仕事論が伺えるとは思いませんでした。
高殿:合戦ものとか、有名な武将をメインに書こうと思っても、先行作品は数え切れないほどたくさんあります。でも、女性の風俗に焦点を当てた時代小説っていうのはなかなかないな、と感じていて、そろそろその山を切り拓いてみたらどうか、と思ったんです。
金沢を舞台にした理由は…「キラキラしているから(笑)」
——歴史小説としては、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』『主君 井伊の赤鬼・直政伝』に次いで3作目だそうですね。小説を読んで、描写が細かく生き生きと書かれていて一体、どんなふうに執筆されてるのだろうと思いました。史料も少ないでしょうし、準備も大変だろうなと。
高殿:不思議と、ライトノベルも時代物もお仕事小説も、やることはいっしょなんですよ。作家になって今年で17年なんですが、まずインスピレーションありきで。
——そうなんですか?
高殿:何を書こうかというインスピレーションから、考えているうちにテーマ性が決まって、タイトルが降ってくるんです。そこまできたら「書ける!」っていう確信に変わる。今回の『政略結婚』はまさにそうでした。
——すごい! タイトルが降ってくるんですね。
高殿:で、そのあとは、マーケティング。
——マーケティングですか?
高殿:どの層に売って、書店さんがどういうふうに売りたいと思うか。それを考えることは、小説の内容にも、装丁などパッケージにもかかわってきます。ほかの作家さんと比べても、私はライトノベルで書いてきた分パッケージにこだわるほうかもしれません。
今回の装丁もかなり凝りましたが、それも、単行本という文庫より価格帯の高い本への付加価値を考えて、必要なことだと思っています。
——今回の『政略結婚』もキラキラしていて素敵な装丁ですもんね。「第一章 てんさいの君」は加賀藩主前田斉広の三女・勇がヒロインです。金沢を舞台にしようと思ったのはなぜですか?
高殿:政略結婚、というタイトルと、三部作の構成が決まったあとに舞台になる場所を探していて、ふと金沢ってキラキラしているイメージがあっていいなあと(笑)。「金」とか「百万石」とかきらびやかなイメージが、タイトルにマッチしているかもと思いました。
あと、私は関西在住なんですが、(特急列車の)サンダーバード1本で大阪から金沢まで行けるのも魅力的でした。いざという時にすぐ取材ができるのはありがたい。伊達家は魅力的だけれど仙台市は遠いし、東京へは出やすいけれど徳川は”真ん中”すぎる、熊本も鹿児島も遠い……となると、金沢がベストかなって。
取材は本づくりにおいて、日本酒の米のようなものです。そういう意味で、金沢はベストな選択だったと思っています。
次回は8月3日更新です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)